将棋めしとおやつの旅～東京・その１（プロローグ）

　２０２１年１１月。男は困っていた。行きたいライブが結婚記念日と被っていた。切り出したら妻はどんな顔をするだろう。去年は妻の提案で秦野市へ１泊旅行した。今年も何らかの期待があるに違いない。
　うまく許しを得ることができたとしても、行ったが最後、「結婚記念日なのにあんたひとりでライブに行っちゃったよね」とネチネチ言われるに違いない。それも、そこから毎年。
　しかし、彼はツイていた。ある日、妻の方からこんな風に切り出してきたのだ。
　「あのさ、私、来月のこの日、木村先生のトークショーに行ってくるわ。」　
　それは彼の行きたいライブ（結婚記念日）の前日だった。
　「僕も行きたいライブがあって、その次の日なんだけど…。」
　「じゃあ、今年の旅行は東京にしようよ。」
　男は頷き、心でガッツポーズをした。妻の組み立てるマニアック旅に連れ回されることになったが、だいたいは美味い店だ。それに付き合う方が一生ネチネチ言われるよりずっといい。

………と思ったとかなんとか…？

　さて、そんなわけで今回の旅は東京。同伴者である夫が行きたいライブのために１泊することになったが、そのライブは旅の最後の最後である。そこまでは私が自由に旅程を組み、好きなものを食べ、行きたいところに行く。つまりはほとんどがお決まりの将棋めしとおやつの旅となる。しかも運転手で荷物持ち時々財布の同伴者がいて多少の無理もきく。願ったり叶ったりではないか。

　将棋めしとおやつへの探求心全開の旅ではあるが、残念なことに胃袋には限りがある。限界を知りつつも無理を承知で無理をするのが信条なので、良い子は気を付けて真似してほしい。健康第一。

　それでは、はじまりはじまり。

（つづく）