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魚屋視点の仕事の本質

店の売り上げは、お客さまが喜んだ結果だと社内で話している。お客さまが喜ぶということは、何かしらお客さまの役に立っているということ。仕事の本質は人に喜んでいただくことだと常々思う。

魚を目の前でさばいてお客さまに渡すと、「ありがとう」と言ってもらえる。漢字では有ることが難しいと書く。お客さまは魚をさばくのが難しいため、僕ら魚屋が代わりに魚をさばくことで「有り難う」と喜ばれるのだ。人に感謝されると、うれしくなって仕事が楽しくなる。

「やりたいことが見つからない」と言う人が多いが、無理もない。世の中には無数の選択肢が存在する。一番好きな魚は?とよく聞かれるが、魚にはたくさんの種類や食べ方があるので答えに窮する。選択肢が多いと、1番を選ぶのは至難の業だ。まずは人に感謝されることを何でもいいからやってみるのが手っ取り早い。人に感謝されるとうれしくなり、それがいつの間にかやりたいことになるのだ。

魚屋の一日のおおまかな流れはこうだ。早朝に市場へと車を走らせ魚を目利きする。魚を仕入れたら店舗へ運ぶ。賞味期限切れのパックが売り場に残されていないか、ドリップが出ている商品や傷んでいる商品がないかチェックする。そして開店に向けて急ピッチで商品の陳列や調理・加工を行う。刺身は最も手がかかる。丸魚を柵にし、盛り付けるトレーを瞬時に選定し、大根や大葉を使ってきれいに盛り付ける。値付け作業にも神経を使う。商品シールの情報(商品名や産地、価格など)に誤りがないか確認する。商品を作って終わりではなく、商品のPOPや売り場のレイアウトを考えながら買い物しやすい売り場にする。開店後は、接客しつつ、商品を作っては売り場への補充を繰り返す。午後になると、翌日の仕込みが始まる。夕方は商品の値引き作業で慌ただしい。金融トレーダーのごとく、何時に何%値引きするかをその日の状況を見て判断する。レジの精算業務もある。閉店が近づけば清掃し、翌日に繰り越す商品はバックヤードなどで保管する。最後は、戸締まりして消灯だ。業務は何人かで分業してやるわけだが、それにしても魚屋という仕事はせわしい。時間があっという間に過ぎる。

プロフェッショナルを発揮しなければならない場面が数多くある。刺身を盛りつけるトレー選びは、幾何学的センスとデザイナー的センスが問われる。使うトレーの大きさや色、柄で売り上げが変わる。魚の調理は、いかに歩留まり(可食部分の割合)よく包丁を入れるかなどの技術センスが必要になる。その日仕入れた魚は極力、その日のうちに売り切りたいので、「今日のカツオは脂がのっておいしいよ」と積極的に売りこむ販売力も求められる。

魚屋の仕事をイメージしてもらえただろうか。目まぐるしい仕事だが、近年、魚をさばける人が減っているため、魚屋の希少価値は高まる。魚屋という仕事は、人の役に立つという仕事の本質を肌で感じることのできるやりがいのある仕事である。

(いわき市平、海産物専門「おのざき」4代目)

※この記事は、福島民報「民報サロン」(2023年6月19日)に寄稿したものです。


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