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191230 今年最後の稽古

村川拓也さんの新作公演にむけた稽古が行われている(公演情報は下記)。
あっというまに今年最後の稽古が今日だった。

12月から本格的な稽古が始まり、そのたびに村川さんは京都から福岡に赴いている。今回出演するジェッサさんが小郡で働いているため、稽古も小郡で行っている。
前半、12/4〜10の滞在では、稽古としては初回。以前のインタビューでも聞いた話を繰り返し伺うところから始めていた。私が全部の日程に立ち会えたわけではないのだが、村川さんは、ジェッサさんという人間が日々体験している「事実」を丁寧に、細かく、聞き出していた。その後、実際に介護現場でやっている動きをマイム的にやってもらい、それをじっくり見ていくのだが、この時も、村川さんはやはり、細かく、「事実」を問い続ける。

ところで、最近私が授業で使っている「メタファシリテーション」と呼ばれる考え方では、人に話を聞く時に「事実」を問うているのか、それとも「観念」や「感情」を問うているのかを検討することがある。事実を積み重ねていくことで、話者が自分の解釈ではなく、事実を回顧することができ、それが話者自身の気づきを生むというものである。話者にとっての事実を積み重ねることが、その場の本質的な問題を協働的に浮き彫りにすることにつながるというものである。

村川さんの「問い」の投げかけ方は、けっこうそのことに近いような気がしている。実際に何が起こっていたのかをさまざまな方法で問い続ける。それをしていたのは誰か、誰にあててそれをしていたのか、そのあと何をするのか、それはいつするのか、そのことで誰がどんな反応をするのか、それは早出(朝のシフト)の時なのかそれとも夜勤の時なのか……。

しだいにジェッサさんも、何が見せられるもので、何が見せるのが難しいものなのか、を敏感に感じ取っていく。振る舞いだけでは何をしているのかわかりにくい時に、その動きがなんの動きなのかを、さりげなくセリフで補おうとする瞬間があったとき、ああ、この現場は協働的につくられつつあるな、と思った。

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いっぽう後半、12/28〜30の滞在では、稽古場を移した。というのも、日程を先に決めたものの、年末年始で、いままで使っていた公民館のスペースが使用できないということがわかったからだ。あれこれと代替案を考えていると、ジェッサさんが務める施設にごあいさつに行った際に見せてもらった、法人が所有しているホールのことを思い出した。そこで、その場所を貸してもらえないかと施設の方々にお願いしたら、快く貸し出して下さったのだ。なんともありがたい。

この3日間の稽古は、これまで聞き取ったことをもとに、具体的にシーンをつくっていく時間だった。
ただ、村川さんの以前の作品とは、ずいぶん使い勝手が違うようだった。それは、ジェッサさんの勤めているのが特別養護老人ホームであることがかかわっている。村川さんがこんなふうに言っていた。

「今までぼくが作った作品は、在宅(介護)だから、1人。でもジェッサさんはいちどにたくさんの人を見る。それが、いいんじゃないか、と思っていて。どういうふうにしたらいいかを考えながらやっていて」

ひとつの施設で起こっている時間を、舞台上ですべてそのまま再現することはできない。具体的な舞台面を想定して、方向を変え、場所を変え、見え方を変える。
そして、セリフを指定することもある。ただ、そのセリフは、村川さんから新たに出てくる言葉ではない。何度も何度も同じシーンを繰り返しているうちにジェッサさんが、いつか、発していた言葉である。「あの言葉よかったから、ここでそれを言ってみてもらえますか」と言う。

徹底的に映像編集のような手法である。 ひとつの舞台作品になっていくプロセスが、「事実」を積み重ねることで前に進んでいく。

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ちなみに滞在に関しては現地の方々にかなり、たいへん、お世話になっている。前半は、小郡で、ご自宅の離れが空いているという方にお家をお借りしていた。後半は鳥栖で格安だが快適なホテルに泊まっていた。村川さんと私は何度か夕食を一緒に食べ、いくつもの焼き鳥を食べた。村川さんがつくづく生活感あふれるお店が好みなのだということがよくよくわかった。ある夕食のときに、カウンターの隣にろう者の方が座った時のコミュニケーションが楽しく、白波を飲み過ぎ、年末の高揚感も手伝って、気づいたらホテルのベッドの上だった時にはさすがに反省した。村川さんに介抱してもらったらしい、どうもすみません。

トップの写真は、稽古場としてお借りしている施設のホールに、職員さんが持ってきた正月飾り。フィリピンからきたジェッサさんは「なぜ、みかんと、もちと、えびと、いか?」と聞いてきたが、私も理由はよくわからなかった。

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■公演情報
村川拓也「タイトル未定(新作公演)」
2020年2月22日(土)〜24日(月祝)
パピオビールーム大練習室(福岡)
演出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

ある人の、仕事場での動き方や、そこで発せられる声や言葉から見える「現実」を手がかりに、舞台を使った作品を立ち上げる、京都を拠点に活動する演出家、村川拓也。福岡で介護福祉に関わる30名へのリサーチで彼が着目したのは、高齢者福祉施設でヘルパーとして働く、外国から来た労働者だった。異なる年代、経験、国——家族とも友人とも異なる「ケアをする/される」関係からにじみ出るコミュニケーションを、まったく新しい角度から描き出す新作。

チケット発売中。詳細はこちらから。


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