見出し画像

【君もまた、青春】第十八話「私は、不満がたまっている」

第十八話「私は、不満がたまっている」

「は? あんたそれ本気で言ってるの?」
「俺がお前に嘘をつく筋合いがあるかよ」
「何言ってんのよ! あんただって学級委員でしょうが!」
私は向井地に激高した。
「あんまり騒ぐと『お友達』たちに聞かれちまうぞ。お前の理論だとここにいる全員が共犯者でお前の敵だ」
私はうかつにも周囲を気にしていなかった。
もしかしたら何人かには今の会話聞かれちゃってたかもしれない。もちろん私はクラスのみんなと仲良くなりたいと思っている。隣のこいつを除いて。だけど、今の私は彼らを完全に信頼することはできないよ!
私の怒ってる内容って間違ってるかな? 私の独りよがりなのかな? 
そういえばこんなことを相談できる友達って私にはいない…。
向井地は本当にムカつく。「お友達」ってバカにしやがって!
 煮え切らない私だったか、先生の教室入りとともに前を向きなおした。 そうだ、もはや向井地にぶつけてもしょうがないんだ。
なんとかみんなを説き伏せないと。だけど誰にどんなことを頼めば、このクラスは上手に行くんだろう…。
 すると先生が冷静なトーンで話を始めた。
「本日は連絡事項が一件ある。先日、他クラスの先生からこのクラスの放課後の過ごし方が大変悪かったとの報告を受けた。私も詳しいことを知りたいから、学級委員の二人昼休みに職員室まで来てくれ」
いつもなら職員室に呼び出されることは非常に避けたい事態であるのだが、今回に限っては心の中で「よっしゃー!」とガッツポーズをしたい気分だ。困ったときは先生に限る!向井地と同じ行動をするのは癪だけど、こいつが先生に怒られるなら願ったりかなったりよ! そんな気分で午前中はあっという間に過ぎて行った。
 昼休み、早々にお弁当を食べ終えると向井地を置き去りにするように職員室に向かった。まもなく不満そうな表情を浮かべた向井地が来て、進路指導室で三人の場が設けられた。
 金森先生はいつもと変わらず素っ気ない態度でパッドの資料を閲覧している。
「それで、昨日のクラスの状態に関する二人の主張を教えてくれるか?」
私は絶好の機会だと思って、私の話したいことを包み隠さずに話した。


 私の熱烈な糾弾を受けても先生は顔色一つ変えずに、次に向井地の意見を求めた。
「僕には、言いたいことは一つもありません。ただ時間が流れていただけです」
さすがの金森先生も椅子を座り直して前かがみの姿勢になった。
「向井地、お前も橋向と同じ学級委員長だろ。なぜ荒れたクラスの状況に対して何も行動をしないんだ? 理由を聞かせてくれ」
「理由なんて特にありません。しいて言うなら他人とできるだけ関わりたくないからです」
金森先生は椅子に深く腰掛け直した。
「お前の気持ちはわかった。しかし個人的な感情だけで、クラスを統括するという学級委員の役目を放棄するのか?」
向井地は机を見つめ、うつむいたまま暗いトーンで話し始めた。
「先生、逆にお尋ねしますが学級委員の役目というのは義務なのですか?」
金森先生は返答に困っている様子だった。確かに私もよくわからない。
「では、役目を全うしないからといって、僕個人にはどんな罰が下されますか? このように昼休みに呼び出される程度ですか? もしそうだった僕は委員長の仕事を放棄する理由の方を優先します」
先生は何かを諦めたかのように立ち上がると時計を確認した。
「二人の主張はよくわかった。要するにクラスメート全体の雰囲気に問題があったということだな。今日は来てくれてありがとう。戻っていいぞ」
そういうと先生はあっさりと進路指導室の扉を開けた。向井地は何も言わずすぐに教室を抜けて行ってしまった。私もぶつくさ帰ろうとした。
「橋向、少し待ってくれ」
「はい、何でしょうか先生?」
「今日の放課後も文化祭実行委員の仕事に行くのか?」
「そうなんです…。実行委員のほうもかなり大変で」
「わかった、それならとりあえず今日の放課後は先生が教室についていることにする」
「それは願ってもないことです! とても助かります」
私はあからさまにも表情をパーと明るくした。
「だから、明日の昼休みも進路指導室に来てくれ。向井地にも後で言っておく」
「先生、向井地ってやっぱり変な奴ですよね?」
すると先生は一瞬真顔になると教室のカギを閉め始めた。
「さあ、どうだろうな」
私は先生に軽い会釈をすると何も言わずにその場を後にした。(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?