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アニメ『君は放課後インソムニア』第2話「猫の目星」星の名を読み解く

この記事の趣旨
アニメ『君は放課後インソムニア』のサブタイトルの星を読み解く|ゆえ (note.com)


アニメ『君は放課後インソムニア』第2話のサブタイトルは「猫の目星」である。
猫のツーちゃんが物語を動かすきっかけになったので、「猫の目星(ねこのめぼし)」が選ばれたものと思われる。


猫の目星といえば

「猫の目星」といえば、私が思い浮かべるのは、ふたご座のα星カストルとβ星ポルックスの組だった。
この2つの星は近くに並んでおり、共に明るく、光の色は白とオレンジという違いがあるためオッドアイの猫を想像させる。
下図はふたご座の全景で、星座線の左端の2つの星のうち、上側がカストル(寒色)、下側がポルックス(暖色)だ。

ふたご座(星座線あり)
出典:フリー素材の来夢来人

第6節 ふたご座

01カストルとポルックス

動物の目
◎ネコノメボシ(猫の目星)
 猫の目に見立てたネコノメボシが鹿児島県熊毛郡屋久町(現・屋久島町)に伝えられている[北尾C](ネコノメが、さそり座の二重星を意味するケースについては、第3章第5節さそり座参照)。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房

アイキャッチで表示されたサブタイトルは「猫の目星 さそり座の二番星」だったので、上記引用のカッコ内の「さそり座の二重星」のことと思われる。こちらも調べてみる。


さそり座の二重星

第5節 さそり座

04肉眼二重星
さそり座の次の肉眼二重星について星名が形成された。
「ω1ω2」「μ1μ2」、「ζ1ζ2」、「λυ」

動物
◎ネコノメ(猫の目)
 猫の目に見立てた。静岡県磐田市野部村神田(現・磐田市)に伝えられている[内田1949](カストルとポルックスを意味するケースについては、第1章第6節ふたご座参照)。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房

二重星というのは「天球上で極めて接近して見える2つの星」のことで、肉眼二重星といえば「肉眼で分離できる」、つまり目で見て「1つの星のように見えるけど、よく見ると2つの星」とわかる星ということだ。
「ω」「μ」「ζ」「λ」「υ」というのはバイエル符号(恒星の命名法の一種)で、4組の「猫の目星」候補があることになる。
この情報だけでは、今回の「猫の目星」を特定できない。
他の書籍でも「猫の目星」を特定することはできなかった。


バイエル符号とフラムスティード番号

恒星の命名法である「バイエル符号」は、星座の中で概ね明るい順にギリシャ文字などを名付けるものだ。
たとえば、さそり座で最も明るい星(固有名「アンタレス」)の場合「さそり座α星」と命名されている。ギリシャ文字かラテン文字が使われるので、「さそり座の二番星」というのはバイエル符号ではない。
恒星の命名法で1桁の数字が使われるとしたら「フラムスティード番号」の可能性が高い。
フラムスティード番号は、恒星を星座ごとに西(日周運動の前方)から順に通し番号を付けたものだ。つまり、概ね上ってくる順だ。
バイエル符号がある恒星のほとんどに、フラムスティード番号も付いているので、フラムスティード番号が「2」で、バイエル符号が「ω」「μ」「ζ」「λ」「υ」のいずれかの星があれば、それが今回の「猫の目星」ということになるのではないか。


さそり座の二番星?

「さそり座の二番星」だから、フラムスティード番号が「2」だろうと思って、Wikipediaの「さそり座の恒星の一覧」を見て調べてみた。
すると、該当する「さそり座2番星」のバイエル符号は「A」であり、候補となる「ω」「μ」「ζ」「λ」「υ」のいずれでもない。
バイエル符号で「A」はギリシャ文字を使い切ったあとに命名される文字であり、明るさの順で上位というわけでもなく、等級も4.59と目立つ明るさとは言い難い。
どうやら、今回の「猫の目星 さそり座の二番星」は、フラムスティード番号が「2」の「さそり座2番星」ではなさそうだ。


結論:誤記では?

ここまで調べた範囲で考えると、「猫の目星」は「さそり座の二番星」ではなく「さそり座の二重星」が正しいのではないか。
つまり、「番」と「重」の誤記と考えると納得がいく、という結論に至った。


空に猫の目星を見てみよう

さそり座の「ω1ω2」「μ1μ2」「ζ1ζ2」「λυ」のいずれかの組が「猫の目星」だとすると、この中で最も明るいのはλ星、その次がυ星なので、この2つの星の組が、見つけやすい「猫の目星」ということになる。
ちなみに、さそり座λ星の固有名は「シャウラ/Shaula」で2等星、さそり座υ星の固有名は「レサト/Lesath」で3等星ある。
さそりの反り返った尻尾の先の毒針にあたるので、大きなゆるいS字の下側の先端と思って探すと見つけやすいと思う。

2023年5月11日2時の南の空(石川県七尾市)

さそり座は、5月だと午前1時~2時頃に空の真南を通る(南中する)。
空の低めのところにある星座なので、地平線まで見えるような開けた場所から、南の方角を見るといいだろう。
インソムニアでない人にとっては眠りの時間かもしれないが、「猫の目星」を見てみたい人は、夜ふかししてみよう。


参考文献

北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房


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