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コンビニエンスストアとジム。24時間型の生き残り確率はどれくらい?

2018年にコンビニエンスストア大手のファミリーマートが24時間型のスポーツジムに参入。東京都大田区で開業するジム1号店は、ファミマ店舗の2階を利用して開設。2020年2月現在、都内を中心に5店舗に展開している。

「Fit & Go」

「Fit & Go(フィット・アンド・ゴー)」の名称で展開するフィットネス事業は、月額利用料が税別7900円で、顧客層は20~40代の男女がターゲット。コンビニ業界から全く畑違いのフィットネスジム事業への参入のようにみえるが、ファミマ側の理由は明確だ。

飽和したコンビニ市場で既存店への集客力をいかに高め、維持するか――。従来のコンビニ機能の「かけ算」として目をつけたのが健康ニーズの取り込みだ。

日本生産性本部の「レジャー白書2017」によれば、フィットネスクラブの国内市場規模は2000年に3650億円。それが16年には4480億円まで拡大し、過去最高となった。フィットネスクラブ数もパーソナル(個人)ジムや小型スポーツクラブなどを中心に増加傾向にあり、国民にとって健康志向へのニーズが依然、高いことがうかがえる。

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私はトレーニング指導の専門家として、「コンビニ×24時間型ジム」という掛け算は非常に目のつけどころがいいと感じた。その理由は大きく分けて3つある。

第1に、新規参入に比べて既存店の2階や余剰スペースを用いるスタイルはコスト的・時間的な障壁が低いことだ。24時間型が適している土地を探し、そこで賃貸契約を結び24時間型の専用ジムを設けるのはコストと時間がかかる。フランチャイズ(FC)型ビジネスでは内装コストの削減などでメリットは大きくなる。既存店にジムを増設するという点を考えれば、初期段階でのコスト負担を大幅に軽減することが可能になる。

理由の2つ目は既に集客に関する圧倒的なデータを保有している点だ。大手コンビニグループは、コンビニを開設する際の徹底的なリサーチに始まり、各店舗を運営していく中で顧客の性別や人口分布などのデータを大量に保有している。収益の見込みありと判断されて設置されたのが既存店であり、その中からフィットネスジム併設に適している店舗を抽出するのは容易なはずだ。

そもそも24時間型ジムにしたのも、コンビニの中心客層である20~40代の男女とターゲットが一致していると判断したからだという。数多くの既存店舗の中から、特にターゲット層が多く適した立地に素早くジム併設店を置くことで、ファミマのバリューは大幅にアップ可能性が高い。

3つ目の理由が、おそらく、企業としての最終目標をジム事業の収益に置いていない点だろう。ファミリーマートがジム事業を手掛ける最大の目的は、飽和しつつあるコンビニ市場で集客力を確保すること。ジムと連動させてコンビニでの客単価を高め、さらに周辺コンビニとの差別化が図れれば狙い通りということだろう。オープンから1年程度でジム単体の収益が黒字化し、2~3年かけて初期投資が回収できれば、この取り組みは一定の成功といえるはずだ。

ファミマの目的が集客とその維持であることは、今後参入すると発表した「コインランドリーサービス事業」を考えても明白だ。全く畑違いの業界に新規参入するスタートアップとは、スタート時点の考え方がすでに違う。

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ただ結果的に、ファミマの斬新な取り組みは成功したとは言えない状況になった。

この結論を裏付けるのが、当初の計画とのズレ。スタート時のファミマの発表内容によると、2023年をメドに300店舗のフィットネス併設店を展開したいとのことだった。3年目を迎える2020年現在、5店舗に留まっていることは実験的要素のあったこの取り組みは成功とはいえないことの表れだ。

この原因はいくつか考えられる。

1つには、健康志向へのニーズは高まっているとはいえ、週2回以上の運動を習慣化している人は我が国の全人口の3.4%ほどしかいない。これは経済大国の中でも最低レベルだ。

2つ目は、ここ1~2年で表面化した24時間営業による各店舗の人材確保が困難になっているという別の問題が大きいだろう。そもそも今後のコンビニ業界を考える上で、24時間スタイルそのものが時代にマッチしているか分からない側面もある。


いずれにせよ、今回のファミマによるフィットネスジム参入は典型的な強者の戦い方だった。ベンチャー企業や個人トレーナーは、うまく経営の視点をずらしながら、小さいからこそ可能な工夫をしていく必要があるだろう。大手の新しい試みの本質を見極めながらも、大手ではできないきめ細かなサービス提供などで「小兵なりとも精鋭」といえる戦い方を磨いていく必要があると感じている。

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