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千々和泰明『安全保障と防衛力の戦後史1971-2010 ー「基盤的防衛力構想」の時代』(千倉書房、2021年)

防衛研究所主任研究官であり、戦後日本の防衛政策史についての第一人者ともいえる千々和泰明さんによる、新著が刊行されました。これはすごい。

「基盤的防衛力」という、戦後日本の防衛政策における最も重要な概念について、幅広い一次史料の利用や、インタビューに基づいて、緻密に、かつ説得的かつ論理的に議論を組み立てた成果です。


千々和さんは院生の頃から、その真摯な研究姿勢に注目してきましたが、この10年ほどのご活躍はほんとうにめざましい。少し前には、アジア・パシフィック・イニシアティブの政軍関係研究会でご一緒して、この分野の専門家として議論を牽引して頂きました。その成果は、拙編『軍事と政治 日本の選択 ー歴史と世界の視座から』(文春新書)として刊行され、こちらは執筆者の皆さんの研究の質の高さから、とても高い評価を頂いています。また、この研究会を通じて、船橋洋一さんが千々和さんの高い能力を常に賞賛されていました。


これまでさまざまなご研究をされてきた千々和さんにとって主著となるかもしれない一冊が、このようなかたちで、千倉書房の神谷さんの手により、とてもよいかたちで刊行されたのは嬉しいことです。


日本では戦後長らく、とりわけ国立大学では、軍事研究や防衛政策史の研究がなかなか「市民権」を得られませんでした。また、外務省と比較して、防衛省は史料公開にながらく後ろ向きで、それゆえ研究者はアメリカ政府史料を使ったり、オーラル・ヒストリーを駆使したり、労力を割いて歴史的事実を見出さねばなりませんでした。こちらの研究は、これからの防衛政策史研究に希望の光となるような、新しい道を示しています。


最近は、良質な研究の「消費者」として恩恵を受けるばかりで、自らなかなか時間をかけて質の高い研究を完成させる時間的余裕や、強靱な意志が不足しているところです。そのようななかで、このような良書を手にすると、やはり研究はいいなあ、ということを実感します。嬉しい限りです。

(2021年5月28日記)

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