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うつウイルスと遺伝



うつはウイルスのせい?

「うつ病の原因はウイルスである」
これを提唱したのは、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授の研究チームです。
この研究によって、うつの原因がヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)という遺伝子だと分かりました。
HHV-6Bは赤ちゃんの病気である突発性発疹の原因となるウイルスです。
そしてこのウイルス、2歳までにほぼ100%の人が感染し、その後95%以上の確率で潜伏感染することが分かっています。
つまり、ほとんどの人ががうつの原因であるウイルスを持っているということですね。

研究チームは、HHV-6が脳の「嗅球」にというところに潜伏する際に発現する遺伝を発見しました。
近藤教授は「スター・ウォーズ」に登場する悪役「シスの暗黒卿」から取り「SITH-1」と命名。
嗅球は嗅覚の情報処理を行う器官ですが、SITH-1が細胞内にカルシウムを取り込むと、嗅球の神経細胞が死んでしまいます。
マウスの嗅球で人為的にSITH-1を働かせてみると、嗅球の細胞が死に、脳のストレスが高まってうつによく似た症状が現れたのです。

次に、「うつ病患者」と「健康な人」に対してSITH-1の存在を示す抗体検査が行われました。
その結果はうつ病患者は健康な人に比べ、SITH-1の 発現量が非常に高かったのです(p=1.78×10 -15)。

「うつ病患者」の抗体陽性率=79.8%
「健康な人」の抗体陽性率=24.4%

これを計算すると、SITH-1はヒトを12.2倍うつ病になりやすくさせ、79.8%のうつ病患者がSITH-1の影響を受けているとが分かります。

嗅球は免疫器官でもあり、唾液中のウイルスが脳に侵入することを防いでいます。
しかし、疲労やストレスで免疫が低下すると、潜伏していたHHV-6が再活性化し、
そこから生まれるSITH-1が嗅球の細胞を殺してしまう。
するとさらに嗅球は免疫機能が低下してしまい、ストレスをもっと悪化させ、最終的にうつ病にさせてしまうのです。

遺伝するうつ

さて、うつ病といえば「うつは遺伝する」という説があります。
親子や兄弟など二親等以内の血縁者にうつ病の人がいると、いない人よりも、2~3倍うつ病の発生率が高くなると言われています。
これは精神の安定をもたらす、セロトニンという脳内物質の調整機能が遺伝によって決まるからです。
セロトニンの分泌を調整しているのが「セロトニントランシスポーター」という遺伝子です。
この遺伝子にはSS型、SL型、LL型の3種類があり、この種類によって不安の感じやすさが違います。
最も不安を感じやすいのがSS型。
SL型は中間で、最も楽観的な性格なのはLL型です。
(ちなみにSやLというのはに遺伝子の長さから来ています。SがショートでLがロング)
そして日本人の場合7割がSS型であり、LL型は2%と世界で最も少ないのです。

また、行動遺伝学の分野からも、精神病と遺伝の関連が指摘されています。
行動遺伝学とは、主に人の性格や知能などがどのくらい遺伝するのかを計る分野で、一卵性双生児の類似性から遺伝率が計算されます。

一卵性双生児は1つの受精卵から生まれた双子であり、100%同じ遺伝子を持って生まれます。
一方、二卵性双生児は別々の受精卵から生まれる双子なので、50%しか遺伝子を共有していません。
そして産まれてすぐ別々の家庭で育てられた双生児の才能や性格に関する類似性を調査すると、二卵性双生児の場合はあまり類似性が見られなかったのですが、一卵性双生児の方は、様々な項目で類似性が見られました。
その中でも音楽の才能や運動能力と言った項目は、共通する割合が多く、そういった才能は環境で育まれるよりも遺伝によって受け継がれる可能性が高いと考えられています。

こうした双子の研究によって、精神病の遺伝率も調べられています。
それによると、統合失調症の遺伝率は82%。
双極性障害(躁うつ病)は83%でした。
この確率は、身長や体重の遺伝率よりも高い数字です。
(身長の遺伝率66%・体重74%)

弱さが遺伝しウイルスを招く

「うつはウイルスによるものだった」ということが分かると、
「なぜうつは遺伝するのか?」という問いに対する答えが見えてくるかも
しれませんね。
(※ここからは僕の推測で科学的な裏付けはないのでご注意ください)

これはうつが遺伝するのではなく、ストレスに対する弱さが遺伝するので、免疫力が弱まりうつにかかってしまうということです。
不安を感じやすいSS型のセロトニントランスポーター遺伝子を受け継げば、ストレスに敏感になります。
そして、ストレスを受けると、脳からストレスに反応してコルチコイドというステロイドホルモンが分泌され、白血球中のリンパ球の働きを低下させます。
リンパ球にはナチュラルキラー細胞など免疫に関わる細胞があるので、ストレスによってリンパ球の働きが低下すると免疫を弱めてしまうのです。

こうやって免疫機能が弱ったところに、うつウイルスであるHHV-6が活性化してしまうとうつ病になってしまう。
おそらく、こういったメカニズムによってうつという病気が発症してしまうのではないかと考えています。

今回はうつが遺伝であるという救いようのないような話でした。
しかし、ストレスに弱いという体質を受け継いでしまったと分かれば、それに対抗しようと思うはずです。
生活習慣を見直したり、適度な運動を続ければ免疫力は維持できます。
親族にうつ傾向な人がいたり、自分はストレスに弱いと感じるなら、ぜひストレス対策を考えてみてください!

※運動はストレスを軽減してくれるのですが、過度な運動は逆にストレスを増加させるので無理は禁物です。
コロナウイルスに感染してしまうスポーツ選手が多いのは、運動量が普通よりも多いからですね。


参考
DIAMONonline
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座
YAHOO!ニュース
日本人の9割が知らない遺伝の真実 安藤寿康
JNEWS.com
Care Net
ひだまりこころクリニックブログ
空気を読む脳 中野信子

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