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岸見一郎・オンラインセミナー①

2月26日(金)、アドラー心理学の研究家でベストセラー「嫌われる勇気」の著者、岸見一郎先生の講演会をZOOMで聴講しました。

この「嫌われる勇気」という本は2013年に刊行され、100万部のベストセラーになったようですが、僕はその頃読んだきりで、内容はほぼ忘れてしまってました。その代わりと言ってはなんですが、名越康文教授の講義を聞いたり、お二人の共通の師匠である野田俊作氏の著作を読んだりして、自分なりの「アドラー哲学」像を作りつつあります。

そんな中、参加したこのオンライン会は、50名くらいの参加者が岸見先生に直接聞きたいことを投げかけ、これに先生が丁寧に答えてくれるという願ってもない機会でした。

当日は10名くらいの方が質問し、僕も聞きたいことがあったのですが、残念ながら選にもれてしまいました。残念。ここではその質疑応答の中から特に印象に残ったやりとりをお届けしたいと思います。

タテの関係・ヨコの関係

1人目の質問者は、医療現場で働かれている男性の方。
アドラーは人間関係においてヨコの関係(対等の関係)を重視しましたが、ご自身は医師の下で働いている助手の立場で、こういう助手とか看護師とかは、医師と対等の関係を作ることは難しく、どうしても服従する立場(タテの関係)になってしまう。こういう場合はヨコの関係は作れないんじゃないか?と問われました。
それに対し、岸見先生は、「医師の判断が常に正しいとは限らない。場合によってはその判断に周囲にいる人がNOと言えるようにならなくてはいけないのではないか」と答えられました。それはつまり、「ヨコの関係」を築くということに他ならないと。
また「医療チームは上司(医師)の顔色を伺うのではなく、患者のために何ができるかを最優先に考えなくてはいけない」とも語られ、なるほどと思いました。

仕事のやり方を変える

次は、若い企業内研究者からの質問。
入社以来「(おまえは)仕事ができない」と上司から言われ続けているが、どうしても自分のやり方が変えられない、というお悩みでした。
これに対し、先生は「おそらくあなたは、本当は自分のやり方を変えたくない。その理由は、やり方を変えると次にどうなるかを予測できないからだ」と言われ「でもそこを勇気を持って乗り越えれば、自分のやり方を変えることはできる」とおっしゃられました。
アドラーは「人は素質や能力に依存する」という考えを否定し、自分が他人からどう思われているかは気にせず、強い意思を持てば、自分のやり方は変えられる、と主張しているようです。

自分の人生の責任を親に押し付けてはいけない

次は、結婚・出産の考え方について、自分の母親と対立している娘さんの話。
母親は「女性は30歳までに結婚して子供を産むべきだ」という考えを持っており、それを娘さんに常々語っていると。しかし娘さんはそうは考えておらず、自分で自分の生き方を見つけようと試行錯誤している状況のようでした。
岸見先生は「お母さんの考えを理解してあげることは大切だが、そのことと自分がそれに従うかどうかは別問題ですね」と、アドラーがいう「課題の分離」に基づいてアドバイスされました。ここでは勇気を持って「自分は(お母さんの意見に対し)そうは思わない」と表明することが大事でしょうと。もし将来、娘さんがお母さんの考えに不本意ながらも従ってしまい、その後の人生の選択を間違えて不幸になった時、彼女はそのことでお母さんを恨んでしまうかもしれない。しかしそういう場合でも、自分の人生の責任を親に押し付けてはいけない。そのためにも、自分の人生は自分で選択しなくてはいけないのです、先生は語られました。

子供に決めさせる

前の質問と少し似てますが、今度は結婚し子供を産んだ女性が、実家に帰って母親と同居しているケース。
夫が転勤したため、自分の実家で母親と暮らし、勤めながら子育てをしています。自分は子供をできるだけ自由にノビノビさせたいのですが、母親は逆に「あれもこれも」させたくて孫を管理しようとする。娘さんは働きに出て夜の帰りが遅くなることがあり、そんな時、孫たちは部屋の片付けもせず、遅くまで起きているので、おばあさんは孫に小言を言い、娘にも文句を言う。どうしたら良いか?と言うお悩みでした。
先生の回答は「今までの家族におばあさんが加わって新たな共同体に生まれ変わったのだから、その中でどういうふうに生活していけば良いか、お子さんとよく話し合ってください。そして、子供さんがお母さんの方針を選ぶのか、おばあさんの方針に従うのかは、子供さん自身に決めさせてください」と言うものでした。また、先生は「子供さんによっては、おばあさんを選ばれる可能性もあります。その時、娘さんは嫉妬しないことが大事です」とも言われました。あくまで一人一人の主体性を重んじる考えなのだな、と思いました。

コロナ鬱の対処法

次は退職された男性のご質問で、仕事から解放されこれまで自由に過ごしてきたが、コロナ禍で人と会えなくなり外出もままならなくなったため、ちょっと鬱っぽくなられているというお悩みでした。これは私の悩みとも共通するので注目して聴きました。
この男性は(ZOOM画面を見る限り)大変お元気そうでしたが、ご本人は「自分は三密が大好きなので、これを止められるととても困っている」とのこと。仕方なく、読書をしたり、運動に励んだりしているが、何か新しいことをやろうとすると、過去の上手くいかなかったことや嫌なことが「亡霊のように」思い出されて体が止まってしまうと。一体どうすれば良いのか?というご質問でした。
先生は「過去の嫌なことを思い出す目的は何なのでしょう?」と問いかけ、「それはおそらく【今、ここの人生を生きたくない】ということではないか?」と言われました。逆にいうと、「過去の嫌なことを思い出さなければ、(今すぐ)やりたいと思うことは何か?」を自問し、それをやれば良いのではないか?とも言われました。
さらに「コロナ禍も悪いことばかりじゃないです。例えば、普段会っている人の中で、本当に会うべき人を選別する機会になる。それ以外の人は、会うことをお断りしやすくなっているので、これをきっかけに人間関係を整理することもできるのでは?」と語られました。

講演会の最後に、岸見先生は、ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの言葉「人は同じ河に2度と入ることはできない」を引用され、「昨日の自分と今日の自分とは違います。勇気を持って変わることが大事」と結ばれました。

とても学びの多い時間だったと思います。

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