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セールスフォース大量解雇の内幕を伝えた米メディアの4200ワード記事。混迷報道で「士気低下」CEOが地団駄

Business Insider USが4月28日、セールスフォースの大量解雇までの内幕を伝えた4200ワードのBIG STORYを打ってきた。

"The inside story of how Salesforce went from gifting ultra-luxury cars to mass layoffs and a 'showdown' between co-CEOs"

マーク・ベニオフCEOのセールスフォース創業、世界No.1CRM(顧客管理クラウド)としての成功、幹部に高級車を贈るような栄華、思いやりのある資本主義(ステークホルダー資本主義)やオハナ(ハワイ語で家族)カルチャーの標榜、減速、二度の後継者計画の頓挫、物言う株主の登場、そして社員1割以上の大量解雇まで。熾烈な競争主義とは異なる「ビジネスと社会貢献を両立する理想的な企業」を立ち上げんと歩んできた人物の栄光と減速、それを取り巻く人々の人間模様、魅了された人々や翻弄された人々を描いたストーリーとなっている。

執筆はAshley Stewart記者とEllen Thomas記者の共著。Business Insider USでは、セールスフォースに関する動向は主にこの2人が追ってきた。BI日本版では翻訳待ち。

4200ワードの記事のなかから、筆者は以下をピックアップする。

開催費用136億円のPRイベントはどうなる?

記事のなかで、米国本社が毎年9月に開催する「Dreamforce」(新製品発表をはじめとした一種の販促イベント)の開催費用は「1億ドル」(136億円)と語る幹部の話が出ていた。

以下の記事にも出ていたが、米投資銀行ウィリアム・ブレア(William Blair)の2月24日付の調査レポートによると「セールスフォースの営業・マーケティング費用は同業他社に比べてはるかに高く、その実に3分の2を人員コストが占めている」という。

セールスフォースという製品(顧客管理システム)は使いこなすのが難しく、導入して成果をあげているところとそうでないところが分かれる現状がある。サブスクリプション契約は月単位で、顧客が製品を使いこなせなければ解約にもつながる。そこで会社は、サブスクリプションのインカムを増やす一環として、顧客の成功(カスタマーサクセス)につなげるためのノウハウや好事例を共有する販促イベントを開く。DreamforceやWorld Tourといったセールスフォースの販促イベントは、ノウハウや好事例をただ共有するだけでなく、エンタメ要素や利用者のコミュニティづくりを盛り込んだ工夫がされていて、「クラウドとかCRMって難しそう」という人も楽しめそうな内容なのだが。しかしそのイベント内容が、近年は豪華な会場で著名人を招いてコンサートを開くなど派手になっていた。

物言う株主は「仮にさらなる人員削減が実施されれば、同社の利益は構造的に上向く可能性がある」と考えている。営業・マーケティング要員が減らされ、Dreamforceも今後は見直しを迫られることも予想される。物言う株主とは、アメリカのヘッジファンドのスターボードバリュー、エリオット・マネジメントなど。

「Dreamforceは社内では『マーク・ショー』と呼ばれている」、つまりベニオフ氏が『思いやりのある経営者』としての自分を演出する重要な場、と位置付けられていることや、来場する顧客への影響も考慮すれば、難しい判断になりそうだ。

混迷報道で「士気低下」CEOが地団駄

Benioff also suggested that "Business Insider headlines" about his Salesforce employees' criticisms were to blame for employee morale. "I'm not kidding you," he said.

BI US

「Business Insiderの見出しに社員の批判の言葉が躍るのが社内の士気が下がる原因になっているぞ」とベニオフ氏が地団駄を踏んでいる様子が伝わってくる。「人員削減で生産性ほぼゼロ」「レイオフ後の同僚探しは災害後の安否確認のよう」「社員は家族の文化は風前の灯火」セールスフォース社内の混迷のもようを連日深掘りしたBI USの見出しにはそんな言葉が躍る。

累計1万人に達しそうな大量解雇のあと、ベニオフ氏の「思いやりのある資本主義」「ビジネスと社会貢献の両立」を推進してきたところに共感してきた社員からは怒りで大荒れの事態となっている。社内slackには「オハナという言葉を使うのをやめるべきではないか」という言葉も出るほど。

同社の社内slackでは、"the-airing-of-grievances"(苦情の吐露)というチャンネルが盛り上がっており、そこで社内文化について議論され、「オハナカルチャーが侵食されている」という言葉が飛び交っていたという。「いや、元々見せかけだったのかもしれない」と推測する人もいたよう。

ベニオフ氏は「彼らはわかっていない。当社は元々成果重視のカルチャーだった」とする。レイオフが始まって以来、社内のカルチャーを言い表す言葉は、「オハナ」から「成果重視」に取って代わられているという。(小見出しには「No-hana」という文字もあった)

だが絶頂期の2019年(邦訳は2020年)に出たベニオフ氏の著書『トレイルブレイザー』では「ビジネスモデルは賞賛されても社員にシビアで長く雇うことはなくドライ」な他社を批判し、「我が社は家族的な発想」と位置付けていたのを、なかったことにはできない。

もっとも「家族がいつも円満」というのは幻想で、家族だからこそ壮絶な争いが起きる側面もあるのだが。

二度の後継者計画の頓挫(一度目はキース・ブロック氏、二度目はブレット・テイラー氏)を経て、後継者問題はどうなるのか。

「セールスフォースはマーク、マークはセールスフォース」と、ある幹部は語る。58歳のベニオフ氏本人は「いつ経営から退くのか」尋ねられると、「知らないよ。私は今も経営している。その時になったら話すだろう」

創業者にとって会社は子ども。親亡きあとならぬ「創業者亡きあと」とはよく言われる。後継者が決まれば懸念材料はひとつ減りそうだが。


多方面から情報を整理したうえで、経営者の顔色を伺うことなしに社員の生の声を報じ続ける、BI記者の姿勢を支持したい。

記事はアメリカの社員からの情報を中心にまとめた内容で、日本法人の社員によると日本法人ではまた違った状況があるようだ。日本法人での状況もまた伝えていきたい。


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