将棋めしとおやつの旅・大阪市福島区(6)パティスリークロシェ
お次はパティスリークロシェ。王位戦第4局2日目午前のおやつ「リーフパイ」と「クッキー(アールグレイ)」の店である。
マルチアングルの食レポで紹介されたときにロゴがとても見えにくく、店舗を突きとめられないかと思いきや、本放送でしっかりロゴが映った。
他店のカステラ(と、フィナンシェと、トラ焼)を両手に下げての入店は、ドアを開けるのも一苦労、心情的にも誠に気がひけるのだが、この旅のコンセプトを鑑みれば仕方がない。
急遽関西将棋会館での対局となった王位戦第4局のおやつを準備した将棋連盟職員の方も、きっとこんな風に両手に他店の紙袋を下げて買い回りをしていたことだろう。これでいいのだ。
さて、パティスリークロシェは黒と金が基調の落ち着いた店だった。ピエール〇ルコリーニを彷彿とさせるラグジュアリー感がある。
店名が見えづらいのはお菓子のパッケージロゴだけではなく金の銘板もだった。星のマークがわずかに見えるだろうか。
善悪を超えたひとつの芸術作品みたいなケーキやチョコレートが正面のショーケースの中にゆとりをもって並べられているが、私の獲物は乾きモノである。
それらは壁沿いの棚に並べられていた。透明なパッケージにくるまれた、余計な飾りの無い質実剛健な焼き菓子たち。存在そのもので勝負している感じがして、とても期待が持てる。
リーフパイは個包装で1枚から買えるし、アールグレイのクッキーは4個入りで、王位戦おやつで見たままのものだ。ホテルに戻ってからいただくとしてもさほどお腹を圧迫しそうにないところも嬉しい。
さて、苦手な食レポである。
リーフパイの表面、アールグレイのクッキーの側面は、粒の大きい砂糖のザラメ感がいいアクセントになっている。このジャリっとした食感と甘みが実に良い。対局中ならブドウ糖以上に脳の疲れを取る効果があるかもしれない。そして、コーヒーがいくらでも飲めそうである。
ショップカードの金とグレーのインクの2色刷りには親近感をおぼえつつも感服。
予算不足で金の箔押しができず、鈍い色の金インクを使うたびに、忸怩たる思いで「カレールーの箱みたいにギラギラした金箔より、金インクの方がむしろ上品で高級感を醸し出すってものよ」と負け惜しみを言ってきた私だが、このカードはさらりと余裕の表情で、一切負け惜しんでなどいない。本当に上品で、素敵だ。
さて、パティスリークロシェを後にし、ホテルに向かって歩いていると、とある店の名前を見かけた。
将棋Bar ルゥク
菓子店を巡ってただ歩いていただけなのに、恐るべき観る将の嗅覚。いや、視覚。
こちらは、棋士の先生方が訪れてイベントや指導対局をなさったりすることもある、言わずと知れた将棋バーである。木村九段の揮毫した将棋盤も飾られているという憧れの店だ。
残念なことに真昼間から開いてはいない。さらに残念なことに開店していたとしても、私は充分な棋力と度胸を持ち合わせていない。
両手を合わせて拝み、木村九段の「百折不撓」の文字に思いを馳せながらその地を後にした。
(つづく)
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