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「Pamilya(パミリヤ)」というタイトルと、それが現れた日のこと

気づけば公演まで1ヶ月をきっている。日々ばたばたしていてなかなか書き残すことができないけれど、相変わらず村川さんと会うたびに飲みすぎているのは変わらない。
今日は、公演のタイトルである「Pamilya(パミリヤ)」という言葉が現れた日のことなど。

12月29日(日)。年末に集中的に稽古をはじめたころのこと。そろそろ個別チラシをつくらなくてはなあ、という話題が時折あがっていたころ(フェスの広報はもう始まっていた)。稽古場として使わせていただいている場所からJRの駅まで歩いて帰っている時に、タイトルどうするんですか、と村川さんに尋ねると、わからん、長津さん考えて、と言われる。

ちなみにそのことを言われたのは初めてではなく、かなり早い段階でも一度言われた記憶がある。普段はどうやって決めているんですか、と聞くと、普段もだいぶ困難だといっていた。出演する人に決めてもらったり、それ以外の人に相談して決めることが多いという。
日々の生活で行われていることを舞台上でただただ再現する演劇。そこに、もうひとつの意味が観客にも、演者にも、演出家にも規定されていく言葉がタイトルなのだと思う。その、恥ずかしくも思い切るプロセスを通じて、行為そのものの見え方がまた一つ変わってしまうからなんだろうなあと思う。

で。
駅までの道のりで、長津さんどうしよ、と言われて、いろいろな話をする。私の中では、この時すでにいくつかの言葉が思いついていたので、村川さんに投げてみたりして、いろいろな話をする。あとは、ジェッサさんの母国語に近い言葉がいいんじゃないか、という話もする。

あー、そうね、と村川さん。ウェブサイトでタガログ語やビサヤ語の辞書を検索しながら、いろいろな言葉を見る。ふと村川さんが「家族、ってフィリピンの言葉でなんて言う?」と聞いてくる。調べてみると、pamilyaという言葉だった(たしか最初はpamiliaというほうのスペルだったかもしれない。これはビサヤ語。タガログ語だとpamilyaになる)。村川さんはその言葉の響きが気に入ったようであった。familiarという言葉にも近いよなあ、などと話をする。その日もまた前日飲みすぎていたので、その日はさすがにそのまま帰った。

タイトルはそこで決まったわけではなく、結局村川さんにジャッジメントが引き取られ、そのあと年が明けてから、ジェッサさんに稽古場で相談をしていたようだった。村川さんは、ジェッサさんからもいくつものタイトルの候補となる言葉を聞き出していた。そして、ある程度時間をおいてから、村川さんの中で馴染ませるような時間があったのだろう、それを経て、1月8日(水)にメールが来る。

長津さん

タイトルは『pamilya』です。

そのメールに添付されていたのが、冒頭にある画像であった。これも、ジェッサさんとのやりとりを通じて決めた写真だという。

「Pamilya(パミリヤ)」という言葉にすることにして(カタカナの読み仮名は、福岡市文化芸術振興財団の菅原さんのすすめでつけることになった)、急いでリード文を書き直した。私が書いて、村川さんが直して、そしてまた私が書いて、と急いで往復しながら作った文章。公演の形がまだ見えないながらも、ここまでは確実に言えそうだな、という言葉を詰め込んだ。タイトルが決まってだいたい1週間くらいで、下記の文章ができあがった。

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■公演情報
村川拓也「Pamilya(パミリヤ)」
2020年2月22日(土)〜24日(月祝)
パピオビールーム大練習室(福岡)
演出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

介護の現場を舞台に
そこに現れる、もうひとつの「家族」

ある「現実」を手がかりに舞台作品を立ち上げる、京都を拠点に活動する演出家、村川拓也。今回の作品制作にあたり村川は、福岡で介護福祉に関わる30名へのリサーチを行った。そこで出会ったのが、ある特別養護老人ホームで介護士として働く、フィリピンから来た外国からの介護福祉士候補生だった。
介護福祉施設の日常には、言語を通じた親密なやりとりと、身体同士の接触が入り混じる。その空間に目を凝らすことで、普段は気に留めることのない、しかしいまこの瞬間もどこかで毎日続いているかもしれないコミュニケーションに気づく。
今回の作品では、その介護士である女性が実際に出演し、彼女が働く福祉施設の日常が淡々と舞台上で再現される。その時間感覚に直面することで観客は、自分に近しい身内の人々や、もしかしたらあり得るかもしれない自らの姿に思いをめぐらせるだろう。
「Pamilya(パミリヤ)」はタガログ語で「家族」を意味する。フィリピンでは介護は家族が担うものという価値観があるが、そのスタンスは日本の状況とどのような差異を生み出すのか。異なる年代、経験、国、言語――家族とも友人とも異なる「ケアをする/される」関係。フィリピンからやって来た介護士と、介護を受ける日本人の間で、もうひとつの「家族」の物語が始まる。

演  出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出  演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

公演日時:2020年2月22日(土)19:00
     2020年2月23日(日) 19:00
     2020年2月24日(月祝) 14:00
会  場:パピオビールーム大練習室

チケット発売中。詳細はこちらへ。

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