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オススメの英語ポッドキャスト

この数年、英語圏ではポッドキャストが流行っているらしい。通勤中など別のことをしながら聞ける手軽さが魅力として大きいけれど、それだけではない。ここ数年で作り手もオーディエンスも急激に増えて全体的に質の高い作品が増えている。中には映像化される作品も出てきて、海外ドラマファンでもポッドキャストが気になっている人はいると思う。

ポッドキャストはとにかく作品数が多い。おそらく制作コストが映像作品と比べてずっと低くて個人でも作れるのが理由で、それは多様な声を拾い上げることでもあるから魅力の一つだ。人気の作品はアメリカ発のものが多いけれど、ドラマや映画と比べると発信地も多様。ただし、気になっている人にとっては最初に聞く作品を選ぶのが難しいほどに多い。

そこで、ここでは特に質が高くて初めて聞く人にオススメの作品を選んで紹介する。私自身ポッドキャストを頻繁に聞くようになったのは一年ほど前からなのでまだ聞けていない作品も多いし、どうしても好みに偏りはあるけれど、参考にしてもらえたら嬉しい。

ポッドキャストのカテゴリー

作品紹介の前に、ポッドキャスト市場はまだまだ成長途上で、配信方法、カテゴライズなどがメディアによってまちまち。特にカテゴライズには個人的に不満を覚えることが多い。大抵作品が扱うトピックをそのままカテゴリーとして表示している(音楽、政治、科学、など)けれど、これはおそらく最近の急成長の前の、ポッドキャストといえば数人のホストが特定のトピックについて会話するのを聞く形式がほとんどだった頃のままになっている。

今でもそのような形式の作品は多いけれど、そうでない形式の作品も増えている。この形式の違いは大きいのにそこをきちんと反映しているリストを見たことがない。なのでここではそれぞれの形式についても簡単に説明しつつ、形式ごとにお勧め作品を紹介する。リンク先の公式HPでどのプラットフォームで配信されているか確認できるが、ほとんどはメジャーなプラットフォーム(Apple Podcast, Google Podcast, Spotify, etc...)のどこでも聞けるはず。

会話系(Conversation)ポッドキャスト

最もスタンダードな形式で、ホストが特定のテーマについてわりと自由に話し合う形式のポッドキャスト。この形式はとにかく数が多いので、どんなニッチなテーマでもまず間違いなくいくつかは取り上げている番組が見つかるはず。TVのトーク番組の延長のように有名人がホストをしていたり、エンタメ系の番組も多い。以下はとりあえず私が定期的に聞いている番組。

1. Pod Save America/the World (週二回、約1時間/週一回配信、約1時間)

オバマ政権で働いていた若手スタッフが立ち上げたCrooked Mediaの看板ポッドキャスト。当然リベラルの視点から現政権への批判が鋭いのはもちろん、民主党内部への批判も多い。Pod Save Americaはアメリカ国内政治、〜the Worldは国際関係をそれぞれ扱っている。他にもカルチャーを扱う〜the Peopleなどがある。

2. Longform(週一回配信、約1時間)

その名の通り長文のエッセイやコラムをまとめているサイトLongformが、優れた文章の書き手にインタビューする番組。新聞記者等のノンフィクション作家へのインタビューが多いけど、稀にフィクション作家が登場することもある。インタビューの質が物凄く高い。

3. New Yorker Fiction Podcast

これまでニューヨーカー誌に掲載された短編の中からゲストの作家が好きな作品を選んで朗読し、それについて編集者と話すポッドキャスト。短編をよく読む人ならほぼ間違いなく好きな作家が好きな作家の作品を読んで語る幸せなコラボレーションが起こるので、チェックしておいて損はないはず。

語り系(Narrative)ポッドキャスト

ここ数年のポッドキャスト人気を先導しているのがこの形式。ほとんどの場合事前に推敲された原稿があり、ホストがエピソードごとまたはシーズンごとにまとまったストーリーを語る。入念な取材の上に詳細な原稿を作成する必要があるため、会話系より時間もお金も手間もかかっている傾向がある。中でもトゥルークライムポッドキャストはいくつもの媒体で毎週特集が組まれるほど人気。

1. This American Life(週一回配信、約1時間)

元祖Narrative Podcast。毎週一つのテーマに沿って3つほどのストーリーが展開される。大体のストーリーは実話だけどたまにフィクションもある。1995年に始まり今でもラジオの電波でアメリカ国内各地で放送されているご長寿ラジオ番組のポッドキャスト版で、国内外でこの番組に発想を得た類似番組が作られている。ポッドキャストのフィードは一定期間以上は遡れないけれど、公式HPには全エピソードがアーカイブとして残されていて聞くことができる。

2. 99% Invisible(週一回配信、約30分)

ほとんど気づかれることもなくてもこの社会は隅から隅まで誰かのデザインが行き渡っている。そういう普段は気づかれない隠れたデザインを解説する番組。こちらはインディペンデントとして始まり、この番組をきっかけに独立系ポッドキャストのネットワークRadiotopiaが作られた。余談だけれどホストのRoman Mars氏はことあるごとに他の番組やレビューで触れられるほど魅力的な声の持ち主。

3. Slow Burn(1シーズン約30分×8話、シーズン2まで配信済み)

シーズン1ではウォーターゲート事件、シーズン2ではクリントン大統領の弾劾を取り上げて、今となれば「これ以外の帰結はありえなかった」と思える出来事が実際にはどのように展開し、リアルタイムでどのように報道され、当時の人々にはどのように受け止められていたのか、を伝える。多数の人名等の固有名詞が入り乱れる中でリスナーを退屈させず置いてけぼりにもしない伝え方、シーズン通してのペース配分が素晴らしい。

4. The Daily(平日配信、約30分)

NYタイムズのニュースポッドキャスト。その日の重要ニュースを取り上げて伝えるニュースポッドキャストはいくつもあるけれど、開始以来常にApple Podcastでダウンロード数トップを走り続けるこの番組は一日1トピックに限定して詳しく解説するのが特徴。基本的にはホストが話題となるトピックの担当記者にインタビューしていく形式だが、ときどき普段よりも時間をかけて準備された回があってそういう回は特に完成度が高い。少し前になるが、6月10日〜14日までのヨーロッパのナショナリズム特集がとても良かった。

5. Ear Hustle(二週間ごとに配信、約30分、シーズン4配信中)

かつて悪名高かったカリフォルニアのサン・クエンティン州立刑務所。そこに収容されている服役囚の「住民」と外部のボランティアが組んで刑務所内の生活事情を伝える番組。毎回決まったテーマについて何人かの住民にインタビューをして刑務所内のメディアラボで編集、音楽も住人たちが作った曲が使われる。昨年末に共同ホストを務めるEarlonne Woodsが恩赦を受けて釈放された。

6. White Lies(約1時間×全7エピソード配信済み)

公民権運動の最中にアラバマ州セルマで殺害された白人の牧師の未解決殺人事件を追う作品。トゥルークライムだけど、事件の解決と同じかそれ以上にこの事件を「未解決」にしたその土地の住人の心理にフォーカスしているのが特徴。

7. Bear Brook(約30分×10エピソード配信済み)

1985年と2000年にニューハンプシャーのBear Brook州立公園付近で見つかった4体の白骨遺体の捜査を追うトゥルークライムポッドキャスト。身元不明のまま数十年経った被害者の身元を調べるためにそれまで犯罪捜査では使われたことがなかった手法が取り入れられた過程や、その結果明らかになった同一犯による別の未解決事件も取り上げつつ、被害者とその家族を中心に据えている。

8. The Anthropocene Reviewed(月一回配信、約20分)

作家のJohn Greenが脚本家兼ホストとして「人類の時代をレビューする」番組。何でも五つ星でレビューがつく時代を逆手にとって"他人の名前をググる"行動から1ペニーコイン、テトリス、さらには"一目惚れ"まで、歴史を辿り個人的な感情も混ぜて述べられる詳細すぎるレビューの数々。その中でも最新の"Sycamore Trees"のレビューはどこまでも内省的で哲学的、詩のような美しい文章。

9. Have You Heard George's Podcast?(約30分×全8エピソード配信済み)

詩人でミュージシャンのジョージ・ザ・ポエトが作ったこのポッドキャストは詩/ラップ/モノローグ/会話/フィクション/政治的声明などが入り混じって一体となって脳を刺激し続ける30分間×8。彼のビジョンと合わせて現在の最先端とその先のポッドキャストの可能性を見せてくれる作品。

Honorable mention: Serial

2014年にシーズン1が配信されるやいなや一気にブームを巻き起こしたトゥルークライムポッドキャスト。今のポッドキャスト市場全体、特にトゥルークライムの人気はこの作品を外しては語れない。私自身も後追い勢の一人なので当時の人気は直接目にしていないけれど、サタデー・ナイト・ライブ(SNL)でパロディーが作られて放送されていたと聞けばその勢いがわかるかもしれない。シーズンごとに違う事件を取り上げる。This American Lifeチームの制作で、現在シーズン3まで配信済み。

フィクション(Fiction)ポッドキャスト

語り系にまとめられることが多かったけど、最近ようやくフィクションがポッドキャストのカテゴリーとして認められるようになった気がする(祝・Apple Podcastにフィクションカテゴリー誕生)。たった数人で作り始められた作品から出演者・機材ともに豪華な作品まで規模の差が激しい。でもそれが質や人気に直結はしないのもフィクションポッドキャストの魅力の一つ。

1. Welcome to Night Vale(月二回配信、1エピソード約30分)

多くの人をフィクションポッドキャストの世界に引きずり込んできた驚異の作品。架空の砂漠の町Night Valeのコミュニティラジオの放送という設定でほとんどがホストのCecilの1人語りで進行する。語りの大半がナンセンスに聞こえるのになぜか物語として成立し、さらには時々社会批評に聞こえることさえある不思議で怖ろしいけれど美しい作品。一応一話完結だけど全体でも緩やかにストーリーが繋がっていて、特に最近はその傾向が強めなのでできれば最初から聞くのがお勧め。躊躇う向きには公式HPに載っている初めて聞く人向けの単発エピソードからどうぞ。また、この作品のクリエイター陣がNight Vale Presentsとして様々なフィクションポッドキャストの配信を支援している。

2. The Bright Sessions(全4シーズン82エピソード完結済み)

超能力者専門の精神科医Dr. Brightと彼女のセラピーを受診する主に10代から20代の患者たちが主人公の群像劇。X-MENに親近感を覚えながらスーパーヒーローにはなれない超能力者たちがセラピーを通して自分の能力を言語化し受け入れていく様子は超能力や精神疾患の有無に関わらずインスピレーションになるはず。そしてその能力を表す言葉の鮮やかなこと。82話は多く見えるけれども、シーズン1は一話15分前後、その後も5分程度のミニエピソードもあるのであまり気負わずに。

3. Wooden Overcoat(1シーズン約40分×8話、シーズン3まで配信済み)

イギリスの架空の島Island of Pifflingで町唯一の葬儀屋を営むRudyardとAntigoneのFunn兄妹。そこに完璧なEric Chapmanがやってきてもう一軒の葬儀屋を開くからもう大変。Funn Funeralの従業員Georgieを含めた4人のキャラクターの濃さとナレーターを務めるネズミのMadeleineの語りが楽しいシットコム。

4. MarsCorp(シーズン2まで配信済み)

火星のテラフォーミングを担う会社から現地に派遣されたE. L. Hobが目覚めたのは予定よりも何百年も先の未来の火星だった...から始まる常にハイテンションなオフィスコメディ@火星。地球人とは全く違う「火星人」たちの奇想天外な言動に妙なリアリティがあって可笑しい。

Honorable mention: We're Alive

私がポッドキャストを頻繁に聞くようになったのは一年前くらいからだけど、この作品はその数年前に聞いていた。おそらく今のフィクションポッドキャストの先駆けといえると思う。ゾンビもので、大規模アクション・揺らぐ人間関係・緻密なストーリーライン等をポッドキャストという媒体でも表現できる、ということを見事に示してみせた作品。ただし、特にシリーズ序盤はミソジニーが酷く、人によっては聞くのも苦痛かもしれないので注意。完結済み。

非英語ネイティヴが英語ポッドキャストを聞く

もともと英語圏のドラマなどに馴染んでいても、英語ポッドキャストは字幕はないし音声だけということでハードルが高く感じる人がいるかもしれない。確かにほとんどがネイティヴ向けに作られている上に翻訳などはない。最初はそのまま聞くのは難しいかもしれない。でも、スピードを調節したり、台本を文字で追いながら聞いたり(公式HPに台本を乗せている作品は結構ある、なくても有志が文字起こししてくれてたり)、と工夫すれば意外と理解できる方は多いはず。同じようにポッドキャストを聞きながら勉強している英語学習者の同志も世界各地にいる。

今回紹介した作品以外にも、面白いポッドキャスト作品はたくさんある。上に挙げた作品を入り口に、他の作品も聞いてみてほしい。そこには映像作品とはまた違う世界が広がっているはず。

#Podcast #英語 #ポッドキャスト #海外ドラマ

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