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VR市場から考える「なぜメタバースは成長するのか?」

「VRブームは終わった」と思っている人も多いのではないでしょうか。実は、USを中心にVRスタートアップは再び盛り上げを見せています

VRデバイスの出荷台数は、全世界で2020年に約1,800万台、2021年に約2,800万台と予想されています。(引用元:CCS Insight

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VRデバイスの関連市場は、全世界で2020年に約7,800億円市場とされており、2021年から2028年にかけてCAGR(年平均成長率)は28.2%と見積もられており、いよいよVRは急成長期に入ったと見られます。(引用元:GRAND VIEW RESEARCH

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この流れを決定づけたのが2021年7月にFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグが「Facebookをメタバース企業にする」と語ったことです。

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ご存知のとおり、Facebookが当時VRスタートアップの代表格だった「Oculus(オキュラス)」を20億ドル(約2230億円)で買収したのは2014年3月のことでした。「Oculus Quest 2」の影響が大きかったと言われる2020年のデータですが、今だにOculusがトップシェアであり、VRの中心的存在であり続けていることを示しています(本稿ではOculusを中心にVR市場を分析・考察していきます)。

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あれから7年が経ち、VR市場は「meta(超越した)とuniverse(世界)」意味する「メタバース(metaverse)」というバズワードと共に戻ってきた、と言えそうです。

VR市場の分析なしに、メタバースの本質は理解できません。そこで今回は、VRで今何が起こっているのかを基に「メタバース」へと続く道について、noteにまとめてみたいと思います。

盛り上がる「VRスタートアップ」の資金調達

下記は、2019年以降の主なVRスタートアップの資金調達状況について、直近のアクティブ度合いを確認するため「最終ラウンドの調達金額のみをまとめた表です。

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USでは、ソーシャルVRの筆頭である「Rec Room(レックルーム)」が$100M(約100億円)、「VRChat(VRチャット)」が$80M(約80億円)と大型調達に成功しています。 その他にもVRゲームとエンタメ施設を展開する「Sandbox VR(サンドボックスVR)」、音楽等のVRライブを展開する「Wave(ウェーブ)」など、エンターテイメント関連のVRスタートアップが目立ちます。

国内でも、gumi創業者の國光宏尚氏が代表取締役CEOに就任して話題となった「Thirdverse(サードバース)」が11.5億円、「MyDearest(マイディアレスト)」が9億円といずれもゲームですが、2021年に入ってから大型の資金調達に成功しています。

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「VRは儲からない」は本当か?

かつて国内スタートアップ界隈では「VRは儲からない」と、まことしやかに囁かれていましたが、本当でしょうか?

Oculus公式ブログ(2021年2月時点)には、とても興味深いデータが公表されています(※以下、$1=100円で表記します)。なんと、1億円以上が69アプリ、10億円以上が6アプリありました。灰色が2020年9月時点、紫色がわずか5ヶ月後の2021年2月時点にて、同社は(あえて)比較してます。

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VRリズムゲームの「Beat Saber(ビート・セイバー)」は発売から約1年半で10億円以上のタイトルとなった、つまり年間5〜7億円のペースです。

VRバトルロイヤルゲーム 「POPULATION: ONE(ポピュレーション・ワン)」にいたってはローンチから数ヶ月で10億円を達成しており、仮に3ヶ月だとすると年間20〜40億円ペースで収益を上げていることがわかります(※追加課金もあるため初回課金比重の低レンジで計算)。

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国内の状況だけ見ているとイマイチわかりにくいと思いますが、USを中心に 「VRは儲からない」というのが誤った認識になってきていることがわかるのではないでしょうか。

では、VR市場の分析から、どこに「メタバースへとつながる道」のヒントを得られるのか? 実は、VRアプリのランキングが、実に示唆に富む内容になっていることがわかります。

「VRアプリのランキング」を読み解く

Oculusには「Top Selling(売上ランキング)」と「Most Popular(ダウンロードランキング)」の2つのランキングがあります。実は、売り上げが高いアプリとダウンロードされるアプリには差があるのです(「ランキング」は2021年8月1日時点のもの)。詳しく見ていきましょう。

Oculus Quest「売上ランキング」

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すぐにわかるのは、2019年リリースが半分を占めるなど古株のVRゲームが多いことです。VRアプリはジャンルを問わず有料アプリが多く、新規ユーザーが定番アプリを購入することで、そのまま売上の上位にもランクインする流れが推測されます(※おそらく上記は追加課金を含まないランキングです)。

一方で、2021年リリースされたゲームも3つランクインしており、新たなVRゲームが生まれ、ユーザーに広く受け入れられていることがわかります。

ところで、「売上ランキングダウンロードランキングに重複してランクインしたのは5つだけです。なぜでしょうか? 疑問を解決するためにさっそく「ダウンロードランキング」を見てみましょう。

Oculus Quest「ダウンロードランキング」

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「ダウンロードランキング」を大きく3つに分類すると下記になります。

①ゲーム:前述のVRリズムゲームの「Beat Saber(ビート・セイバー)」、VRシューティングゲーム「Onward(オンワード)」など、腕を振ったり360度見回すなどのVRらしい動作を取り入れたゲームが人気です。
②コミュニケーション:大型の資金調達を実施している「Rec Room(レック・ルーム)」や「VRChat(VRチャット)」などバーチャル空間上でコミュニケーションを楽しむソーシャルVRアプリが人気です。ランキングには入ってませんが、VTuberライブ「VARK(バーク)」やVTuberとの1対1トークアプリ「ユメノグラフィア」もコミュニケーションのカテゴリです。
③ユーティリティ・その他のエンタメアプリ:ゲーム以外のVRアプリでDLと売り上げの両方にランキングしていたのは、VR空間上でデスクトップ環境を動作させるためのアプリ「Virtual Desktop(バーチャル・デスクトップ)」だけです。ランキング外ですが、写真や動画のビューワーアプリもこのカテゴリに入ります。その他に、ゲーム以外のエンタメアプリとして「YouTube VR」がランクインしています。

この中でも、近年ダウンロード数の上位をキープする「②コミュニケーション」に注目したいと思います。

バーチャルらしい空間体験に訪れる“飽き”

2位の「Rec Room(レック・ルーム)」、4位の「VRChat(VRチャット)」などのソーシャルVRは新たなトレンドになりつつあります。

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いずれもプラットフォーム上でキャラクターを持ち、その世界を歩き回り、友だちとコミュニケーションすることを楽しみます。現実世界の友だちである必要はありません。「誰かと話したい」「交流したい」というソーシャルな欲求がダウンロード数を生み出していると言えます。

また「どこで会うのか」の場所も重要です。「Rec Room(レック・ルーム)」ではルーム、「VRChat(VRチャット)」ではワールドと呼ばれるスペースがあり、実装方法こそプラットフォームによって異なりますが、デベロッパーやクリエイターは自分でスペースを作ることができます。

ニューヨークの街並み、日本庭園のように現実世界をバーチャル空間に移行したスペースがあったり、アニメの風景など現実世界では体験できない空間が存在します。こうした非日常の空間がコミュニケーションを盛り上げているとも言えます。

バーチャルらしい空間体験はとても大事です。しかし、それがずっと続くとどうでしょうか。ニューヨークだろうが東京だろうがエジプトだろうがアニメ空間だろうが、「非日常→日常」に変わる瞬間は必ず訪れます。つまり、静的コンテンツには“飽き”があるのです。

では、ソーシャルVRはどのように進化するのでしょうか?

そのヒントになるのがVRアプリ制作でも大活躍のゲームエンジン「Unreal Engine(アンリアル・エンジン)」を提供する米Epic Games(エピックゲームズ)の人気ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」です。

ゲームではなく、コミュニケーションに課金する

Fortniteは「PUBG」「荒野行動」などと並ぶバトルロイヤルゲームを代表するゲームです。特定ステージの中で、最後まで勝ち残ることを競います。

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もちろん勝利が目的ではあるものの、それだけが目的ではなく、ゲーマー仲間と同じ時間にログインしてチームを組み、会話しながら協力プレイもできます。

友だちと遊んでいるときは「コミュニケーション > ゲーム」に近く、不思議と友だちと会話してる中で他プレイヤーが現れるので、ついでにシューティング(倒す)している感覚になります。

無料でプレイすることができ、課金の要素は「スキン」など自分のアバター(分身)を飾るものであり、それによって敵を倒しやすくなるからではなく、友だちとのコミュニケーションをより楽しむためです。

現実世界だと恥ずかしくてできない髪型にしてみたり、派手な洋服や人気キャラクターのコスチュームを着てみたり、自分の好きな柄の武器を装備してみたり。新しい洋服を着たら友達が気づいてくれるように、髪型を変えたら褒めてくれるように、奇抜なバッグを持ってたら時にはバカにされるように。

勝利をしたときの喜びを仲間と分かち合うには「エモート(ダンス)」がいちばんです。

そんなコミュニケーションのためにゲームをプレイして課金するわけです。

フリーミアム型ゲームにおいて、ひとえに追加課金と言っても、その目的はゲームによって様々です。それらを大きく2つに分類することができます。

効率系:次のステージにチャレンジするために一定時間待つ必要があり、回復アイテムを購入すればすぐにチャレンジできる類の「時短系」アイテム。さらに強くなるためのアイテム(武器・カード等)も含む。ガチャも多い。
アバター系:キャラクターやアイテム・スキンなどで、プレイヤーの分身となるアバターをカスタマイズする。

「フォートナイト」は、ゲームをクリアしやすくするための武器をお金で買うことはできません。それでも多くのユーザーが自分を表現するためにアバター系の課金をすることで約5,000億円もの売上があるとされています(スキン以外の課金を含む)。

「なぜゲームとコミュニケーションは融合するのか?」3つの理由

スマホゲームの歴史では、App Storeが登場した当初は買い切りゲームが主流でしたが、その後にフリーミアム型のゲームが売り上げの上位を占めるようになりました。

その意味では、「フォートナイト」のような基本プレイ無料のゲームが世界中で人気になったのは、当然の成り行きだったのだろうと思います。そう考えていけば、VRも「無料ダウンロード→課金」の順番に変わっていくはずです。

このように考えてみると、VRゲームとソーシャルVRの2つのアプリに面白い変化が生まれます。つまり、買い切りのVRゲームは「コミュニケーション」による追加課金に向かい、逆に無料のソーシャルVRは「ゲーム」に向かうことで課金要素を取り込んでいくのではないでしょうか。

つまり、VRでもゲームとコミュニケーションの融合が加速すると私は考えています。結論として、理由を次の3つにまとめたいと思います。

(1) 世界で急成長する「ゲーム」の先行事例がある

ゲームをプレイしに集まってたつもりが、いつの間にかコミュニケーションするために集まるようになったという事例は「フォートナイト」だけではありません。2021年3月に上場して話題の米ゲームプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」でも同じことが起こっています。

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世界で急成長してるゲームのほとんどは「コミュニケーション」の要素を備えています。今後、VR市場でもこの流れが加速すると考えています。

(2) コミュニケーションにはネタが必要

ずっと同期コミュニケーションし続けるのは、実はハードルが高いことです。そこに適度な「ネタ(コンテンツやサービス)」が必要になります。そのいちばん強力なコンテンツが「ゲーム」です。

もちろん人によっては「音楽」「動画」「アート」などかもしれませんが、それでも収益性が最も高いのが「ゲーム」であることは歴史が証明してます。

(3) 同期コミュニケーションのニーズ増加

コロナ状況下により、2020年からテレワークが増えたことで会話(特に同期コミュニケーション)が減ったと感じる方は多いと思います。アンケートでも出社時と比べ、テレワークでは"会話"や"雑談"が「かなり減った」「減った」と答えた方が70.9%になりました。

VRは同期性に強いデバイスであり、同期コミュニケーションが減った世の中においてニーズが増えていくと考えています。

最後に

VR市場においても今後、「ゲームxコミュニケーション」が大きく成長すると考えます。これこそがデジタルエンターテイメントの未来であり、その先には間違いなく「メタバース」があります。メタバースの定義は人によって異なりますが、その空間における重要なコンテンツの一つが「ゲーム」であることは確実です。

しかしながら、ソーシャルVRの流行を見ると「ゲーム」は必要不可欠なものではなく、一番重要なのは「コミュニケーション」だと感じました。そこに「ゲーム」「ショッピング」「メディア」「ビジネス」など、あらゆるコンテンツが融合されていくのだと思います。

人はコミュニケーションするためにメタバースを使います。

漫画、アニメ、ドラマ、映画、ゲーム、どんなエンタメコンテンツであってもそれをソロで楽しむだけのコンテンツはそこで終わり、コミュニケーション要素を中心に据えたコンテンツ、そしてサービスこそがメタバース時代に輝くことでしょう。

では、メタバースにおけるVRの役割は何か?

剣を振り回したり、手に掴んだものを投げたり……スマホでは体験できない操作性が特長のひとつです。でも、いちばん重要な本質は「没入感(immersive)」があることです。360度を見渡せる視覚、他の誰かになれる3Dアバター、現実世界では成しえないバーチャル体験。

そんな体験をそなえたVRこそがメタバース時代において、コミュニケーションを楽しむ最適なデバイス、コンテンツになるでしょう。

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では、また次回!


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