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離婚して自分の人生を生きていく③


第三章 婚姻費用分担調停+α

裁判所という場所

調停というのはどんなものなのか想像できない世界だったが、経済的に不安もあったので、とにかく早めに申し立てを済ませ、ついに1回目の調停期日を迎えた。

各地方で家庭裁判所の内部は違いがあるのかもしれないが、私の管轄の裁判所に入るには、まず入り口に空港の手荷物検査と同じような構造のゲートがある。金属に反応する例のやつだ。手荷物もしっかり透視されて中を確認され、危険物は持ち込めないことになっている。警備員さんも何人もいて、見るからに厳重だ。

調停の部屋がある階は決まっていて、そのフロアには調停の部屋がいくつもあり、同じ時間帯に常に10件以上の調停がある。申立人と相手方で待合室が分かれていたり、待合室への入り時間をずらしたり、当事者同士ができるだけ鉢合わせにならないように配慮されている。

調停では、1案件に1つの部屋が割り当てられていて、男女の調停委員が1名づつが担当している。調停の部屋には大きめの机が一つ置いてあり、そこで面接のような形で調停委員と対面し自分の話をしていくのだ。申立人と相手方が交互にその部屋に呼ばれ、双方の話が聞かれることになる。調停委員は法律のプロではない場合もあったり、よく当たり外れがあると言われることがあるらしいが、私には普通のおじさん、おばさんに見えた。

調停で自分が話すのを待っている人で一杯になった待合室では、長いすがいくつか並べられていて、他人同士が割と近い距離で座っている。テレビなど音の出るものは何もないので、弁護士などが案件について話している内容は周りに丸聞こえだ。離婚調停してるらしき人もいた。でも、みんなある意味自分のことに真剣なので、全然気にしている様子がない。周りなんか気にしてられない、どうでもいい、そんな雰囲気に圧倒されたと同時に、ここは戦いの場だということを再認識した。これから、私は自分で婚姻費用について調停委員に主張しなくてはならなのだ。そして、調停委員をこちらの味方につけて、相手を説得してもらわなくてはならない。これからの私と娘の生活がかかっている。

納得してもらうポイントは2つ。一つ目は別居せざるを得ない状況だったと認めてもらうことと、二つ目は裁判所の定めた婚姻費用の算定表に基づいた相当額を請求すること。ドキドキしながら、待合室で呼ばれるのを待っていた。

婚姻費用調停1回目

まずは申立人である私から話を聞かれた。「別居した経緯を教えてください」
私はできるだけ詳細に別居になった経緯を説明した。経済的なことの話し合いができない状態で、その話になるとヒートアップして暴力があったこと、今は距離が必要だと思い連絡をブロックしていること、私も相手も冷静ではないので、今後離婚するかどうかも距離をとって考えたいということを話した。

途中、子どもの話題になり、さすがに言葉に詰まって泣いてしまった。子どもが父親に懐いていたので、ここまで我慢してしまったが、最終的には両親が争うところをこれ以上見せるべきではないと強く思ったことを話した。

調停委員からは、ずいぶん経済的にひどい状況なのによく耐えられましたね、と言われたが、そんなにひどいとは自分では思ってなかった。世の中には自分より大変な人は沢山いて、自分は健康で身体的な暴力を振るわれてるわけではないし、働くことができていたので、これくらいでは誰も助けてくれないと思っていた。誰かに言ったって、そんなやつ早く別れろって言われるだけで、そしたらもっと経済的に苦しくなるのではないか、そう思っていた。

DV(ドメスティックバイオレンス)と聞いて思い浮かべるのは、身体的暴力が圧倒的に多い。ここ数年でモラハラ、精神的暴力、経済的DV、デートDVなど広い範囲での暴力が世間に定着してきたと思う。当時の私は本当に無知で、自分が経済的DVを受けていて、言葉でも精神的に支配されていたということに気づいていなかった。

ソウから言われ続けた、「なんでこんなこともできないの」「俺をイラつかせるなよ」「全部あなたが悪い」などの私を見下した発言に腹を立てながらも気にしないようにしていたが、それが私の自信を奪っていたことに気づいていなかった。

一方、ソウの話す番になると30分以上待たされた。何を話しているのか詳細はわからないけれど、営業職の彼は私とは違って話すことを得意としている。話を盛ることもできるし、平気で嘘もつく。自分の有利になるように話しているんだと想像はついた。

ようやく、もう一度私が調停委員に呼ばれて部屋に入る。調停委員から、相手からの話を聞かされた。「ソウさんは、あなたと娘さんに家に戻って来てほしと話しています。あなたが話したことは大筋では認めていて、自分が悪かったと話している。もう、そういう事がないように気をつけるからという事でした。あなたの意見はいかがですか。」

これは意外な展開だった。自分がやったことについて全否定してくると思っていた。ソウが自分の非を認めたのは私にとっては幸いだ。しかし、私は家に戻る気はない。後半のそういう事がないように気をつける、という部分は信用できない。今まで何回も聞いたセリフで、約束が守れたことなんかないじゃないか。「家に戻る気はありません。別居を続けたいので、婚姻費用の分担をお願いします」調停委員にはっきりと伝えた。

今回は互いの言い分を伝え合って1回目の調停は終了になった。次回は一ヶ月半後の期日に決まった。調停めんどくさいなと感じる人もいるかもしれないが、私は直接話さないって、いいね!と感じた。私のような口下手とソウのような口八丁では、この手の勝負はいつも決まってしまう。そこの間に調停委員というワンクッションが入ることで、口下手タイプは精神的な負担がかなり減るのだ。
調停委員はこちらの話をとにかく聞いてくれる。言いたいことを要約して、こういうことですかと聞いてくれる。逆に口八丁タイプの人は、自分のペースに相手を取り込めないのでやりにくいとは思う。弱い立場の人は、ある程度守られた環境じゃないと自分の伝えたいことを伝えられないこともあると思う。そういう人のためには調停は良い制度だと思う。

夫婦関係調整調停(円満調停)

調停の相手方になると突然裁判所から手紙が来ることになるので、非常に驚くことになる。私はその立場をこの後味わうことになったのだ。ソウは、私が調停を申し立てた後に、今度はソウ自身が申し立て人として夫婦関係調整調停(円満調停)を申し立てきた。申立ての動機としては「同居に応じない」と書かれていた。

夫婦関係調整調停(円満調停)
 夫婦が円満な関係でなくなった場合には,円満な夫婦関係を回復するための話合いをする場として,家庭裁判所の調停手続を利用することができます。
 調停手続では,当事者双方から事情を聞き,夫婦関係が円満でなくなった原因はどこにあるのか,その原因を各当事者がどのように努力して正すようにすれば夫婦関係が改善していくか等,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をする形で進められます。
 なお,この調停手続は離婚した方がよいかどうか迷っている場合にも,利用することができます。

裁判所

婚姻費用の調停が不調になり審判となったとしても、夫婦関係調整調停で調停を引き延ばす気なのだろうか。それともただの仕返しなのか。とにかく気持ち悪かった。こんなことをしてくる人と、再同居などあり得ない。
そういうわけで、次回の調停からは、婚姻費用と夫婦関係調整の調停を合わせて行うことなった。

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