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日米共同訓練に参加する米陸軍「マルチドメイン・タスクフォース」とはどんな部隊?

 現在、九州の陸上自衛隊の駐屯地や演習場を中心に、陸上自衛隊と米陸軍の共同訓練「オリエント・シールド」(OS)が行われている。陸上自衛隊からは約1400人、米陸軍からは約700人が、この訓練に参加している。
 今回のOSの最大の“目玉”は、米本土から「第1マルチ・ドメイン・タスクフォース」(MDTF-1)が参加していることだろう。
 このMDTFとは、いったいどのような部隊なのか? そして、この部隊が日本にやってきて陸上自衛隊と共同訓練を行うのには、どのような意味があるのだろうか?

27日、熊本市東区の健軍駐屯地で開かれた「オリエント・シールド22」の開始式(在日米陸軍公式Twitter)

中国のA2/AD能力を破壊・無力化

 MDTFは、米陸軍が中国やロシアの脅威に対抗するために策定した「マルチ・ドメイン作戦」(MDO)構想の中核を担う部隊で、MDTF-1はその最初の部隊として2017年にルイス・マッコード統合基地(ワシントン州)に配備された。同基地は、環太平地域を責任区域とする米陸軍第1軍団の拠点であり、MDTF-1は主にインド太平洋地域における中国の脅威に対抗するために創設された。米陸軍は、インド太平洋地域にMDTFをさらにもう一つ配備する計画だ。
 中国やロシアと戦争になった時、敵の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力」を破壊するのがMDTFの役割である。中国やロシアは、陸、海、空、サイバー、宇宙など全ての領域におけるアセットを駆使し、紛争地域への敵の接近や自由な行動を阻害するための能力を強化している。これをA2/AD能力と呼ぶ。MDTFは、緒戦において中国やロシアのA2/AD能力を破壊し、米軍のアクセスや行動の自由の獲得に寄与するのである。

奄美大島にHIMARSが初展開

 有事の際、敵のA2/AD能力を破壊・無力化するためのアセットとして米陸軍が特に強化しようとしているのが、ミサイルによる長距離精密火力である。MDTFには戦略火力大隊が組織されており、その下に①HIMARS(高機動ロケット砲システム)中隊②MRC(中距離能力)中隊③LRHW(長距離極超音速兵器)中隊が設けられている。
 今回のOSでは、鹿児島県の奄美大島に米陸軍のHIMARSが展開し、同島に配備されている陸上自衛隊の地対艦ミサイル部隊と共同対艦戦闘訓練(島から洋上の敵艦船をミサイルで攻撃する訓練)を実施する(※ただし、ミサイルの実射は行わない)。日米の電子戦部隊もこれに加わる。
 同様の訓練はこれまでも、九州の陸上自衛隊演習場などを島に見立てて行われてきたが、実際に南西諸島に展開して行うのはこれが初めてである。
 日本政府は「特定の国を念頭に置いた訓練ではない」とお決まりのエクスキューズをするだろうが、実際には、対中有事の際、MDTFのHIMARS中隊が南西諸島に展開し、陸上自衛隊と共同で中国軍の艦船を攻撃する作戦を想定した訓練だと推定される。

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マルチドメイン・タスクフォースの部隊編成

南西諸島が中国軍の標的に

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