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200209 滞在先最後の夜

最近告知がすこしずつ届いているのか、「予約しましたよ」という声や、「公演かかわってるんですね、大変でしょう」という声などをよく耳にするように。関わり方がドラマトゥルクという形をとっていて、実際のところあまり大変なことはないのだが、それでも届いている感じがしてうれしくなる。
ドラマトゥルクといいながら、つくづく無責任に関わっている。行ける時行きたい時に稽古場に行き、適当に見たりしゃべったりして、邪魔しないように帰る。でもそんなもんなんだろうと思う。ブックレットの原稿は頑張って書いているけれど。
予約受け付けています。詳細はこちらから。
https://kibirufes-fuk.localinfo.jp/posts/7187188?categoryIds=2521792

きょうは、別件の職場でのイベントがあり、その懇親会が終わり、20:00すぎに駅で電車に乗ろうかなあと思ったところで、村川さんからメッセージが入る。とある、村川さんが今回の滞在中に行きつけにしているいくつかの居酒屋のうちのひとつの名前とともに、「いるのできてください」、と。
明日は東京出張だしなあ、とか思うけれど、今回が滞在先となる地域での最後の夜だしな、と、向かおうかなと思う。明日には村川さんはいったん京都に戻り、次は小屋入り(劇場での仕込み)がはじまる。そこからは福岡市内での滞在の予定なので、小郡市での夜が今日が最後なんだなあと思うと、行っておこうかなという気になる。

駅のホームに行こうとすると、以前からの知り合いに偶然ばったり会う。彼女はなんと今日、キビるフェスの別演目(劇団きららさんの 『70点ダイアリーズ』)をみた帰りで「とってもよかったです」と言っている。私も見たかったのだが今日は職場、明日はあいにく東京で、劇団きららさんの公演は見られないので、うらやましい。村川さんがいる居酒屋と同じ方面の電車だったので、こもごもといろいろ話をしながら都心とは逆側にくだっていく。

店に着くと、村川さん、ジェッサさんと、稽古場で手伝いをしていた前田さんがすでに飲んでいるようだった。席に座り飲み物を頼もうかな、と思ったタイミングで、田中さんが見慣れない男性を連れて現れる。
村川さん、ジェッサさん、田中さん、と、きょうはいないが制作の豊山さんと、私、というのが、この公演をつくりはじめた当初の座組みとしてはフルメンバー。ここに、稽古が進むに従い、滞在先をお借りした方や、前田さんのサポート、大道具関係のサポートが入ってきている。小屋入り後は本格的にテクニカルのスタッフも入り、座組みがどんどん大きくなっていく。
田中さんという名前はたしかこのnoteでは初めて出すのだけれど、稽古場にはまったく来ていないが、今回のキーパーソンである。リサーチ過程で外国人介護労働者の方を探す時に田中さんにめぐりあってから、なにかにつけ、たいへんお世話になっており、当日配布予定のブックレットにも原稿を寄せていただいている。
田中さんが連れてこられた初めてお会いする男性は田中さんの弟さんとのことで、演劇じたいも見にきてくださるとのこと。瓶ビールやハイボール、レモンサワーなどそれぞれの飲み物で乾杯。弟さんは村川さんのことに興味しんしん。何して食べてるの? とかいろいろ聞いているようす。田中さんはジェッサさんの日本語教師でもあるが、ジェッサさんと友達のように親しく話している。田中さんが京都に仕事で行った時に買ってくるチーズケーキがジェッサさんの好物であるという話などを聞く。
いろんな話が出る。フィリピンでのジェッサさんやジェッサさんの家族の話、昨日田中さんとジェッサさん、それに村川さんと出かけて行ったという外国人介護労働者や介護福祉士候補生の人たちとのパーティーの話、そこで出会った人たちの話。夏頃からやっていたリサーチの時に出会った人たちとたくさん再会した日々のようで、高まってきたなあ、と感じる。
つくづく、いろんな施設の人、いろんな労働者の人たちに会ってきたことを思い出す。考え方も、価値基準も、他者との向き合い方も、ほんとうにそれぞれ。

外国人、介護福祉士候補生、ということの規範と、そこからの現実的な逸脱と、それを舞台にあげるという行為を想う。

いつのまにか飲み物は日本酒に変わっている(5人でおそらく8合くらいは飲んだのではないかと思う。全員よく飲む)。田中さんは、もうなくなってしまったお父さんをフィリピンパブに連れて行ったときの話を熱弁している。中洲にあるフィリピンパブのことを語る田中さんが、そこの店名を口にしたときに、稽古場での話題とシンクロした瞬間もある。
ちょっとした色恋の話で、ジェッサさんに対して、長津さんと付き合ったら?と田中さんの弟さんが焚きつけた時に、ジェッサさんが「いや、それはないわ」と言い、片手をあげたので、思わずなぜかハイタッチをする。そのようすを村川さんは苦笑いしながら見ていた気がする。

公演をともにするという緊張関係ではない、稽古場とは離れた場での会話。本格的に稽古が始まっていた12月ごろはまだぽつぽつと、とつとつと話していた関係性が、それぞれのプライベートを少しだけ開陳させながら深まっていく。

しかしこの店はとんでもなくホルモンがおいしいのだが、とんでもなくニンニクの度合いが強いので、明日があるしなあ、と控えめにする。焼き鳥もおいしい。豚バラも。

帰りの電車が、猪と衝突した事故の影響で遅延し、深夜に帰宅する。「猪を処理するため」というアナウンスが気にかかる。
その帰り道に村川さんから、今日の会話に関するメッセージが届く。クリエイションに関する踏み込んだ態度を感じさせ、公演でこんなものが見えるだろうか、という想像していたものがさらに広がるかもしれない予感がする。

小郡での日々で村川さんが聞いていたという音楽のYouTubeのリンクが送られてくる。それを聞きながら、寝支度をする。

稽古場が、終わる。

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■公演情報
村川拓也「Pamilya(パミリヤ)」
2020年2月22日(土)〜24日(月祝)
パピオビールーム大練習室(福岡)
演出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

介護の現場を舞台に
そこに現れる、もうひとつの「家族」

ある「現実」を手がかりに舞台作品を立ち上げる、京都を拠点に活動する演出家、村川拓也。今回の作品制作にあたり村川は、福岡で介護福祉に関わる30名へのリサーチを行った。そこで出会ったのが、ある特別養護老人ホームで介護士として働く、フィリピンから来た外国からの介護福祉士候補生だった。
介護福祉施設の日常には、言語を通じた親密なやりとりと、身体同士の接触が入り混じる。その空間に目を凝らすことで、普段は気に留めることのない、しかしいまこの瞬間もどこかで毎日続いているかもしれないコミュニケーションに気づく。
今回の作品では、その介護士である女性が実際に出演し、彼女が働く福祉施設の日常が淡々と舞台上で再現される。その時間感覚に直面することで観客は、自分に近しい身内の人々や、もしかしたらあり得るかもしれない自らの姿に思いをめぐらせるだろう。
「Pamilya(パミリヤ)」はタガログ語で「家族」を意味する。フィリピンでは介護は家族が担うものという価値観があるが、そのスタンスは日本の状況とどのような差異を生み出すのか。異なる年代、経験、国、言語――家族とも友人とも異なる「ケアをする/される」関係。フィリピンからやって来た介護士と、介護を受ける日本人の間で、もうひとつの「家族」の物語が始まる。

演  出:村川拓也
ドラマトゥルク:長津結一郎
出  演:ジェッサ・ジョイ・アルセナス

公演日時:2020年2月22日(土)19:00
     2020年2月23日(日) 19:00
     2020年2月24日(月祝) 14:00
会  場:パピオビールーム大練習室

チケット発売中。詳細はこちらへ。

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