2016年4月14日(水) ハイバイ『おとこたち』(作・演出:岩井秀人)感想

●山田…消費者金融社員となり若手ながらプロジェクトを成功させるも、自律神経失調症になり……。その後はコールセンターで働く。

●鈴木…製薬会社のMR。順調に結婚や、昇進を重ねる。

●森田…結婚しているものの、定職につかずバイト先の子と不倫している。

●津川…戦隊ものやCMなどに出演。茶の間の人気者。しかし、うまくいっていてもミスで台無しにしてしまう性格が災いし……。

●花子…鈴木の妻。きちんと子供のことをわかっていて、優しい人。きちんと怒るときは怒る人。

●太郎…鈴木の息子。人見知り。

●純子…森田の彼女。

●良子…森田の妻。

とてもおもしろかったです。Twitterで感想を調べてみたら『夫婦』より子供っぽい話なので心配という岩井さんのツイートがあったけれど、『夫婦』より『おとこたち』のほうが断然好きだった。この劇は4人の男性の(青年期から)一生涯を描いた物語。始終笑いっぱなしという感じだったけれど、実際に扱っているテーマ(マチズモとか)はけっこう重たいと思う。それが終幕間際ではそれが噴出していたと思う(『夫婦』に出てきた父親像とも重なるなぁと思った)。「笑い」と、「重さ」のさじ加減が絶妙だった。

物語は、痴呆症となった山田が老人ホームで生活しているシーンから始まる。そして妄想(?) から4人がカラオケをして遊んでいる場面に。互いに相手のことをマイクで紹介したり(マイクが使われる劇って、珍しいかも? と思った)、小さな"劇"を複数続けていく。その劇は、コントのようでもあり、友達に語る近況のようでもある。面白く無いと言って話をぶった切ったりもするし、ある場面でモブキャラをやっている時に、突然独白し始めて主要登場人物の方に“戻る”こともあったりした。だから、この劇全体が4人の壮大な「遊び」とも感じる。そのことを、岩井さんは「子供っぽい」と称していたのかな。役者は6人だけなので、違う服を羽織ったりして、役柄が変わっていくのも面白い(年齢の表現はわりと服装に現れるんだなと思った。年寄りだと茶色っぽいズボンでシャツイン。老眼鏡とか。鬘とかは特に使っていませんでした)。

右上にはスクリーンがあって、写真だったり、心内のコトバなんかがプロジェクタで移されていた。右上に表示されていた数字は、年齢のことみたい。だのに、83歳ぐらいのときにやっと気づいて、もう少し早く気づいていればよかったなぁ……、と思った。

面白いと思った表現には電話がある。森田と不倫をしている純子と、彼の妻である良子は度々電話をかける仲(?) になる(森田には気づかれないけれど)。その電話の時、良子のそばには森田がいる。そして、3人で会話しているような瞬間があって、その2つの場が重なっているような表現が面白かった。それから、初めての電話では着信音だったり、電話を耳にあてる動作があるんだけど、回数を重ねると少し離れて、普通に会話しているように見える。それでも、適宜会話が切れると「もしもし?」と言うなど、電話っぽい会話で、そのギャップ(?) も面白かった。

4人全員、一般的な男性の表象としての役割はあると思うんだけれど、主人公の山田ではなく、製薬会社でMRをしていた森田が、なんとなく主役然としていた気がする。そして、一番毒が強かった……。それは、「男性の歩むべき道」とされているものを一番体現していたからかなとも思う。山田は健康を害し、仕事をやめたこともあるし、森田や津川はアルバイトをしたり先行き不安定な職についている。それに、なおかつ、森田は結婚し子供もいる。だからこそ、終幕間際での日本の嫌な部分が濃縮されたような、話になったのかも。見ていて、つらいような苦しいような、切ないような、そんな気持ちになりました。そこから、物語の冒頭の流れへとリフレインするのも面白い。カラオケ屋は、久しぶりに4人集まった死後の世界みたいなものなのかもね。

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