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ゆういちの一生 第10話「夜に駆けた後」

ゆういち、小学5年生。

ゆういちは10歳になりました。
小学5年生です。

「太陽の町」と呼ばれている仁尾町に転校してきました。
住むことになったおばあちゃん家は
ゲジゲジやヤモリが出る
すごい田舎です。

面白いことが好きだった僕にとっては、
家にゲジゲジが出ることも学校でのネタの一つでした。

町は転校前よりもさらに閉鎖的で、
「みんなと同じでなければならない」という空気があります。

校則でもないのに男子はほとんどの子が坊主頭です。
男子は地域の野球チームに入っているからです。

勉強はできるけど、運動できないゆういちは
男子から仲間外れ扱いをされ、
バカにされ、たまにいじめられます。

お昼休みに教室で女子と遊んでいると、
廊下から男子たちが
「女の中に男が一人♪」
という歌を歌ってはやし立てます。

地域性か当時の流行か、ヤンキーみたいな子が多く、
あまり気の合う子がいなくて、いじめられないように
小さくなって過ごしていました。

太陽のような女の子。

そんな中で、僕に興味を持ってくれる女の子がいました。

かるよちゃんです。

明るくて、おもしろくて、きれいな顔をした子です。
「太陽の町」に住んでいるだけあって
太陽のような子でした。

かるよちゃんとの日々。

かるよちゃんはよく僕の家に遊びに来ました。

一緒に宿題をしたり、


夏休みの宿題のポスターを一緒に描いたりしました。

音楽の授業で、僕は笛を吹くのが苦手だったので、
一緒に海へ行って練習したりしました。

テニスに誘ってくれたことがあるのだけど、
僕がスポーツ苦手であまり盛り上がらなかった気がします。

不思議なところも。

かるよちゃんは、ちょっとおかしなところがありました。

その子が僕の家に遊びに行く理由を、周りの子に
「ゲジゲジを見たいから」と話していました。
でも、二人でゲジゲジを見た記憶はありません。

漢字の練習。

教室で、かるよちゃんが、
僕の名前をノートに繰り返し書いていたこともあります。

「なんで書いてるの?」
と聞かれ、かるよちゃんは
「漢字の練習。」
と答えていました。

一緒にいて楽しかったことを覚えています。
お互いに大好きだったんじゃないかと思います。
今考えるとはじめてできた彼女だったのだと思います。
でもその時は、僕の頭が幼すぎて、ただの女の子の友達だったかもしれません。

太陽の町の影。

二人だけの世界なら、もっと続いたかもしれません。
しかし、ここは太陽の町。

美術の時間に、ねんどで人の顔の像を作ることになりました。
「風船を膨らませている顔」がテーマです。
できあがった作品を棚の上に展示してあったのですが、
ある日、僕の作品と、かるよちゃんの作品が並べて置き替えられていて、
しばらくすると、キスしているように向かい合わせて置かれていました。

僕とかるよちゃんが仲が良いのをひがんだ誰ががやったのでしょう。
そんな奴は、ほっとけばよかったのですが、
男子からは仲間外れ的扱いをされていたので、
その時の僕は、男子に仲間入りをしたかったという気持ちが大きかったのでしょう。

失敗をしてしまいます。

ある日、水泳の授業中。
同じコースを順番に泳ぎます。
僕の後に続いてかるよちゃんが泳いでいました。

でも、僕は水泳も苦手です。
もたもた泳いで、プールから上がると、

かるよちゃんが

「遅いなぁ!パンツ脱がすよ!」

と言いました。

お互い、これは冗談だと分かっていました。
でも、男子たちのひがみにうんざりしていた僕は

「こいつ、パンツ脱がすって言った~。スケベや~。」

と、反射的に言いました。

そして、僕はそのことを謝ることができず、
その日で、二人の関係は終わりました。

後から聞いた話では、
かるよちゃんは僕にフラれたと話したそうです。
「え~、あんな奴にふられたん?」
と言われている声が聞こえてきました。

今思うと、かるよちゃんは、とても自由な子だったのだと思います。
たぶん、僕と付き合っていることは、周りからいろいろ言われただろうに、
そんなことは僕に言わずに、一緒にいてくれたのでしょう。
僕が求めていた自由はすぐそこにあったのに、
僕はそれに気づけなかったのです。

「好きな人と一緒にいることの何が悪いの?」
そんな声が聞こえてくるようです。

僕のことをおもしろいと思ってくれて、
一緒におもしろがってくれる。
最高の彼女でした。
今でも僕の中で大切な人の一人です。

ありがとう。かるよちゃん。
今の僕は、当時よりはだいぶ自由になれたみたいです。


続き。


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