【君もまた、青春】第二十話「私は、みんなの期待に応えられない」
第二十話「私は、みんなの期待に応えられない」
六月二十七日水曜日、文化祭まで残すところ二日。でも文化祭一日目は学内発表だからみんなにとっては実際三日なのかもしれない。
実行委員会の準備は順調。予算の工面もなんとかできたし、プログラムの発行や外部への宣伝も概ね問題なし。ほんと生徒会のみなさまが凄すぎる。
だから今日は、中だるみではないけど、なんとなく気の抜けた一日になりそうな予感がしていた。
いつも通り、いやちょっと久しぶりに遅刻ギリギリで教室に到着すると、どこかしらクラスの雰囲気が違った。教室のあちこちには手作り感のある品々とその器具が散在して、教室の雰囲気が雑多でにぎやかになっていた。みんなの表情も私の見立て「文化祭がんばるぞ! おー!」っていう本番前日に発揮するクラスの団結感が漂っている。
遅刻ギリギリの寝不足娘な私は、当然のように誰かと喋るわけでもなくなんとなくの午前中を過ごした。
なんかある意味、学校生活の裏側では黒の騎士団率いて暗躍していたルルーシュみたいかも。ちょっとテンション上がるわ。
お昼のチャイムが聞こえると、授業中の居眠り延長戦を演じていた私を確認してか、末広夕夏が私の方へ歩み寄ってきたのが見えた。
「桃香ちゃん、今日は生徒会室行かないの?」
「今日はお休みなのよ、姫様~。ローマの休日かしらね」
「まだ夢の国の住人のようですね。それじゃあ、目が覚めたら私たちと一緒にお昼食べましょうね!」
そう言い残すと彼女は私のもとを去っていった。まるで好きな女の子に話しかけられたけど、寝ぼけたふりしてそっけない返事をしてしまった甘酸っぱい青春男子のようだった。
それにしてもここからでも夕夏たちの楽しそうな声が聞こえる。私がいない間に合の三人あんなに仲良くなってたとは…。
「遅れてごめんね~、私も混ぜて!」
私はちょっといけてる女子みたいな、またラブコメな対応をしてみた。
「ひっさぶりだね、ハシムー。もう三年くらいたつかな?」
「恵理那、私との記憶を返しておくれ~」
なんかこのうっざいノリ安心する私がいるわ~。不覚。
そんなとき私が一番気になっていたことを思い出した。
「そういえばさ、昨日の文化祭の準備どんな感じだった?」
するとみんなは一斉ににやけずいて嬉しそうな顔がした。
「そうか、ハシムーは昨日いなかったんだよね! いや、昨日ね、めっちゃ楽しかったんだよ! 今日も楽しみだし!」
隣の二人も大きく頷いていた。
確かに、朝から感じたこのクラス全体にやる気が満ち満ちてる感の正体はやはりそういうことだったのか! でも私がいない間にどんな変化があったっていうんだ?
「何があったの?」
「何があったってわけでもないんだけど、ロマン先生が最初いて、それでもあんまりにも話がうまく進まないから、見かねた先生がくじ引きしようって言いだしたんだよね!」
「何のくじ引き? というかそもそもなんでくじ引き?」
「私たちもよく理解できなかったんだけど、先生が『これからくじが当たった人に、このクラスの文化祭の責任を取ってもらうことにした。責任を取らせるからには平等に担ってもらうこととする』とかなんとかいって、私たちでもよくわからないんだけど、とにかくいつもの乱数をロマン先生が発動したってわけ」
「聞いてるこっちからしたら、全くよくわかんないよ?」
「そーだよね、喋ってる私の方もよくわかってないもん」
そういうと咲季はお弁当のおかずを丁寧に口に運んだ。横から夕夏が私の肩を軽くつついてきた。
「今度は私の番ね。それでくじで選ばれたのはなんと向井地君……だったの…」
夕夏が極端にあいつの名前を呼ぶときだけ小声になったのがちょっと気になったけど、なんとなく機能の教室で何があったのかは理解した。つまり、向井地がまた大活躍したってことなんでしょうね。あの性根の腐った中二病野郎め!
「なんとなく、何があったかわかったわ。要するに向井地がまた能力を発揮したんだね」
「そうなのー! なんでわかっちゃったの?」
「いや私だって伊達に学園もののドラマとかアニメとか視聴してないから、テンプレートな学園設定には慣れてるのよ」
三人は私を小ばかにしているくらいに目を見開いて驚く顔を見せていた。いい加減にせい、お主ら! 彼女たちは相変わらず向井地と私の仲をいじりたいだけのようだった。
「それで、その先生から横暴に課せられた責任は今日も継続なわけ?」
「どうなんでしょうね、少なくともクラスのみんなはそれを期待していると思いますよ」
…どうせ私なんてこのクラスに求められてないんだ…。
みんなの期待に応えらてないんだ…。
笑顔溢れる昼休みに一人センチメンタルな感情にふけっていた。(完)
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