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機能不全家族にまで切り込んだ「問題のあるレストラン」第3話

自撮り棒やJ-POPの時事ネタも取り入れつつ、後半のシリアスさへ繋げる感じ



第3話はパーカーちゃんこと無口で闇を抱えたシェフ。千佳の回でした。


前回鏡子の料理を食べて「母親」を思い出してしまったのか、自暴自棄になる千佳。

シェフをやめたいという千佳にたま子は優しく語りかけます。たま子の優しさや料理や食に対する思いが伝わるいいセリフでした。

でも、でも。

「私、千佳ちゃんと出会った時人生のどん底でもうダメかもって思ってて…」

このセリフは、この後わかる千佳の壮絶な半生を考えると地雷ワードだったのかもしれません。だからなのか、出て行った千佳の部屋にはビリビリに引き裂いたコックコートがありました。まだ20歳で、子供の頃から絶望とどん底を味わいすぎてしまった千佳が「なにがどん底だよ」と思ってしまったのかなーと個人的には思いました。

たま子と千佳は別の人間で別の人生を歩んできてるので、どん底の深さに差があって当然だしそれぞれ別の問題で比べるものではないのでしょうが、20歳そこそこの、しかも小さい頃からどん底に停滞していた子にとっては地雷発言だし、たま子の優しさもまだ受け入れがたいのだろうなと考えてしまいます。

TLでも見かけましたが、ヤマアラシのジレンマを想起した人は少なくないと思います。

千佳の気持ちを考えると、本当に心苦しい。



家を出た千佳は、元々いた場所であろうネカフェに戻ってネトゲを始めます。ネトゲ廃人になったわけではなく人探しをしており、それは誰かというと千佳の母親。ネトゲで人探し。ネットが普及した現代と、希薄な親子関係を考えると普通にありそうだな…って思えるリアル感が坂元さんのすごいところです。最高の離婚の時も思いましたが、現代ツールの取り入れ方が絶妙。

今回はずっと千佳のターンで、これまで沈黙を通してきた千佳の過去の背景や感情の奥底がみえる重要な回でしたが、脚本ももちろん秀逸なんですがなんといっても千佳を演じる松岡茉優さんがすごい!19歳という年齢にも関わらずこの演技力…。「あまちゃん」「銀二貫」「桐島、部活やめるってよ」などで高い評価を得てましたが、いやー本当にうまいです。

川奈役の高畑充希、新田役の二階堂ふみ、そして千佳役の松岡茉優。若手役者の精鋭3人の演技がこのドラマのいいスパイスですね。3人とも20歳前後で独特の雰囲気を確立しているので、今後の活躍も楽しみです。


千佳というキャラクターに松岡茉優さんが憑依したような説得力のある演技で冒頭から最後までボロ泣きしてしまいました。

ネトゲで母親と再会したときの千佳の笑顔と涙、母親に会えることを嬉しそうにネカフェ仲間に言う千佳の表情、母親に会うため髪型や髪色を変えたり、久々の再会に緊張したり、嬉しそうに母親と話をしたり、どんな時も寂しさを押し殺してきたような切なさが見え隠れしています。


母親と父親と久々に再会しシンフォニック表参道で食事するシーンで、衝撃の事実が発覚します。引きこもっていたのは千佳ではなく、千佳の母親でした。

色んな女性と不倫する父親と離婚した母親は、そのショックから立ち直れずに千佳が中3になるまで買い物もせず家のこともせず食事も作らずネット中毒。俗に言うネグレクト状態でした。

食事を作らないどころか何も口にしない母親のために千佳は、小学校低学年の頃から7年間、1日も休まず母親のために料理を作りました。毎日死にたいと叫ぶ母親のために料理を作り、一人にすれば自殺する可能性がある母親を放置できず、本当は好きだった学校にも行かなくなってしまいます。

全ては、自分自身のことでいっぱいいっぱいになってしまった母親のために。機能不全家族と、母娘間の共依存状態。

表に出て来づらいだけで、こういう形態に陥った家庭は多くあると思います。


一見すると母親だけが悪いようにも見えますがこの状態に陥った大元の原因は父親にもあります。千佳の母親が元々はどんな人だったか、あの父親のどこに惹かれたのかはわかりませんが、夫婦の問題は夫婦で解決して完結させるのが筋で、子供を巻き込んだり子供の自由や将来を奪ってはならないと思います。

子はかすがいといいますが、かすがいになるために子供は存在するわけでも、生まれてくるわけでもないですし、親は親で子供は子供です。親という選択を自ら選んだなら最後まで責任を負えとまではさすがに思いませんが、しかし、少なくとも子供にその責任を負わせるのは間違っていると私は考えます。


千佳の父親は公式サイトに「仕事で成功し金を手に入れた途端に女性が近づくようになり、女は買うものだと悟った」と書かれていますが、女性から金扱いされたことで女性をモノ扱いするようになってしまった悲しい人のようです。

男性を地位や経済的余裕でしか判断できない女性と、女性を容姿や若さでしか判断できない男性。この状態に陥った人の周りには同じ価値観の人が集まってしまう傾向があるため、千佳の父親もこの負の悪循環に取り込まれてしまったのかもしれません。この価値観が一概に悪いとは思いませんが、地位やお金や容姿という「目に見えるものだけ」で全てを判断すると、なにかが欠如したらすぐに関係性は破たんを迎えてしまうし、何より可視化できない感情を蔑ろにしてしまうというデメリットと背中合わせのように感じています。

千佳の母親ももしかするとそういう女性だったのかもしれません。もちろん、事実はわからないし今後描かれることも無いかもですが、夫に捨てられネトゲにはまってネグレクトして自殺未遂して、最終的には千佳を捨てて出て行ったという点を考えると自分のことしか考えられない利己的な人間だった可能性はあります。母親自身満たされることが子供の幸せに通じることはありますが、子供の精神をすり減らして得る母親の幸せは、子供の幸せではありません。

前シーズンでも家庭崩壊と機能不全家族を描いた「Nのために」というドラマがありましたが、あのドラマの母親と千佳の母親は似ていると感じています。経済的にも精神的にも夫に依存しすぎて自ら自立しようとはしない。それゆえ捨てられても事実が一向に受容れられず、精神的に病んでしまう。私の母親もそういう「夫に依存しすぎる妻」だったので、既視感を感じてしまいました。

でも母親のために頑張ってきた千佳はずっと母親を慕っていて、いじらしい。母親が大好きで、父親だけを憎んでいます。本当は母親にも問題があるのに、それを認めることは自分が愛されない子供だったと認めることだから、千佳は頑なに父親だけを憎しみ続けて生きてきたのかもしれません。

冒頭でたま子が、千佳が父親を殺そうとしていた理由を「イライラするから」と言っていましたが「でもイライラするってイライラしてる時に使う言葉じゃないでしょ。言葉にならない別の気持ちがある時に使う言葉でしょう」と言いますが、このイライラの根底に父親だけでなく自分や母親へのコンプレックスや憎しみや苦しみが内在しているような気もします。


とはいえ杉本哲太さんの演じるパワハラ社長&嫌な父親というキャラクター像が確立しているから、千佳が父親だけに憎しみを向けてしまうんでしょうね。「社会的地位も金もありコミュニケーションの調子も良いけど浅薄で、愛情が全く感じられない人物像」という、絵に描いたような悪役ですし。

母親に責められそうになったら机を叩いて威嚇して、「そういうこともあったけど今はみんな元気なんだからいいんじゃないの。また2人で暮らせばいい、金は出すと言っている」とか。過去なんて省みる必要もないし、金さえ出せば問題はすべて解決!というこの雑で粗暴なかんじがお見事です。




「再婚するんです。子供ができました」と突然告白する母親。千佳が15歳の時に家を出たとして、5年間の間に新しい生活を再構築していたのでしょう。その間、千佳とはネトゲでやり取りをしていたんでしょうか。千佳は5年間、どんな気持ちで、どんな母親への想いを重ねて生きてきたのか、考えるだけで苦しくなります。

千佳はそんな気持ちを押し殺して、「よかったね、ママ。おめでとう」と半ば放心状態で微笑みます。表情だけで演技する、圧巻のシーンでした。


からの、千佳の覚醒。ビストロフーにやってきて思いのたけをぶちまけます。東大卒でビッグマウス、でも中身は新卒に毛が生えた程度で即戦力にならない新田に対して言った言葉がかっこよかったです。

「あたしはこんなもんじゃないって。いやいや、こんなもんですよ、あんた」

この歌をなんとなく思い出しました。

仕事にもよりますが、勉強ができる賢さと仕事ができる賢さってイコールではないですよね。特に飲食業は、烏森さんや千佳のような臨機応変な応対力のが重宝されます。MBTIだと恐らく新田はJ型で融通が利かない。流動的な飲食業にはP型が向いているので、経験もない新田は不利なんですよね。だからこそ人一倍努力が必要になるのですが、東大卒というプライドが邪魔してしまう。

次回は新田がメイン回のようですね。個人的には、新田と川奈の関係性が気になります。この2人は犬猿の仲だけど、お互いがお互いをかなり深く理解しているやり取りがずっと興味深く感じています。性格は真逆のタイプだけど実は親友なんじゃないの、的な。

勉強が出来て東大卒でサブカル喪服スタイルで非モテかつこじらせ系の新田、バカと自称しつつ計算高い、ゆるふわ巻き髪量産型女子で恋愛依存症の川奈。この両極端な2人の化学反応がどうなっていくのか、楽しみです。



1話も2話も取り上げる問題が異なるためそれぞれの良さがあり、3話も同様でした。機能不全家族は私自身が活動を始める根源の問題だったので、考えることが多くありました。

今回の件で思うことは、2話の鏡子の義母の話と同様、千佳の生い立ちを美談にしてはいけないということです。千佳の生い立ちをフィクションの感動物として消費するのではなく、例えドラマだとしても問題意識を持ち、許容したりスルーしてはいけないということです。

千佳の料理の腕はたま子が言うように「宝物」かもしれないけど、これを得る背景に、機能不全家族や夫婦問題の責任の全てを背負ってしまった子供がいたことや、許しがたいネグレクトがあったことも含まれています。

泣きながら料理して、みんながぐったりしているところで後片付けまでして、このシーンに千佳のこれまでの全てが詰まっているような気がして…。これは美談や感動物ではなく、視聴者への問題提起なのかもしれません。

これからも当事者意識を持って、このドラマを見続けたいと思います。


そうそう、川奈がレストランに食材を運ぶ際に西脇にセクハラされるシーンがあったのですが、西脇が女子高生に痴漢したようなことを仄めかす発言に動揺していました。今後の展開に関係するのかなーとか勝手に憶測しています。










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