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アニメ『君は放課後インソムニア』第10話「姉はん星」星の名を読み解く

この記事の趣旨
アニメ『君は放課後インソムニア』のサブタイトルの星を読み解く|ゆえ|note


アニメ『君は放課後インソムニア』第10話のサブタイトルは「姉はん星 乙女座スピカ」だった。
曲伊咲の姉・曲早矢が印象的に登場していたことに由来すると思われる。


おとめ座α星スピカ

スピカは、おとめ座で最も明るい恒星で、青白く輝いている。
うしかい座α星アークトゥルス、しし座β星デネボラと共に、春の大三角を形作っている。
「スピカ/Spica」という固有名は「穀物の穂先」「尖ったもの」という意味のギリシャ語に由来し、英語 spike (スパイク)と同じ語源をもつ。

なお、日本の学術用語としての星座名は、平仮名または片仮名で表記することになっているので、「乙女座」ではなく「おとめ座」と書く。


姉はん星について

第7節 おとめ座
◎アネサマボシ、アネハンボシ
 増田正之氏によると、アネサマボシ(八尾町〈現・富山市〉)、アネハンボシ(高岡)が伝えられている。アネサマボシは、「六月に南に見える」とあり、増田氏はスピカと同定している。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房

ちなみに、「アネサマボシ」が伝わっている八尾町(富山市)では、うしかい座α星アークトゥルスを「アンサマボシ」(兄様星)と呼んでいる伝承もあり、春の夜空に姉と兄がいるということになる。

スピカとアークトゥルスの対を「春の夫婦星」と呼ぶこともあるが、これが古くからある呼び方であるという情報・証拠は見つかっておらず、日本のプラネタリウム解説に特有の文化の可能性がある。


真珠星について

スピカの和名といえば「真珠星」というのを聞いたことがある人もいるのではないだろうか。
有名な呼び方だが、実は「真珠星」は、フィールド調査や文献調査で確かめられた「昔から伝わる伝統的な星名」ではない。
「シンジボシ」という星名を、野尻抱影氏や内田武志氏が「真珠星」と解釈した、というべきであろう。

 わたしが、この星の和名らしいものを見つけたのはただ一つ雑誌《民間伝承》三ノ三に、宮本常一氏が、福井三方郡日高でいう星の名の一つとして、「シンジボシ 六月の八時頃上る。白色で小さい」と挙げていたのにすぎない。
(中略)
こうして、多少強引ではあるが、この星の済んだ白光りを真玉・白玉にたとえた〈真珠星〉と解して、その和名に用いてきた。それから約四十年後の今も、これ以外に発見した名はない。
 大戦の末期、海軍航空隊から常用恒星に和名をつけるよう依頼されたとき、この名をスピーカに当てた。

出典:野尻抱影 (1973) 『日本星名辞典』 東京堂出版

恒星は航海・航空の目印となるため、軍事的にも必要な情報だったが、戦時中、恒星名の敵性語も除くため、軍に依頼された野尻抱影氏が「スピカ」の和名として「真珠星」と命名したのだ。
これがいつしか「昔から伝わる伝統的な星名」と誤解され、プラネタリウムや書籍によって広まったようだ。


空に姉はん星を見てみよう

6月の夜、スピカは西に傾いてきている。
まずは、南西の空を見上げて、正三角形に並んだ明るい星を探そう。
春の大三角を見つけたら、その左下の一角が「姉はん星」だ。
ちなみに、春の大三角で一番明るく、高いところに見えるのが「兄様星」うしかい座α星アークトゥルスなので、一緒に見るのもいいかもしれない。

2023年6月15日21時の南西の空(石川県七尾市)


参考文献

北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房
野尻抱影 (1973) 『日本星名辞典』 東京堂出版

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