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「いい会社」ってどんな会社?

東京証券取引所が上場企業に対して資本効率の向上を要請したこともあり、会社の中に滞留する余剰資金を株主に積極的に還元する自社株買いが活発化している。自社株買いをすると会社が発行する株式数が減少する。そうなると、一株当たりの利益や資産価値が改善して株価が上がるため多くの株主は大歓迎だ。株価が上がれば経営者の報酬も増えることだろう。

しかし、株式市場とは本来、会社が成長に必要な資金を調達する場である。会社の中でお金が必要以上に滞留したり、自社株買いで資本効率を高めて株価を上げることが当たり前になったりしている状況は、見方を変えれば、未来に向けた人財投資や事業創造に向けた経営力が弱まっているようにも映る。自社株買いは、社会や経済全体から見た時に必ずしも喜ばしいことではないのだ。



「いい会社」とは?


鎌倉投信が運用する公募型の投資信託「結い 2101(ゆいにいいちぜろいち)」では、独自の視点で「いい会社」に投資しています。「いい会社」とは、一言でいえば、本業を通じて社会に貢献する会社であり、会社に関る全ての人の幸福を追求しようと努力している会社です。

社会に貢献するとは、決して事業性や収益性を犠牲にするものではありません。社員の成長や社会をいかによくするといった視点を持つことは、付加価値を創造したり、新たな事業領域を発掘する上で欠かすことができないからです。実際に「結い 2101」の投資先の業績を見ると、株式価値を表す「会社の純資産と配当金」の増加率は、毎年安定して7%~8%成長し、来年度(2024年度)の売上と営業利益の予想増加率は、上場会社平均の概ね2倍です 。

株価を上げることだけを目的にした投資や市場指数に含まれる全ての会社に丸ごと投資をしても「いい社会」「いい未来」をつくることはできません。「いい会社」への投資こそが「いい社会」をつくります。

では、「いい会社」とはどのような会社でしょうか。


「いい会社」が持つ経営の3要素


鎌倉投信は、創業してからずっと「いい会社」とは何かを探求し続け、観つづけてきました。その中で、会社が、「いい会社」を目指す上で大切な要素が3つあると感じています。

一、会社の事業を担う社員を大切にしているかどうか
二、誰と共に社会へ価値を提供しようとしているか
三、他者にはない独自の強み、差別性があるかどうか
です。

それを鎌倉投信では、わかりやすく「人」「共生」「匠」と表現しています。

「人」とは、人財を生かせる会社かどうかです。社員個人の尊重、企業文化、経営姿勢などから醸し出される会社の雰囲気の中に、会社の存在目的である「ありたい姿」、言葉を替えると「吾社はなに屋」かが明確であるかどうかです。

次に、「共生」とは、多くの人と共に持続的な社会をつくっていくという視点から、顧客、取引先、地域社会、自然環境などとよい関係を築いているか否かです。そこには、個社を超えた他者との共感力の高さがあります。

さらに、「匠」は、それを「どのように実現するか」という観点から、商品・サービスの優位性や独自性、市場性や収益性、変化への対応力や革新性に強みを有するかどうかです。

それら「人」「共生」「匠」は、相互に深く関係するもので切り離すことはできません。そして、会社の本気度は、相互の繋がりを深くし、深ければ深いほど会社の発展性と持続力は高まり、より社会に影響力を持ち続けるでしょう。これが「いい会社」が持つ基本的な要素です。


株式投資は会社に働く人に投資していることと同じ


いい社会をつくるのは人であり、人が共通の目的を持って集まった組織が会社です。そういう意味では、株式に投資するということは、会社に働く人に投資しているといってもよいでしょう。

そして、人も会社も個性が大切です。特に会社は、存続していくためには他社との「違い」、すなわち「個性」がなくてはなりません。各社の思想信条への想いが純粋で、深ければ深いほど、自ずと違いが現れて会社の個性となり、それが差別化の源泉へとつながっていきます。

では、個性の基礎をなすものは何でしょうか。人も会社も同じで、自分たちが大切にする価値観や世界観ではないでしょうか。「いかにありたいか」「わが社は、なに屋であるか」を自らに問い、組織および個人の活動を通じて「何を実現するか」という目的達成への自覚から生み出されるものだと考えています。

また、会社の社会的責任において本質的に大切なことは、ジェンダー、年齢、国籍、ハンデキャップといった概念を表面的に解消することでもないでしょう。大切なのは、組織に集うあらゆる個性の表れの度合いであり、その個性を調和させて方向づけていくことができる会社の組織風土をつくることだと感じています。

そして、そうした会社の組織風土をつくる大切な要素であり、社員の仕事ぶりや、個性の発揮に強い影響をもたらすものは、何よりも社内で繰り返される言葉、すなわち経営理念ではないでしょうか。それこそが、個性の求心力の中心であり、ESGでいうところのG(ガバナンス)の根幹をなすといえるでしょう。

上場会社におけるガバナンスとは、一般には「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義され(「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ 」日本証券取引所)、これを量る項目として、取締役会の人的構成や監査委員会の独立性、経営陣の報酬開示、汚職や不正防止といった企業倫理などが挙げられます。しかし、こうした取り組みで優良とされる会社でも、しばしば不祥事や経営を揺るがしかねない問題が生じるように、会社の持続的成長を支える重要な柱は、他にあるのではないでしょうか。

僕は、それが

一、経営思想
二、健全な危機感
三、経営を革新する力

だと考えています。

会社の存在目的を達成するためにこれらの三つを機能させ、持続させるための仕組みづくりこそがガバナンスの本質、つまり会社経営の根源だと思うのです。いずれも定量的に量ることが難しいだけに、経営者と繰り返し面談する中で発せられる言葉や実際の行動、現地を訪問して職場の雰囲気や働く人の表情などに実際に触れることによって感じ取るものだと思っています。


経営思想と健全な危機感


では、「経営思想」とは何でしょうか。経営思想とは、会社経営に対する経営者の思想や哲学、信念を意味するもので、経営者が会社の事業を通じて自社の存在目的である「経営理念」を実現するための根本精神にあたるものです。突き詰めれば、「会社の存在目的を深く自覚し、その目的達成に向けた存続責任の果たし方への信念、とりわけ、社員の一人ひとりの人生を預かり、幸福を探求し続けることへの想いの強さ」の表れともいえるでしょう。そして、その実現のために求められる必要不可欠な能力が、危機対応と経営を革新することの二つの能力だと感じています。

一言で「健全な危機感」といっても見方は多様ですが、僕に深い気づきを与えてくれたのが、2012年秋に鎌倉の建長寺で開催した「結い 2101」の受益者総会(R)でのことでした。受益者とは、投資信託を購入しているお客様のことをいいます。受益者総会とは、鎌倉投信が運用する「結い 2101」の決算報告会です。年に一度、顧客である受益者に集まっていただき、投資信託の決算報告をおこないながら、毎年テーマを決めて投資先の経営者に講演してもらい、様々な会社が出展してくれる機会となっています。投資家と投資先の会社とが一同に会し、顔の見える関係をつくる「場」でもあるのです。

※受益者総会は、鎌倉投信の登録商標です。

気づきを与えてくれたのは、その場での、世界最速のプラスチック射出成形品取出ロボットを製造・販売するユーシン精機(本社、京都府京都市 東証プライム上場)の小谷眞由美社長(当時)と受益者とのやり取りでした。

「名門企業の不祥事が相次ぎ、今、会社の信用が揺らいでいます。ユーシン精機にとっての信用とは何ですか」、との受益者の問いに、小谷社長は、一瞬の間をおき、このように答えました。

「信用とは約束を守ることと違いますか」、と。

静かに、しかし信念に満ちた口調で発せられた一言に、会場が水を打ったような静けさに包まれた光景を、今でも鮮明に覚えています。

リーダーの「約束を違(たが)えない」という信念、言行一致の強い姿勢は、周囲にも影響を与えます。そして、約束を守ることへの自覚は、自ずと主体的に責任を果たす意思を宿し、信頼醸成の礎となって組織に浸透します。更に、そこに利他的精神が合わされば合わさるほど、交わした約束の範囲を超えて、顧客や取引先、社会の潜在ニーズを感じ取る力を高めることにもなるでしょう。逆に困難に直面した時には、共に力を合わせて乗り越える原動力となり、外部の協力も得られやすくなるものです。

一定の規模に成長した会社の場合、外部環境の変化によって存続の危機に陥ることは稀です。その真因の多くは、組織における危機感の希薄化、慢心や油断からでしょう。そして、危機感の希薄化を生じさせる根本原因は、組織に属する人の主体性の欠如、他責型の人がふえることにあります。「約束を守る」とは、責任への自覚、主体性を喚起し、結果的に、健全な危機感を醸成し「存続の力」になることなのだと、小谷社長から教わりました。


経営を革新する力


ガバナンスを機能させる上で欠かすことのできないもう一つの要素が「経営を革新する力」です。会社にとっての「存続」は、会社の存在目的、社会的責任を果たすうえで必要な条件です。そのためには、変化する時代環境の中で適応し続けられるように事業を進化させ続けなければなりません。「経営を革新する力」とは、僕が尊敬する経営者の一人でもあるクリロン化成(本社、大阪府大阪市 非上場)の栗原清一会長の言葉を借りれば、事業の寿命を会社の寿命にしないための挑戦であり、「現在の顔をした過去との戦い」、といえるでしょう。

「結い 2101」から投資をする第一稀元素化学工業(本社、大阪府大阪市 東証プライム上場)は、創業から一貫してレアメタルの一種「ジルコニウム」に特化した商品を開発し続けています。そして、ジルコニウムが持つ多様な特性を活かし、防水材から始まった事業は、鉄鋼の鋳造用から自動車の排ガス浄化触媒用など、各時代の花形産業に対応し続けた結果、ジルコニウム化合物トップメーカーとしての地位を築きました。今はさらなる時代変化に合わせて、燃料電池用電解質の原料や、リチウムイオン電池正極材添加材を提供するなど、世界のエネルギー革命の一翼を担い、社会的課題の解決に貢献しています。

また、同じく「結い 2101」の投資先で、つねに不可能に挑戦しつづけることへの決意を表した「不への挑戦」を経営理念に掲げ、高度な超精密微細加工技術を持つ金型メーカーである鈴木(本社、長野県須坂市 東証プライム上場)は、技術の進化と共に、得意とする自動車分野から半導体分野、さらには医療分野へと事業領域を拡げてきました。

「経営が厳しかった時期、社員に随分と苦労をかけた。そのような思いは二度とさせたくない」

同社の鈴木教義社長から経営を常に革新させることに向けた覚悟の原点を伺った時、胸が熱くなったものです。

経営を革新するとは、人、お金などの限られた経営資源を、どの分野に、いつ投入するかの決断に他なりません。そのため、経営者には冷静な分析力と判断力が求められる一方で、「いつ」については、ある面で「直観力」、優れた経営者がしばしば用いる言葉でいえば「運」、が求められるようにも感じます。これらは「経営者の資質」といえるかもしれません。

もとよりこうした取組みに正解はなく、答えは100社あれば100通りで、かつ終わりはありません。冒頭の自社株買いの話に戻すと、多くの人の関わりの中で積み上げてきた会社の余剰利益を何に投資をし、誰に還元していくのか、ここにも経営者の思想が現れます。表面的に資本効率を高め、株価を上げることを目的とした自社株買いに日本の未来を感じないのはこうした理由からです。

長々とお付き合いいただきありがとうございました。次回、「いい会社」が持つ「共生」について書いてみようと思います。


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