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190916  リサーチノート

これもまたあるリサーチの日の話。

稽古場リサーチでは、ツテを辿って、参加してみてもいいよ、と言ってくれた方に、稽古場と称した練習場に来ていただき、普段の仕事の内容をお聞きすることと、普段の仕事でどんな振る舞いをされていらっしゃるかを実際に再現してもらう、ということをやっている。
その、「普段の仕事でどんな振る舞いをされていらっしゃるか」を再現する、ということは、当然、村川拓也さんの代表作「ツァイトゲーバー」の手法と同じである。

ツァイトゲーバーについては、映像はウェブ上には残っていないが、いくつか劇評を見ることができる。
https://www.wonderlands.jp/archives/19671/
https://artscape.jp/report/review/10078617_1735.html
http://yamakenta.hatenablog.com/entry/2013/01/29/180333

「普段の仕事でどんな振る舞いをされていらっしゃるか」の再現は、難しい。誰もいない、何もない場所で、自分の普段の仕事の動きを淡々と再現することは、その時点でフィクションが紛れ込んでいる。
村川さんは、それを、なんども再現してもらったり、少しだけ演出を加えたりしながら、ただただ、見る。すると、同じ仕事の動きでも、その人の微妙なこだわりやクセ、何気ないしぐさが、意味ありげに見えてくる瞬間がある。美しいと言ってもいい。それはきっと、ドキュメンタリー映画でいうところの、編集作業の冒頭に行う、映像の素材をただただ見続ける行為にも近いのだと思う(がゆえに、村川さんの作品は、ドキュメンタリー演劇と呼ばれることもある)。

ある稽古場リサーチの時に、お呼びした方の動きを全部見終わったあと、こんなことを村川さんが言ったことがあった。

「ワン・ビンって映画監督知ってます? 中国のドキュメンタリー映画監督なんですけど。その人の、「鳳鳴(フォンミン)」っていう映画があって。もともと、10時間とかかかるドキュメンタリー撮る人なんですけど。それ、……中国、おばあさんが主人公なんですけど、中国の歴史、建国のあたりからずっといろんなことが起こってきた歴史をずっと生きてきた人で。思想的に、反乱分子だ、ってなって、反乱を企てるという濡れ衣を着せられたりしたようなおばあさんなんですけど、その人の語りがメイン。
で、この映画すごいのは、あの、そのおばあさんの家って、おばあさんソファ座って、カメラ、監督こっちにいて、しゃべってるだけなんです。3時間ぐらいあるんです。…でも、それだけなんですよ
普通ね、なんかもうちょっと外の、風景写したりとか、おばあさんと一緒に買い物いくとか、なんとでもできるはずねんけど、その監督は、その人の話だけでも十分大丈夫だよねと。

すると、だんだん日が暮れてくるんです。電気もつけずに、なぜか、そのときはなぜか監督もおばあさんも、電気つけなくてもいいよねということを、話さずともあったらしくって、どんどんどんどん暗くなってくるんです。
そういう、長ーい、歴史的にも長いし、映画的にも長いし、シーンが変わらなくて長いし、という、すごい、…で、1カ所やし、部屋やし、圧迫感がありそうなんですけど、それが、気づいたら最後まで見てた、っていう。最初と最後だけ、ソファに座っているおばあさんじゃないシーンが入るんです。
……それを思い出しました。」

たんたんと、ただただ日々の仕事を繰り返していくこと、それを舞台にそのままあげるということ。村川さんはそのことを時には演劇と呼ばず、「舞台を使った作品」という言い方をすることもある。そこに流れる、時間。そのままで十分「見れる」という、時間。
今回の舞台がどうなるかは、わからない(し、このお話をした相手が出演することになるかは、その時点では、わからない)。
けれどぼくは、その話を聞いたときに、その淡々とした時間の中にある美しさを、みてみたい、とも思った。


稽古場リサーチは終わった。延べ20回の稽古場での時間、ヒアリングのみも含めると30名の方々にお会いして、いろいろな話を聞いた。

そして、作品の方向性は、決まった。
来月には、もうすこしどんな作品になるのかがオープンになる予定。そしたら、もうすこしリサーチ過程のこともいろいろ書けるといいなと思う。

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