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優雅な邸宅での、優雅な会議

オクスフォードの郊外に、ディッチレー・パークという広大な敷地を擁するマナーハウスがあります。もともと、18世紀初頭に第二代リッチフィールド伯爵が建てたカントリー・ハウスでしたが、その後、幾人かの手に渡ってから、第二次世界大戦中にはウィンストン・チャーチル首相が、週末の静養のために利用していた邸宅です。チャーチルは、そもそも、ここから近いウッドストックにあるブレナム宮殿で生まれ、そこが生家だったので、いわゆる広い意味での「地元」ですから、寛いだ時間を過ごせたのかも知れませんね。

現在では、国際会議を行うディッチレー財団が保有しており、かつての優雅さと壮麗さを残して、こちらの邸宅を会議場および宿泊施設として利用して、数日間泊まり込み、寝食を共にして、現代の難しい課題に向き合うことになります。

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そのような国際会議があることは耳にしておりましたが、まさか私が呼ばれることになるとは想像していませんでした。色々な有名な国際会議がありますが、こちらのディッチリー・セミナーは、どちらかというと英米中心の、高い地位の方々が集う会合という印象。ですので、メールで会議への参加のご案内をいただいたときには少し驚いたのと同時に、ちょっとここに泊まってみたいという下心も湧いてしまいました。オミクロン株が急速に広がり、不安も残る中で、ケンブリッジからオクスフォード郊外まで2時間ほどのドライブを楽しみながら、会議に向かうことに。

参加者の中には、最近までテリーザ・メイ政権でEU離脱担当相という重責についていたデヴィッド・デービス氏の名前も。とても幸運なことに、少人数の会議で隣の席だったので、休憩時間に色々とお話しをして、最近の保守党の状況などをお話頂きました。なんと、大学生の頃に当時の首相だったマーガレット・サッチャーとお会いする機会があったようで、同じ保守党議員としても、けっこう親しく話していたようです。離脱派としてジョンソン氏とも近い関係にありましたが、最近はジョンソン首相を批判するコメントを寄せて、メディアで話題にもなっていました。

それ以外は、元外交官、元海軍提督、元裁判官など、イギリスでもとりわけ高い地位にある方々や、場所ゆえだと思いますが、オクスフォードの高名な教授、さらにはイギリス主要紙の看板記者など、著名な方々が。イギリス人以外は私のみということで、こちらに二泊三日で宿泊してきました。それ以外には、北米からオンラインで参加された方々もおられ、テーマが民主主義の将来を考えるということもあり、この分野で世界的に有名なスタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授や、またハーバード・ロースクール教授や、カナダ自由党党首を務め、人道的介入などに関連した数多くの著作のあるマイケル・イグナティエフ氏も。唯一、日本人でオンラインで参加していたのが、私の恩師、北岡伸一JICA理事長というのも。なんとも嬉しい偶然でした!

クローズドの会議ですので、議論の内容はここでは書くことはできませんが、それにしてもお食事の時間も、休憩時間のティータイムも、なんとも優雅な雰囲気が。

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会議も食事も存分に楽しみ、多くを学ばせていただいたのですが、ちょっとした後悔も。二日目の夜が「フライデー・ディナー」という伝統があるようで、ブラックジャケットにタイを着けて参加することとのこと。イギリスに来てから、ドレスコードの理解が本当に難しくて、苦労しています。一応案内には、普通のジャケットでも、ノーネクタイでも、それほど問題ないと書いているのですが、このあたりの「相場観」は一度参加しないと、なかなか分からないですよね。

それで実際には参加者の方々が、貴族の方、サーの准男爵の方など、高い地位の方が多く、とても自然とみなさん、あたりまえのようにブラックジャケットにボウタイ(蝶ネクタイ)を着けているんですよね。女性の方々は、会議中はあれだけカジュアルだったのに、ディナーでは美しいカクテルドレス。みなさん、だいたいオクスブリッジの卒業ですので、若い頃からこのようなフォーマル・ディナーに慣れている模様。

ということで、私のみが普通のジャケットに普通のネクタイという、ちょっと場違いな感じ。だって、ディナージャケットなんて持っていませんし、ボウタイもありません。こりゃイギリス滞在中に、いずれも買わないといけないかな。あるいは、もうこういう機会もないかな。

私の隣に座っていた貴族の称号を持つ初老の裁判官の方。裁判官ながらも、中世史の歴史の著作も多く、メディアにもよく出ているようです。その方は、とても美しい緑色のディナー・ジャケットを着ていて、「格好良いディナー・ジャケットですね」、と伝えたら、父親から譲り受けたもののよう。孫の話をしていたので、「お孫さんにも、こちらをいずれお譲りになるのですか?」と訊いたら、ちょっと体型が違うので、どうだろう、ということも言っていまいした。こうやって、良質なディナー・ジャケットを親子で譲っていくのもいいですね。

ちなみに、ちょっとはしたないですが、ネットでその後にこれと同様のディナー・ジャケットがどれぐらいの値段なのか、ある程度メーカーを想定して(きっと有名なサビルロウのブランドでしょうから)調べたら、なんと40万円!うーん、やっぱり購入はちょっと厳しいかな。これ二着で、今乗っている中古のミニクーパーと変わらない値段ではないですか!

なお、こちらのディッチリー・パークの邸宅、第二次世界大戦中にチャーチルが利用していた際に、アンソニー・イーデン外相や、チェコスロバキアの亡命政権首相のベネシュなど、錚々たる人物が訪問しています。そしてその写真も。歴史の息吹を感じます。

とても心地よい満足感を抱いて最終日、朝食を食べてから帰宅しようと思っていたところ、スタッフの方があわてて近寄ってきて、緊急な連絡があるとのこと。なんと、二泊三日ご一緒した一人の方が、コロナの陽性だとのこと。あわせて、簡易検査をしましたら一応、陰性。朝食を取りやめて、パンをいただいて、帰りのクルマのドライブでのんびりとパンとコーヒーを楽しみながら、一足先にケンブリッジに戻ることに。本当はオクスフォード大学に立ち寄って、私の慶應でのゼミのOBとランチをする予定だったのですが、もしかしたら偽陰性で感染している可能性も否定できないので、申し訳ないですが延期に。

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その後、ケンブリッジに戻って2度、自宅で簡易検査をしましたが、いずれも陰性でした。まずは安堵。それにしても、イギリスにいると、かなり身近なところで感染が広がっています。日本でも最近はかなり感染者が多いようですので、このような時代に対面での会合に参加する難しさを、あらためて実感しました。

(2022年1月記)


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