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「結い 2101」の投資の着眼点「共生」 ~自然・地球環境との対話~

日経平均株価が、35年ぶりに史上最高値を更新した。円安で自国通貨が高くなっている海外投資家の日本株買いに加え、大手商社などが自社株買いによって資本効率を高めるなど、株主還元に対して積極的な姿勢を示したことが好感され大型株を中心に値上がりした。円安は国力の弱さの表れでもあり、自社株買いは新たな投資領域(イノベーションの源泉)が見当たらないことの裏返しでもあるので、今の株高を手放しで喜ぶわけにはいかない。
そうした大型株相場が続く中で「結い 2101」から投資する中小型株の反応は鈍い状況が続いている。投資する「いい会社」の業績は堅調で、来年度の業績見通しは上場会社平均の凡そ2倍である。株価も魅力的な水準になっていることを考えるといつ反発に転じてもおかしくない。そんなじれったさを日々感じながら、これからの展開を楽しみにしている。

さて、前回のnoteでは、鎌倉投信が投資先として「いい会社」を選ぶときに着目している「人」「共生」「匠」の三つの要素のうち、「共生」について書きました。共生には、大きく「誰と共にいい社会をつくるか」という視点と、「自然・地球環境との対話」という視点とがあります。そのいずれも年を追うごとに重要性が増していることを実感しています。
今回は、「自然・地球環境との対話」について考えてみようと思います。


自然資本に対してお金を払う時代になった


スイスに本部を置く民間のシンクタンク「ローマクラブ」が1972年に発した警鐘「現在の傾向が続けば100年以内に地球上の成長は限界に達する」は、半世紀経ってようやく世界の主要国間で共有され、これから、カーボンニュートラル、さらにはネイチャーポジティブに向けた環境対応、ライフスタイルの転換(循環型経済・社会へのシフト)、新技術の開発などが加速する見込みです。

「CO2排出量ゼロの世界をつくる」「自然環境をプラスに転換させる」ということは、言葉を替えれば、「経済的成長よりも持続性を重視し、持続性に対してお金を払う時代になった」といえるでしょう。自然資本を無償で使い続けた資本主義、経済の規模的拡大を前提とする資本主義の大きなパラダイム転換にも映ります。こうなると、会社は、地球環境を含めた社会の持続性を高める(少なくともマイナスの影響を与えない)ことが事業継続の前提となり、一方では新たなビジネス領域の創出にもつながるでしょう。

日本の会社も本気になり始めた

このような大きな動きの中で、日本の企業にも、環境問題への取組みを自らの事業存続に必要不可欠な重要テーマとして捉える企業が増えはじめています。例えば、花王(本社、東京都中央区 東証プライム上場、「結い 2101」の投資先ではありません)は、環境問題を含めた自社のESG戦略について、225ページにおよぶ「Kirei Lifestyle Plan」を策定し、2030年までに脱炭素、ごみゼロ、水保全、大気・水の汚染防止などの達成目標を掲げました。その中では、2040年までにカーボンゼロ、さらには2050年までにカーボンネガティブ(排出量を吸収量で相殺するのではなく、排出量より吸収量を多くすること)をめざすことや、使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことをめざす国際的なイニシアチブ「RE100」に申請するなど、相当の本気度がうかがえます。こうした動きは、取り分けブランド価値を大切にする大手企業において加速するでしょう。

本業のど真ん中で環境問題に取り組む

一方、「結い 2101」で量る「共生」という評価視点からは、本業のど真ん中で本気に環境問題に取組む「いい会社」を発掘し、応援したいところです。

その事業領域とは、主に
一、自然循環型エネルギーを供給する会社
二、循環型社会の仕組みを担う会社
三、両者に求められる技術を提供する会社
です。

こうした会社は、一般のESG投資では必ずしも上位に位置しないことが多いものの、前述の時代背景の中で、存在感を高めると考えています。こうした未来を託したくなるいくつかの会社を紹介しましょう。

自然循環型エネルギーを供給する「いい会社」

排出されたCO2を光合成によってふたたび自然に還元する「バイオ燃料」の開発や、有機肥料の開発など、本業のど真ん中で、自然循環型のエネルギー供給に取り組むユーグレナ(本社、東京都港区 東証プライム上場)が一例です。10数年前から開発に挑戦し、2022年、ついに「サステオ(同社が製造・販売するバイオ燃料のブランド名)」を使用したフライトが実現しました。バイオ燃料を使用する旅客フライトは、世界では年間33万回あるといわれますが、日本ではまだ始まったばかりで、選択肢を広げる大きな一歩です。同社では、現在、世界有数のエネルギー企業2社と連携して、マレーシアで大規模な商業プラント建設に向けた共同プロジェクトが進行しています。大規模な先行投資で、一向に株価が上がらないと批判を受けることも少なくありませんが、再生可能エネルギーの領域で頑張って欲しい会社の一つです。

循環型社会の仕組みを担う「いい会社」

独自の環境循環技術とノウハウを持ち、環境に関わるコンサルティング、原材料調達から最終処理工程、脱炭素・省エネ対策における環境ソリューションの提供、自立分散型の地域創生などを通じて「持続可能社会の実現」を目指す会社がアミタホールディングス(本社、京都府京都市 東証スタンダード上場)です。

同社が設立された1970年代、環境に関連する事業といえば産業廃棄物の焼却や埋立て、鉄くずを鉄鋼メーカーに納めるなどのスクラップ業が中心でした。当時は、高度経済成長、大量生産・大量消費、物質的価値・金銭的価値で測る豊かさが優先され、持続可能性が謳われることはなかった時代です。そうした時代に抗うように、「ものづくりの現場で排出され不要とされたものは、廃棄物ではなく発生品、この世に無駄なものはない」と考えた26歳の若者がいました。アミタの熊野英介会長です。

そこから、熊野会長は、「無駄なゴミ」とされていた様々な廃棄物を分析し、代替原料としてどのように再生できるかを必死で考えます。そして、生まれ変わった品を発生元とは異なる業種に納品する事業に取組み始めたのです。今でいう「資源リサイクル」「アップサイクル(捨てられる廃棄物に新たな価値を持たせることで、異なる製品にアップグレードすること)」です。それから40年近くが経ち、8畳ほどの小さな事務所から始まった同社は、資源リサイクルを起点に独自のノウハウを積み上げ、今では、「環境といえばアミタ」といわれるほどの存在感を持つようになるまでに成長しました。

東日本大震災直後、熊野会長と共に被災地を訪れた時の光景は、今でも忘れることができません。その中で、復興に向けて少しずつ気持ちを切り替え始めた住人に対し、「復興を目指すのであれば、ただ元に戻すのではなく、新たな社会づくり、地域づくりを目指しませんか」と、語りかける熊野会長の真剣な眼差しは印象的でした。そして、実際に震災から4年後の2015年に実現した取組みが、「宮城県南三陸町の一般廃棄物を資源化する包括的資源循環モデルBIO(ビオ)」です。その翌年の株主総会で、アミタは、「自然資本と人間関係資本の増加に資する事業のみを行う」と定款に定めました。この時、熊野会長や、アミタのさらなる覚悟を感じたものです。

地球環境の持続性、ひいては社会や経済の持続性を高めること、そのために人の営みと自然との関係性の再構築が必要となるこれからの時代において、モノを循環させる仕組みを持つ会社の存在価値は高まるでしょう。アミタには、その先駆者として影響力を高めていくことを期待しています。

ところで、自然環境の問題を自分事として考える時、一番身近なモノといえば、毎日欠かさずに身に着ける衣服かもしれません。2020年年に、環境省が外部に委託した調査(環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務)によると、

・衣類の国内新規供給量は、年計80万トン。使用後に手放される衣類は、73万トン。うち、廃棄される量は、手放される衣類の64%、リサイクル・リユースされる衣類は34%。
・世界中の服1着を生産するために排出されるCO2は、25.5キロ。
・服1着を生産するために必要な水は、約2300リットル。
・令和2年度の同調査によると、(定量的な把握は困難としながらも)信頼できる機関による調査によれば、最大80%の排水が適切に処理されずに環境に放出されている。

など、衣類が自然環境に与える深刻な影響が報告されました。こうした問題をはらむ、衣料・ファッションブランドの大量生産・大量消費型のビジネス構造は、大きな社会課題領域といえるでしょう。

例えば、こうした問題に真正面から取組む会社の代表といえば、米カリフォルニアに本社を置きアウトドア・ウェアなどを製造販売するパタゴニアですが、スタートアップを含めてこの領域でチャレンジする会社は増えていますので、また別の機会に紹介します。

両者に求められる技術を提供する「いい会社」

本業のど真ん中で、環境負荷の軽減に貢献する技術を開発する個性的な会社も少なくありません。例えば、愛媛県から世界No1の産業用ボイラ・メーカーを目指す三浦工業(本社、愛媛県松山市 東証プライム上場)です。蒸気から熱をつくりだすボイラは、クリーニングや食品加工、滅菌洗浄など様々な産業分野で利用される熱供給機器の一種です。その中でも、同社は、熱効率を高めた小型貫流ボイラに強みをもち、その分野で国内60%のシェアを持ちます。ボイラの熱効率といってもピンとこないかもしれませんが、例えば、ガスコンロの熱効率が概ね30%といわれる中で、同社は独自の技術開発によって98%にまで高めてきました。

さらに、原水から排水処理にいたる様々な工程で発生するエネルギーロスや、排水を資源として再利用する技術を開発・提供することによって、製造工程全体から排出されるCO2削減や水の浄化、エネルギー効率の向上に大きく貢献しています。10度の低温排水から最大75度の熱水に再利用できるというから驚きです。

こうした同社の取組みは、海外からも高く評価され、例えば、カーボンニュートラルの実現に全面的に取組む方針を発表した中国で、同社は「中国の空を青くしよう」というスローガンのもと、石炭を燃料とするボイラから大気汚染物質が発生しにくいボイラへの入替えを推進しています。広大な面積を持つ同国のエネルギー節約に繋がることを期待したいものです。

会社の本気度をどう量るか

ESG投資など社会にいい投資を標榜する投資商品は、あるにはありますが、実のところ、そうした投資をおこなう運用会社も、その評価を受ける事業会社も、ESG評価に対して納得感をもっている会社は少ないのではないでしょうか。その背景に、「社会価値創造と会社の持続的な発展・成長との因果関係」が不明瞭で、自社の「内発的動機に働きかけるものになっていない」ことが挙げられるように感じます。評価を受ける会社にとって、運用会社などによる外発的動機によって形を整えたとしても、真に腹落ちしたものでなければ、会社の発展・成長に結びつくことはありません。僕は、「いい会社」を量るとき、本業における本気さ、言葉を替えると自社の存在目的に根差した内発的動機から社会価値を創造しようとしているか否か、を重視してきました。この視点は、今後も普遍だと思います。

広くモノ・サービスが行き渡り、一方で多くの社会課題を抱え、社会の質的転換が求められるこれからの時代において、もはや社会そのものをよくする力を持たない会社が生き残ることは難しいと感じています。また同時に、社会性を謳ったとしても、それが本業と直接結びついていない会社もまた発展・成長し続けることは困難でしょう。そう考えると、形式的、網羅的に測るESG評価はいずれなくなるか、実質性・実効性を量る評価の在り方に変わっていくでしょう。鎌倉投信も年々重要性が高まる「共生」を量る着眼点は常に見直していかなくてはならないと感じています。

今回も、長々とnoteにお付き合いいただきありがとうございました。次回は、「結い 2101」で投資をする「いい会社」の着眼点の3つめ「匠」について書きたいと思います。

※noteの中で「結い 2101」の投資先であるなしにかかわらず個別企業の事例を紹介していますが、「いい会社」の着眼点を分かりやすく示すことを目的とするもので、個別の株式などへの投資を推奨するものではありませんのでご留意ください。


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