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浮島丸事件-新たに10件の乗船者名簿が開示。しかし前回開示された情報も「外務省との調整」で不開示に。

 日本政府が長年「存在しない」と説明してきた浮島丸事件の乗船者名簿が実は存在していた(※私の情報公開請求に対して厚生労働省が開示)というニュースは、韓国で大きな反響を呼んでいます。

遺族団体、日本政府に真相究明と謝罪を要求

 浮島丸事件の遺族団体(浮島丸事件被害者賠償推進委員会)代表の韓永龍(ハン・ヨンヨン)氏は共同通信がこのニュースを配信した翌日(5月24日)に声明を発表し、これまで乗船者名簿を存在しないと偽ってきたことについて、日本政府に真相究明と謝罪を求めました。韓氏は韓国政府に対しても、日本政府が保有する乗船者名簿をはじめとする浮島丸事件の関連文書を早急に入手するよう求めました。
 韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」の沈揆先(シム・ギュソン)理事長も、財団内に浮島丸事件の乗船者名簿に関するタスクフォースを立ち上げる意思を表明しました。

新たに10件の乗船者名簿が開示された

 そんな中、厚生労働省は5月31日、新たに10件の乗船者名簿を私に対して開示しました。
 新たに開示されたのは、海軍三沢飛行場の施設整備工事に従事していた朝鮮人徴用工らの乗船者名簿3件と、海軍から工事を請け負っていた民間事業者が作成した朝鮮人労働者の乗船者名簿7件です。
 3月に開示された名簿3件(海軍大湊警備府の施設整備工事に従事していた朝鮮人元徴用工らの乗船者名簿と日本通運大湊支店が作成した朝鮮人労働者の乗船者名簿など)と合わせて、全部で13件が開示されました。

今回新たに開示された乗船者名簿の一つ
住所、氏名、年齢などの個人情報は今回も全て不開示

前回と異なり、乗船者の総数もマスキングされていた

 今回新たに開示された乗船者名簿を見て驚いたのは、乗船者の氏名、生年月日、本籍地などの個人情報だけでなく、集計した人数もマスキングされていたことです。前回開示された乗船者名簿では、個人情報は今回と同じく全てマスキングされていましたが、集計した人数は開示されていました。
 また、乗船者名簿を作成した業者名までマスキングされていました。これでは、どこの業者の名簿かもわかりません。
 明らかに情報公開が後退しています。

これまでの政府見解と異なるから隠すのは本末転倒

 前回は開示された集計人数や業者名などが今回不開示とされたことに疑問を持った私は、厚生労働省の担当部局(社会・援護局/援護・業務課/調査資料室)に開示・不開示の「線引き」が変わった理由を尋ねました。
 すると次のような回答が返ってきました。
 
「外務省と調整した結果、開示基準を厳しくしました。政府で把握していない数字を開示した場合、説明しなければならないので、取り扱いを慎重にすることにしたのです」

 乗船者名簿を保管しているのは厚生労働省ですが、今回の開示の判断にあたっては外務省とも調整したといいます。韓国などとの関係に及ぼす影響を懸念する外務省が、名簿の集計人数の開示に待ったをかけたことがうかがえます。
 この回答は、乗船者名簿に記載されている人数の集計と日本政府が公式見解としてきた「3735人」という数字が食い違っていることを示唆しています。食い違っていることが明らかになれば説明が必要になる――だから、マスキングしたのだと思われます。
 しかし、日本政府の公式見解と食い違っているから隠すというのは本末転倒です。
 海軍や各業者が作成した乗船者名簿は、全体の乗船者数を割り出す根拠となる貴重な一次資料です。これらの乗船者名簿に記載されている人数の集計と日本政府が公式見解としてきた数字が食い違っているのであれば、それを明らかにした上で、食い違いの理由を検証して説明すべきです。

京都の舞鶴湾に沈没した海軍特設艦「浮島丸」

日本政府は主体的に説明責任を果たすべき

 厚生労働省から私宛に届いた「開示決定通知書」は、乗船者名簿に記載されている人数を不開示にした理由を「公にすることにより、他国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがある」と記しています。
 しかし、日本政府が長年「存在しない」と説明してきた乗船者名簿が存在していたことで、信頼関係はすでに損なわれています。その上でさらに不都合な情報を隠したら、不信が拡大するだけです。
 厚生労働省の宮崎政久副大臣は5月31日の衆議院外務委員会で、「韓国政府からの協力要請があれば、マスキングを外した名簿を引き渡す考えはあるか」との質問(共産党の穀田恵二議員)に対し、「仮定の質問なので答えるのは困難。厚生労働省としては必要に応じて関係省庁と連携して適切に対応していく」と答弁しました。
 浮島丸事件では、戦時中日本に徴用(強制動員)された朝鮮人が500人以上犠牲となりました。これまで存在しないとされてきた乗船者名簿の存在が明らかになった以上、韓国政府は名簿の提供を日本政府に求めるでしょう。
 しかし、日本政府は韓国政府の要請を待つ受け身の姿勢でよいのでしょうか。浮島丸事件の悲劇は、日本が朝鮮半島を植民地支配し、戦争遂行のために多くの朝鮮人を強制動員しなければ起きていなかったことです。その責任を鑑みるならば、韓国政府の要請を待つのではなく、自ら主体的に乗船者名簿を始めとする浮島丸事件の関連文書を開示・提供すべきではないでしょうか。
 存在する文書を存在しないと偽ってきたこれまでの過ちを認め、説明責任を能動的に果たしていくことでしか信頼関係の回復はないと思います。(了)

※以下の記事もぜひお読みください!

政府が「ない」と説明してきた浮島丸事件の「乗船者名簿」、やはりあった!(布施祐仁)

「浮島丸事件」がミステリー化した元凶、日本政府が「ない」と言い続けた乗船者の名簿が見つかった 79年後に開示された資料が語るもの(共同通信・角南圭祐記者)

舞鶴市民が建立した慰霊碑前では毎年8月24日に追悼集会が開かれている



 


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