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山手線ゲーム頂上決戦レポ

みなさんは、

約3時間半ぶっとおしで「山手線ゲーム」を延々と繰り返すだけの飲み会

に参加したことはあるだろうか。

きっとないはずだ。そもそも「そんな飲み会あるの?」と疑問に思うことだろう。

そんな飲み会は、ある。たしかに存在する。

それは「山手線ゲーム」に勝つべく約20年にわたり鍛え抜いてきた猛者たちが集う、年に一度の「頂上決戦」だ。

都内某所、まるでこの戦いのために用意されたかのような中華料理屋の個室円卓にて、その催しは開かれている(彼らはこの会場を「バトルフィールド」と呼ぶ)。

選ばれしプロは4名。写真左から、戦闘スタイルとあわせて紹介する。

竹川:「全知の竹川」の異名をもつ知識型プレイヤー。圧倒的な知識量で他を凌駕するが、メンタルに難あり。時折連敗サイクルに突入する。

加藤:知識とメンタルのバランスに長けたプレイヤー。守りが堅く、大負けはしない。他のメンバーが焦りがちな後半戦で強さを発揮する。

林:メンタル強者。知識量は他に劣るものの、間違いを間違いと感じさせないオーラをまとっている。飄々とした表情で淡々とリズムを刻む。

垣内:頂上決戦の主催者であり、自称「最強」プレイヤー。お題ではなく対戦相手に向き合い、メンタルを揺さぶりにかかる。攻めたがり。

全員東大卒であり、ふだんは会社経営に携わりながら社会で活躍している面々だ。娯楽の手段なんて他にごまんとあるだろうに、半生かけて「山手線ゲーム」に向き合っているのだから不思議なものである。

いざここから、「山手線ゲームの頂上」とはいったいどんな景色なのかを、実際のゲームの様子を交えながら紹介していこう。

※当記事はライターまこりーぬが客観的にレポートしたものを、主催者垣内氏のnoteに掲載しています。

そもそも、知識量がエグい

頂上決戦では次のようなお題が飛び交い、当たり前のようにラリーが続く。

  • 現存するアメリカの州名

  • 現存するアフリカの国名

  • 冬季オリンピックの開催都市

  • 東京メトロの路線が1本だけ通っている駅名

  • 乗り換えなしでいける駅名、ただし隣接する駅名はNG など

お題「現存するアメリカの州名」

ワシントン → ユタ → ロードアイランド → イリノイ →カリフォルニア →ネバダ → コネチカット → テキサス → ニューヨーク → ミシシッピ → デラウェア → フロリダ → ノースダコタ → サウスダコタ → ニューハンプシャー → シカゴ( ✕ シカゴはイリノイ州)

私のようなアマ山手線ゲーマーからすれば、まず知識量が追いつかない。そもそも彼らと戦う土俵にすら立たせてもらえないのだ。プロになるためには最低限「世界地図」「路線図」のインプットが必須と言えるだろう。

また、素人からするとただ知識量で勝負しているように見えていたのに、実は攻防戦が繰り広げられているケースもあった。

お題「隣り合う県名、陸続きで行けなくなったらワープ可」

山口県 → 広島県 → 岡山県 → 鳥取県 → 兵庫県 → 香川県 → 徳島県 → 高知県 → 愛媛県 → 島根県(一同笑) → 石川県 → 富山県 → 岐阜県 → 長野県 → 群馬県 → 栃木県 → 埼玉県 → 千葉県 → 茨城県 → 福島県 → 宮城県 → 岩手県 → 青森県 → 秋田県 → 山形県 → 新潟県 → 愛知県 → 静岡県 → 山梨県 → 神奈川県 → 埼玉県(✕重複)

なぜ島根県で笑いが起きたのか?の解説:
中国地方からスタートしたが、攻めの垣内があえて兵庫県と回答。島根県だけを取り残し、記憶しにくい状況を作った。しかしその後、早々に竹川が島根県にワープすることで、垣内の攻めを無効化。

1つのお題に対するラリー時間は30秒から1分程度。この短い時間でそんな戦いが繰り広げられているなんて、まさに異次元である。

お題は1つとは限らない

みな豊富な知識を有しているため、「東南アジアの国名」「東京メトロの路線名」など答えが10前後しかないお題の場合、すべて回答しきってしまう。このときプロは、

「東南アジアの国名、全部言い終わったら山手線の駅名」

という「全部言い終わったあとの、2つめのお題」を嬉々として設定し出す。なかでも

「東南アジアの国名。全部言い終わったらもう一回東南アジアの国名」

というお題が生まれたときは会場がひときわ盛り上がった。このお題は、2周目以降被らないように回答することが非常に難しい。

奇跡的にカメラにも残っていたので、該当の瞬間を映像でも紹介しよう。お時間ある方はぜひ一部始終を見ていただきたい。彼らのリアクションから、このお題の難しさがうかがえるはずだ。

ここまでのプロの生態を踏まえると、「なんだ、山手線ゲームは結局知識ゲーではないか」と思われるかもしれない。しかし、山手線ゲームは決して知識ゲーには留まらない。知識量以外で戦う方法もある。

「大カテ小カテ」システムを操る

山手線ゲームには、知る人ぞ知る「大カテ小カテ」という概念が存在する。具体例で紹介しよう。

お題「ここにいる4人が認める、ローソンにおいてある食べ物」

お酒 → アルフォート → ポカリスエット → おにぎりいくら → ソルティライチ → おにぎりたらこ → おにぎりさけ → おにぎり昆布 → 白おにぎり( △協議、一般名は銀シャリもしくは塩むすび)

この場合、「お酒」という大カテゴリのあとに「ビール」「檸檬堂」といった小カテゴリを挙げるとアウト。逆に「アルフォート」という小カテゴリのあとに「お菓子」「チョコレート」と発言すれば、こちらもアウトである。

この「大カテ小カテ」システムを活かせば、アマでもプロに勝てる可能性がある。

お題「日本において野生で見つけられる昆虫」

ミヤマクワガタ → カブトムシ → 蝶々 → 蟻 →  ノコギリクワガタ → オニヤンマ → 赤とんぼ → シオカラトンボ → コクワガタ → ギンヤンマ → アメンボ → 蜘蛛( ✕ 昆虫ではない)

このように、クワガタに詳しい人間が第一声からクワガタの小カテを繰り出し続ければ、おおよそ勝てる

あなたがもし今後山手線ゲームで絶対に負けられない局面に出くわしたのなら、この戦術をマネしていただきたい(そんな局面はこないだろうが)。

「あいうえお」を抜きたがる

ぶっとおしで山手線ゲームをやっていると、いかんせん途中でお題がマンネリ化してくる。そこでプロたちはどう振る舞うかというと、「あいうえお」を抜きたがる。

お題「現存するアメリカの州名を、あいうえお抜きで言う」

ニューヨーク → カルフォルニ → ノースダコタ → ワ → サスダコタ → ノースカロラナ → テキサス → クラホマ → ミシシッピ → サウスカロラナ → ミズーリ → テネシー → フロリダ → ヴァージ二 → ラバマ → ジョージ → リノ → ストバージニ → ミネソタ → ロードンド( ✕ 言いたかったのはロード(アイ)ランド)

さらに、「逆さ」にもしたがる。

お題「現存する国名を、逆さに読む」

ンホニ → コルト → コシキメ → スラブ → クコンカ → アニべスミス → ールペ → ヤシリギ → スギリイ→ アビリ → ンナベ → ア二ケ → フジエ → トソレ → ゴート →ドンイ → ルーワコッ……( ✕ 言いたかったのはコートジボアール)

通常の山手線ゲームにくわえてあいうえおを抜く、あるいは逆さに読むとなると、脳の処理スピードがまるで追いつかない。

そう、だからみなさんも薄々お気づきかもしれないが、プロもふつうに間違えている。しかし、間違いは指摘されなければアウトではない。お題がこのレベルに達すると、自分の回答を用意することに精一杯で相手の間違いを指摘する余裕がなくなるようだ。

なお、自称最強プレイヤーの垣内氏は「僕は日常生活からあいうえおを抜いている」「山手線の駅名は全部逆さから言えるように訓練してある」と豪語し、山手線ゲームとともに生きてきた風格を漂わせていた。

最難関「卑弥呼ゲーム」

プロでも間違える複雑なお題の最たる例は、「4人中3人が知っている歴史上の人物を、生年月日が古い・古い・新しい順で言う。ただし同一国で出生した人物を連続で言ってはいけない」というものだ。

回答の際に「卑弥呼が登場しがち」という理由から、彼らはこのお題を特別に「卑弥呼ゲーム」と呼んでいた。

お題:卑弥呼ゲーム

マルクス・アウレリウス・アントニヌス → 釈迦 → 東條英機 → ナイチンゲール → クラックス( ✕ 存在しない)

卑弥呼ゲームが複雑である所以は、4人の参加者に対し「3」で1回転する条件を加えることにある。この原理は他のお題にも活かされていた。

  • 漫画のキャラクターを、タイマンをはったときに強い・強い・弱いの順で言う

  • アニメのキャラクターを、髪色が赤・青・黄の順で言う

  • 東京メトロの駅名を、千代田線・丸の内線・東西線の順で言う

こうした難しすぎる新たなお題が生まれると、「イノベーションが起きた!!!」と会場が沸く。その様子はなんというか、とても変態的だ。

次回の頂上決戦ではいったいどんなイノベーションが起きるのだろうか。彼らのことだから、きっとまた新たなお題を創造するに違いない。

集合写真。今回は特別に応援プレートが用意されていた

「山手線ゲーム」の頂上の景色、いかがだったろうか。

山手線ゲームといえば、「飲みゲー」と思われる方もいるだろう。

しかし約3時間半のゲームを終えた彼らは、さわやかな表情で「あのお題はよかった」「あの回答はさすがだわ」などと戦いの余韻に浸りながら、二次会のカラオケ会場へ颯爽と消えていった。

その後ろ姿は、飲み会後のビジネスパーソンというよりも、試合後のアスリートに近かったかもしれない。

<完>

(eyecatch image by midjourney)


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