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漬物を教わる。前編

「もしもしこんにちは、古谷と申しまして、○○さんのご紹介でお電話させていただきました!白菜の漬物の名人でいらっしゃると以前から伺っておりまして、ぜひ教えていただけないかなあなんて思ってご連絡させていただきました。」

電話の向こうの方は、見ず知らずの私からの申し出に快く対応してくださった。

「なんにも特別なことしてないんだけど、みんな美味しい美味しいって食べてくれるのよ。教えるなんてたいそうなことはできないけど、一度そうだね・・・白菜買ってきたらまた電話くれれば、教えに行ってあげようか?」

「ありがとうございます!では、白菜を買って準備できたらまたお電話します!」一人で頭を何度か下げ、時間をかけて電話を切ると、大きく息を吐く。一歩進んだ。

おしんこねえのか?

楢葉町で家庭料理の居酒屋を始めて、どったんばったん紆余曲折ありながらも2年が過ぎた頃、素人から始めた家庭料理も、お母さん達からのご指導のおかげで進歩はしていた。お客様と会話することが目的で開いた店なので、営業中は料理の手を止めてお客様と向き合いたい。なかなかそんな思うようには行かないけど、できる限りの工夫として、予め作っておける大皿料理を中心にメニューを構成するようになっていた。

おひたし、和え物、煮物、揚げ浸し、煮浸し、おでん

予め作っておけて、かつ、味や色の変化が少ない調理方法。

そんなメニュー構成に対して、地元のおじちゃん達から要望が多いのが、「刺身ねえのか?」と「おしんこねえのか?」だった。

漬物の種類

お刺身と並ぶくらいに要望の多いおしんこ。

おしんこ・・・ってなんなんだっけ?

実際どういう調理方法のことだっけ?


漬け物を大きく「浅漬け」と「古漬け」に分けた時に、「浅漬け」に分類されるものの呼び名だということが後に解ったけれど、

じゃあ漬け物ってなんだっけ?古漬けってなんだっけ?


これまで教わってきた煮物や炒め物や和え物には感じたことのない、それがどういう調理なのかがさっぱりわからないという感覚だった。

レシピ通りつくったつもりでも

 地元のおじちゃんたちは相変わらず、「おしんこねえのか」、夏には「ぬか漬けねえのか」、冬には「白菜の漬け物ねえのか」とおっしゃる。料理本に書かれているレシピの通りに作ってみても、どうもうまくいかない。市販のぬか床を使って漬けてみても、どうも正解がわからない。

 失敗を繰り返していくうち、家庭料理の種類の中でも、漬物が別物のように感じるようになって行った。他の料理は、材料を切って加熱して味付けするなどして、数十分で完成するものが多いけど、漬物は干す、塩をふる、重石をして水を上げるなど、一つ一つの工程が長く、日を跨ぐ作業。レシピの通りに作ったつもりでもうまくいかないということは、その行間に、表現しきれないコツが隠されているのではないか。私はだんだんと、漬物の奥深さに気づかされていった。

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