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200218 全部できた

職場でいろいろあってしまい、お昼過ぎから現場に行くはずが、夕方以降になってしまう。職場から現場に向かう電車の中でそのことを伝えるメッセージを制作の豊山さんに送ったところ、「長津さん、レンタルCDショップどこかご存知ですか」と言われる。欲しい音源があるという。そうねえ、と乗り換えの天神で降りてもう少し確認すると、特定の奏者のものだと言われ、いやそれはネットで買って落とした方がリーズナブルでは、と、カフェに入ってiTunesで落として送る。
仕事のやりとりを済ませ、19時少し前にパピオビールーム入り。事前にメールで、ジェッサさん以外はテクニカルスタッフも含め、19時まで会場にジェッサさん以外立ち入り禁止、と聞いていたので、ぴりぴりしているだろうか、と思いながら、大練習室の扉の前で待つことにする。制作の豊山さんと、今回リサーチで京都から来ている長澤さんが大練習室の前にいたので一緒に待つ。きょう掲載のあった朝日新聞と毎日新聞を見せてもらう。いずれも大きい記事。照明の森脇さんが19時に合わせてやってくる。
と、村川さんが、ひょっこり現れる。どうやら大練習室の中には本当にジェッサさんだけがいるようだ。村川さんは思いのほかほがらかな表情。19時ぴったりに村川さんが大練習室に消えていく。
19時からは照明の調整に大練習室を明け渡すことになっていた。必要だと言われた資材(ベッド、いすなど)を階上の中練習室1に移す作業を長澤さん、私、それに舞台監督の浜村さんと行う。村川さん、豊山さん、長澤さんと私で、中練習室1で待つ。ジェッサさんが上がってくるのを待ちながらいろんな話をしている。村川さんがふと「全然間に合ってへんな」とつぶやく。だがおとといにも同じことを言っていた村川さんに「いつもは間に合ってるんですか」と聞いたことを思い出し、まあ大丈夫なんだろうと思う。「いつも間に合わんのです。だから、再演したいんですよ」と言っていたから。

しばらくしてからジェッサさんが「こんにちは〜」と現れる。村川さんが、いつものように「やろっ」と言う。きょうは最後のシーンの確認をしようと思ったようだが、まだジェッサさんに十分セリフが入っていなかったようで、やろうとしても、何度もジェッサさんがメモを見に戻る。村川さんは、きょうはもうここはやめよう、と言い、代わりに、唯一まだディテールが決まっていなかったシーンをつくることになる。「ごめん、ベッドいらんから下に戻してもらえる?」と言われ、長澤さんと私でベッドを現場に戻す。戻ると、さきほどわたしが購入した音楽に合わせて、動いたりセリフを言うシーンをつくろうとしていて、ジェッサさんと村川さんがひとつの長机に横並びに座っている。
何をするシーンなのか大枠は決まっているのだが、細かなセリフが決まっていない状況のよう。ジェッサさんがたまたま持っていたBluetooth接続のスピーカーを使って、音楽が何度も流れている。村川さんはまずはその音楽の中にある歌詞などを文字起こししているようだ。豊山さんもそれをフォローしている。その言葉を段取りのきっかけにすることにして、この歌詞がきたらこのセリフ、と整理しようとしているのだと思う。概ね文字起こしが終わったところで、ジェッサさんに声をかけ、「俺、音楽再生する人になるわ、再生したり止めたりするから、言葉考えながらなんでも言って」と村川さんが言う。パソコンを手渡されるジェッサさん。しかし、ジェッサさんはなかなか思うように言葉が出てこない様子。音楽を流す村川さん。しかし、ジェッサさんからなかなか言葉が出てこない。
と、ジェッサさん。パソコンを村川さんにさっと渡して、「書いて」と言い、音楽をかけ、流暢にいつもの介護現場で話しているであろう言葉を、すらすらと話し始める。非常に流暢に。村川さんはそのひとつひとつの言葉に、ときに爆笑しながら、パソコンにものすごい勢いでタイプし続ける。そして、結果、その音楽にあわせたシーンができる。村川さんはなぜか私たちのほうを向きドヤ顔で言う。「こうやってやり方が見つかったら早いんです。中身じゃないんす。どうやったら作れるかをを見つけるのが一番重要なんです」。ジェッサさんはすかさず、「でもこれどうやって覚えると?」と言う。
その後、音楽に合わせて、パソコンを画面を見ながら、繰り返し、繰り返しそのセリフを読む。村川さんから、細かな言葉の入れ替えの指示がある。そしてもう一回、またやりなおし、そしてもう一回。
できた、全部できた、と村川さんが言ったころには時間はすでに22時を回っていた。
全部できた。
小練習室を撤収し、大練習室に戻る。照明の仕込みがほぼ完成しており、細かく場当たりしながら微修正を行う。劇場でのジェッサさんはずいぶん稽古場とは違って見える。違って見えていることを意識しているようにも見える。時間いっぱいまでぎりぎりまで調整し、22時半すぎに退館。

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■公演情報
村川拓也「Pamilya(パミリヤ)」
2020年2月22日(土)〜24日(月祝)
パピオビールーム大練習室(福岡)
演出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

**介護の現場を舞台に
そこに現れる、もうひとつの「家族」 **

ある「現実」を手がかりに舞台作品を立ち上げる、京都を拠点に活動する演出家、村川拓也。今回の作品制作にあたり村川は、福岡で介護福祉に関わる30名へのリサーチを行った。そこで出会ったのが、ある特別養護老人ホームで介護士として働く、フィリピンから来た外国からの介護福祉士候補生だった。
介護福祉施設の日常には、言語を通じた親密なやりとりと、身体同士の接触が入り混じる。その空間に目を凝らすことで、普段は気に留めることのない、しかしいまこの瞬間もどこかで毎日続いているかもしれないコミュニケーションに気づく。
今回の作品では、その介護士である女性が実際に出演し、彼女が働く福祉施設の日常が淡々と舞台上で再現される。その時間感覚に直面することで観客は、自分に近しい身内の人々や、もしかしたらあり得るかもしれない自らの姿に思いをめぐらせるだろう。
「Pamilya(パミリヤ)」はタガログ語で「家族」を意味する。フィリピンでは介護は家族が担うものという価値観があるが、そのスタンスは日本の状況とどのような差異を生み出すのか。異なる年代、経験、国、言語――家族とも友人とも異なる「ケアをする/される」関係。フィリピンからやって来た介護士と、介護を受ける日本人の間で、もうひとつの「家族」の物語が始まる。

演  出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出  演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

公演日時:2020年2月22日(土)19:00
     2020年2月23日(日) 19:00
     2020年2月24日(月祝) 14:00
会  場:パピオビールーム大練習室

チケット発売中。詳細はこちらへ。

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