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第3話~アメリカの話~

サンフランシスコの街を愛おしく照らすゴールデンゲートブリッジに別れを告げ、夜明け前、僕はロサンゼルスへと車を走らせた。2月にしては柔らかい風が吹いていた。

80年代の映画に出てくるヒッピーの暮らしに憧れ、リュック1つでアメリカを旅したのは22歳の頃だった。車の中で朝目覚めると、マクドナルドのトイレで髪の毛を洗った。洋服は落ちてるのを拾った。食べ物は、1日1回、ホールフーズのサラダバー。―9$。バス停でマダムにビスケットを恵んでもらうこともあった。持ち物はリュックしかない。失うものがないと、こんなにも普段は勇気が必要なことができるものか。サンタモニカに着く頃には、力強い武将髭が伸びていた。

何かの本で読んだ一節。「お金とは最も流動性が高く、どんどん価値が失われていくもの。お金をお金のままにしておくことは許されず、どれだけ唯一無二な何かに変換できるかが人生において重要だ」

アメリカを縦断横断し、数十万円は財布から出て行った。でも、旅で得た「肝」は未だに僕の中に残っている。仮に今後全てのお金を失ってもそれは残り続けるのだろう。               (いわき民報掲載)

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