読書マラソン用に書いたけど読書マラソンがなくなって意味がなくなった読書感想文23冊


1.アガンベン『開かれ』

人間と動物はどのようにして異なるのか。この大きな問題に対してアガンベンは、美学、生物学、歴史、哲学を横断しながら《人類学機械》の名の下に、西洋思想が人間と動物が排除と包摂の不可分な関係にあることを明らかにしていく。そして最後にはハイデガーの再解釈に至り、西洋哲学とは元来生政治であったと結論づける。人間と動物の「閾」を我々にのぞかせていくアガンベンの思考に震撼する。

2.千葉雅也『勉強の哲学』

大学生は、深く勉強し、元来キモくなければならない。大学はキモくなるのにうってつけの場所である。千葉雅也は、周りに合わせて生きていく生き方から、どのようにして逸脱し、新たな意味でのノリを獲得するまでの過程を示す。ところで、本書の副題は、「来るべきバカへ」であった。勉強の至福を享受できる大学生たるもの、サークル、部活、就活から逃れ、バカになるべきだろう。

3.宮﨑麻子『ローマ帝国の誕生』


ローマ帝国はいつ誕生したのだろうか。いつイタリアの一都市国家から、広大な領域を持つ、帝国へと変貌したのだろうか。高校世界史では、皇帝の成立とともにローマ帝国の誕生とされる。しかし、本書では、そのような立場を取らない。ローマ帝国からローマ皇帝が生まれたのだと。ヒスパニア属州の成立を手がかりにこの大きな問題に取り組む本書は、800年のローマ史を最もクリアな形で示してくれる。

4.熊代亨『人間はどこまで家畜か』


この本は、なんとなく生きづらい、障がい者のレッテル貼りに疲れている、そんな風に感じている人に勧める。
この時代は、人間としての標準規格が厳しくなった時代である。どうしてこんなにも社会は清潔で、健康的で、健全であることを強いてくるのか。いいや、自らに強いているのだ。社会の余白が、すなわち寛容さがなくなってしまったこの過程を、本書は示してくれる。では、寛容性がなくなった社会において、そこから排除される人々はどのように生きていくのか。生きづらさを新たな視点で見るために。

5.池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』

中世ヨーロッパといえば、どんな風に感じるか。魔女狩りという負の歴史を体現するように思われるかもしれないが、実は近代の産物であり、スケープゴートとして排除され、その背後には様々な次元の思惑が絡むことが明らかになる。私は、この本を読んだ時にこの現象は、人類普遍なのだと思った。少しでも人間関係に亀裂が入れば、共同体が、宗教が、政治がそこに付け込んで悲劇を生み出す。その恐ろしい一例をまじまじと眺めてみてはどうか。

6.エマニュエル・ル・ロワ=ラデュリ『モンタイユー』


一度、中世の農村社会がどんなものかと、いや社会ではない。一個人や家族、そして家族間の関係が生み出す、一つの農村で人々はどんな生活を送っていただろうか。著者のラデュリは、異端審問記録を読みながらピネレー山脈の異端の生を再現する。そこでは、いまだに牧歌的な生活を送る人々や、異端の伝播のプロセス、労働観、宗教観といった「厚い記述」が実践されている。

7.岩野卓司『贈与論』

私は、形式的なことが嫌いだ。そんなもの意味がないと思っていたから。プレゼントもそうだった。しかし、この本を読んでからプレゼントがこんなにも深淵なことだと知った。
贈与をめぐるフランス現代思想を平易な語り口で次々と紹介する本書では、プレゼントの持つ、互酬性、社会関係、象徴、愛、狂気、呪い、時間性、存在論、神学という性格が示されている。資本主義が我々の分断を生み出しているなか、この本を読んで贈与を新ためて考え直し実践してみてはどうだろうか。私は実践している。この書評もまた贈与であるから。

8.エミリー・ブロンで『嵐が丘』

恋に振り回される男はどうしてこんなにもかっこいいのか。荒野(heath)+崖(cliffe)の名前を冠するヒースクリフの三代に渡る二つの家族への復讐劇。こんなにも登場人物がたくましく情熱的で荒々しく、心が揺さぶられる小説はないだろう。

9.井上浩一『生き残った帝国ビザンティン』

私はこの本を徹夜で読んだ。高校の教科書ではビザンツ帝国ほとんど扱われていない。しかし西洋から少し東の所に行けば、一千年にもわたって、ダイナミックに理念との現実の間で苦悩した、ローマ帝国があったのだ。学術と読み物の間をゆくスタイルなので、読みやすい。

10.吉田千亜『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』

東日本大震災、今となっては10年以上前の出来事になってしまった。当時は原発の処理や被災者の経験に焦点が当てられがちだが、その裏側で救助活動にあたっていた人々に目が向けられることは、少ないように思う。この本では、震災当時の消防士たちの活動を復元したものである。爆発する原発を尻目に放射線量が上昇する中で、不必要な被曝をに晒され十分な休息や情報もないままひたすら救助、避難誘導、火災対応にあたる消防士たち。ここから始めて復興が考えられるのかもしれない。

11.『朽ちていった命』

大量に被爆するとどうなるのか。東海村臨界事故の被害者の医療記録は、このことを物語ってくれる。染色体がバラバラに破壊され、再生能力が一気に失われてしまった体は、ただ分解されていく一方である。懸命に医療活動を行った医師、看護師、家族の努力でも、抗えなかった。この恐ろしさを知らずして、被爆を語ることはできない。

12.良知力『青きドナウの乱痴気』

1848年、ウィーンでは革命が起きた。ところで革命と聞いてそれを生の人々の目線から描いた本は意外とするくない。この本では、民衆の視点からどのように革命が起こり、どのような顛末になったのかが描かれる。いいや、民衆の視点からするとそれは革命ではなかったのかもしれない。ウィーン郊外のプロレタリアに恐怖する市民の動乱は、もはや乱痴気騒ぎだろう。

13.

我々の生きているのと別の世界を考えることができるとすれば。

14.北村紗衣『批評の教室』


小説にしろ映画にしろ作品を楽しむにはどうすればいいか。作品を「ただ面白かった」で済ませないためにはどうすればいいか。作品のどこに注目し、深く考えるための、作品の価値をつけるための批評を実践するための本。

15.國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』

ドゥルーズ、入門書や解説書は多いが、哲学書を読んだことのない人にとって、これらの入門書ですら難しいと思われる。しかしながら、この本は、ドゥルーズを読む最低限の準備をするという体のもとで、ドゥルーズの方向性を示す。つまり、一番読みやすく、筋の通った解説をしていると思う。これを読めば『アンチオイディプス』に取り掛かることができる。しかし、後期の『千のプラトー』以降は扱われていないので要注意。

16.遅塚ただみ『フランス革命』

フランス革命、1日に3回は耳にするこの単語の内実を解説できる人は少ない。この本では、貴族、市民、労働者の三者による力学としてフランス革命を描き出し、その現代的な意味を再考する。語りかける文体に加えてシスティナティックな説明、興味深い余談など。

17.多和田葉子『雪の練習生』

俺はこの小説を読んで何か描きたくなった。三代に渡るシロクマの生涯が、冷戦下のドイツを舞台にコミカルに描かれ、自伝という体裁をとりながら、人間と動物が共存する少し謎めいた世界を覗かせてくれる。アイロニカルな描写に加えて声に出したくなるような美文だらけの本書で自らを文字に起こすシロクマたちの生の喧騒は、必読に値する。

18.伊藤亜紗編『「利他」とは何か』

利他的な行為をみると、そこに利己的な側面を見てなんだか気持ち悪く感じることがある。例えば、ボランティアを見てそこに、自己満足的な利己心を見出さずにはいられない。相手のためを思ってやった行動が、いつしか支配に変わってしまうことがある。それでもなお、利他を考えることが重要だと思われるのは、人間の性のようなものな気がする。ならば、以上のような欠点を避けた利他を実践するには、どう考えるべきか。このことを深く考えさせてくれる。

19.酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎』

コロナ禍でグレーバーによって定式化されたブルシット・ジョブを要約した本。今、この大学の多くの生徒が就く可能性の高いブルシットジョブ。人類学的な知見をもとに、どうして意味のないと本人が自覚している仕事が生まれてしまうのか、そこから生まれるエッセンシャルワーカーへの激しい嫉妬心はなぜここまで苛烈なのか。俺は、この本を読んで教員の「聖職」概念の由来を知った。だから、教員を志望する人には読んでほしい。

20.池上俊一『動物裁判』

言わずと知れた歴史学の名著。中世には動物が裁判によって裁かれるという事例があった。処刑される豚、破門にされるネズミやバッタ、逆に無罪となった子豚。俺は、この本に夢中になり、講義をサボってしまった。なぜ動物たちは、裁かれたのか、裁かれなければならなかったのか。前半部では爆笑必死の動物裁判の事例や制度を挙げ、後半では動物裁判の象徴性、中世の思想、自然観、宗教観を明らかにする。ようこそ中世へ。

21.プルースト『失われた時を求めて スワンの恋』

俺はスワンに共感した。この本を読んでる最中、交際していた彼女に辛い言葉をかけられて、スワンに自分を重ねてしまった。俺にはスワンの気持ちが痛いほどよくわかる。階級が違えどそんなこと関係ない、夢中になったのだから。思わず彼女の手紙を覗き見しちゃった、他の男と仲良くなりそうだったから。後をつけてしまった、自分から離れそうだったから。フランス社交界を通じて描かれる、スワンの恋愛模様とその失恋を、プルーストの繊細な心理描写や独特の人間観を通じて堪能してほしい。そして追想してほしい、失われた時を求めて

22.重田園江『社会契約論』

社会契約論と聞いて現代社会の産物だとお思いの方は、この本を読んで目覚めてほしい。ホッブス、ルソー、ロールズをあらたに「約束の思想」として読みかえし、「正しさとはどのようなものか」という根本問題に取り組む本書は、きっと

23.重田園江『ミッシェル・フーコー』

社会契約論と聞いて、高校の授業の産物だと思われるだろう。

24.福岡伸一『生物と無生物のあいだ』
『デカルトはそんなこと言っていない』
セネカ『人生の短さについて 他2編』
人生が短い、一週間が早いそんなふうに思う時が、学生にして思うことがある。けど、本当に自分が過ごす時間がそんなにも短いのか、そんなことを2000年前の書物は、問いかけてくる。いや、過ごしているのは自分の時間ではない、他人の時間だ。そうセネカは答えてくれる。俺はこれを読んで他人に惜しみなく時間を与えて終の住処で嘆くのをやめようと思った。静的でそれゆえに最も豊かな生き方の指針を示してくれる古典。

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