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おいしいの世界が変わった。

みなさまこんばんは!女将です。

 最初に店の現状についてご報告させてください。新年の営業を見合わせていた最中の1/12に福島県でも飲食店の時短営業要請が出まして、それを受けて慎重になってしまう私としては、今は不要不急の会食は控えいただく時期だなと考えております。

 ただ、この数ヶ月、楢葉町周辺の単身世帯の方々に食生活についてのヒアリングをしてきましたところ、「会食」ではなく「日常食」の方にも様々なニーズや困りごとが隠れていたのだなと気づき、「月額制の定期的な惣菜デリバリー」と、店内での「20時までのお一人様ごはん」、「惣菜のテイクアウト」をご利用いただけるよう至急準備をしております!いつまで準備してんだよ、と自分で情けなくなるのですが、、、またぜひご報告させてください。

 さて、本日のnoteは、前回のみにおかみからのバトンを受けて、この土地で私が考えるようになった食文化について書かせてください!

ときさんちの食卓

 私が料理の素養もないまま居酒屋を始めてしまったことは以前にも書かせてただいたのですが(汗)、当初スナックを始めようと思っていた私が、家庭料理がでてくる居酒屋へと業態を急変更して店をオープンすることができたのは、「ときさん」との出会いのおかげです。

 4年前。「楢葉の料理名人だから会っておいたほうがいい!」と、ある方の紹介で連れて行っていただいたのが、ときさんが一人暮らしされている一軒家でした。大きな声で「いらっしゃーい!上がりな上がりな!」と、はちきれそうな笑顔で迎えてくださいました。

 8畳ほどの居間に、コタツテーブルを囲むように二人がけのソファーと座椅子、座布団が数枚用意されていて、「座りな座りな!」と言われるがままに座布団に座ると、台所と居間を行ったり来たりしているときさんが「これ飲みな!」「これ食べな!」と、テーブルの上に次から次へと料理を運んできてくれるのでした。部屋をキョロキョロ見回すと(行儀が悪いとは思うのですが)、果物がたくさんお供えされたお仏壇と、そこに飾られた家族写真、襖の上にはご先祖様と思われる方々のお写真がいくつか飾られていました。棚には生活雑貨のような小物がたくさんありながらもまとまっていて、お家は玄関から廊下、居間の隅々まで綺麗にお掃除されているのが見た目にも空気でも感じられました。

 千葉からきて楢葉でスナックを始めようとしている経緯をお話ししたところ、「このへんには飲食店がほとんど再開してねっから、食事するとこがないのにスナックやっても流行んないぞ。料理も出さないと。手伝ってやっか?」と、ものすごい急展開でときさんにお料理を助けていただくことになったのですが、この日からときさんにどれだけお世話になったかを書き出すとすごい文章量になっちゃうので、別の機会にじっくり書かせていただければと思います。

「おいしい」の世界が変わった。

 ときさんがテーブルいっぱいに出してくださった料理の数々。根菜の煮物、山菜の煮物、茄子の揚げ浸し、おいなりさん、手羽先の煮たの、きゅうりのぬか漬け、しそ葉のおにぎり・・・そのどれもが、びっくりするほど美味しいのです。「おいしいぃいいいいいい!」と叫ぶ声が止まらないくらいに、どれもこれも箸が止まらないのです。私の反応を見ると、ときさんはまた台所にいって、「これも食べてみろ!」と新しいタッパを出してくれるのでした。

 そのときどういうわけか、「本当のごはん」という言葉が浮かびました。本当のごはんってこういうことなんだ、と。味付けだけの問題ではない、その「本当」の中身は当時はわからなかったのですが。

「おいしい」の勢い 

 ときさんちの食卓を思い返すと、今ならわかることがいくつかあるのです。ときさんちにはお友達がたくさん遊びに来るので、常に冷蔵庫に料理が作り置きされていて、いつでも振る舞えるようになっています。その季節ごとに手に入った食材で作り置きをして、食べきれないものは冷凍庫にたくさんストックされている。

 なぜそんなに作ってあるかというと、とにかくみんなに食べさせるのが好きで、何より料理が大好きなのだと思います。

 私がときさんちに行って体験するのは、例えばときさんがお友達から南瓜をもらって喜んで、こうやって料理したら美味しそうだなとあれこれ考えて、居ても立ってもいられなくて台所に立ち、ものすごいスピードでダダダーっと料理をして満足げに皿に盛り付けた、その「勢いの残像」のようなものだと思うのです。勢いの中には、お友達の畑から南瓜が育ってきたその勢いも、なんだか込められているような気配があるのです。

 冷蔵庫に眠っていたそれらのお料理がチンされて食卓にのぼるときも、「これ食べてみろ!」と言うときさんの満足げで嬉しそうな口調と共に、勢いは私に生き生きと伝わってきます。ときさんちの空間に込められた情報の数々が、そのお料理の背景を伝えてくるのです。

 料理を"レシピ"以外でおいしくしている要素があるだなんて、それまで考えてもいなかった私にとって、本当のおいしいっていうことなんだ!と、世界が変わるような衝撃をうけました。この衝撃は、ときさんちを皮切りに、楢葉町のいろいろなお宅にお邪魔してご飯をいただく度に積み重なっていき、こんな「おいしい」食卓を作り出している楢葉町、浜通り、福島県ってどういうことなんだ、という興味へと発展していきました。

 その先に私は漬け物にたどり着いたのですが、その話はまた明日聞いてください。長文読んでくださりありがとうございました。おやすみなさい。

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