チート寿司

寿司とはどのような食べ物かご存知だろうか。一応調べてみたところによると、酢で調味した飯に、生、または塩や酢をふりかけた魚などの具を配した料理。とのことである。

全くわざわざ書くほどのことではなかった。

先日、多忙であったり諸々の理由で夕食の準備が億劫になり、たまの贅沢もよかろうと出前の寿司を取った。

たまに寿司が食べられるとなると、やはり少しテンションが上がる。が、そんな僕でも、いつも僅かに思うことがある。
自分は何故この食べ物がこんなに好きなんだろうか。ここまで好きになる要素があまり見当たらないような気がするのである。

寿司というものを目の前にしたとき、いつも一瞬だけ頭をよぎる感想がある。
「一口大の酢飯の上に、刺身が乗っているなあ」というものだ。
いや、なにを当たり前のことを言ってるのだと思われるかもしれないが、伝わるだろうか、「一口大の酢飯の上に刺身が乗っている」という要素の、「それ以上でもそれ以下でもない感」がすごいのだ。

この国においては、好きな食べ物として寿司をあげる人がとても多いように思う。もちろん嫌いな人がいないということはないのだろうが、好き派が多数を占めていること自体は間違いないだろう。
最後の晩餐は何がいいか?みたいなTVのしょーもない質問企画で寿司と答えていた人も多かったと記憶している。
つまり寿司とはそれほどまでに食べ物界の重鎮なのだ。

が、冷静に考えてみてほしい。「一口大の酢飯の上に刺身が乗っている」ものに、それほどの大物感があるだろうか?単純に量も少ないし。

一切れの刺身と酢飯である。
もちろん、うまい。
しかし、刺身、酢飯、それぞれを単体でみたとき、今ひとつパンチ力に欠けてはいないだろうか。食べ物界の猛者、肉類や揚げ物などなどを押し除け最上位に食い込むだけのインパクトを持っているようには僕には思えない。
好きな食べ物ランキングで、刺身が上位にランクインしているのを記憶の限りでは見たことがない。

いやお前それは違うよと、大事なのは組み合わせなんだよと、そう言われるかもしれない。日本の食文化は、米とおかずのハーモニーによって成り立っているのだと。どんなに弱そうに見える戦力でも、「ご飯のお供」という肩書を手にするだけでどこまでも強くなれるんだと。

しかし待ってほしい。寿司という組み合わせの人気ぶりから考えるのならば、「刺身の一切れさえあれば酢飯がいくらでも進むんだ」ということにならねばおかしいではないか。しかし刺身をおかずに素の酢飯を大量に食べられる気がしない。

トンカツ。うまい。
大量の白米。うまい。
卵とじとからめて組み合わせる。すごくうまい。

絶対こっちのほうが戦闘力ありそうではないか。質と量の巨大戦力だ。

ごちゃごちゃと言葉を並べているが、結局何が言いたいかというと、ようは酢飯と刺身にそこまでの破壊力とシナジーがあるように見えないのである。

これがただ一口ぶん組み合わさるだけで一躍この国の覇権を握るのだ。我々はこの奇跡をもう少し重く捉えるべきなのではないだろうか。

と、そんなことを頭の片隅に考えながらも、結局先日の出前も高いテンションのままに一瞬で食べきってしまった。たぶん追加であと一人前くらいはいけた。寿司恐るべしである。不思議は尽きない。

改めて、寿司という食べ物にはこの言葉を送りたいと思う。

『弱パワーで侮られた希少スキル持ち同士が軽く手を繋いでみたら、なぜか一撃で最強に昇りつめた件』

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