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加賀美ハヤトの『少女レイ』は“新訳”である(かもしれない)

 お久し振りのダイマ記事です。
 にじさんじ所属Vtuberの加賀美ハヤト氏が2023年8月19日に『少女レイ』の歌ってみたを公開しました。
 これがもう大変良いので、とりあえず1回聞いてください。


この少女レイ、強くね?

少女レイ』は2018年7月18日にリリースされた、みきとP作詞・作曲・編曲の初音ミクの楽曲。Youtubeで2863万再生、プロセカにも収録されており、多くのカバーが存在する人気曲です。

 夏らしく透明感のある爽やかなメロディとミクちゃんの優しい歌声が非常に心地良いのですが、その歌詞で描かれるのは陰りのある恋の物語。MVを見る限り、女学生同士の青春と切ない恋とそれ故に生まれた悲劇です。
 このギャップが大変魅力ある曲な訳でして、多くの歌ってみたverではこの原曲の方向性に沿ったものとなっています。(個人的にプロセカのセカイverも大変好きです。雫さんが……特に好みで……)

 そんな曲を、加賀美ハヤトが歌うとどうなるか。
 聞いた方はまず思うでしょう。「……なんか強くね?」と。

 男声なのに原キー進行という点で驚く人もいるかもしれませんが、それは序の口。
 少女の姿は微塵もMVに出て来ないし、学生ですらない、成人男性がひたすら強く強く叫ぶ愛の歌。
 これを踏まえてみると、この曲の良さが改めて見えてきたのでそちらも綴ってみようかと思います。

これまでの加賀美ハヤトの歌

 加賀美ハヤトは非常に様々な側面を持っている人物なのですが、歌だけに絞っても大変顕著です。

 古参リスナー(社長のファンだけでなく、にじさんじ全体をある程度俯瞰的に見ている方)ならば、まず上がるのは「ロックンローラー」の側面だと思います。
 初配信でオリジナル曲『WITHIN』を引っ提げ、3Dお披露目配信でほぼ全編に渡ってリアルタイムロックバンドライブを行い、今年に入ってからはENライバーのIkeやFinanaとNOCTURNAL BLOODLUSTの『T.Y.R.A.N.T』を歌ってみた動画をぶち込んで来るなどなど。
 デスボイスが出るライバーの1人であり、ステージ慣れした社長が大暴れする姿を見たことがある方は多いかと思います。
 特に最新のオリジナル曲『22』はその真骨頂なのでそちらもよければお聞きください。「好き勝手やった」とのことですが本当に好き勝手やってるのが1回聞けば分かると思います。

 その一方、実はバラード系もいける口。
 古くは『月のワルツ』などでそれが分かるのですが、最近特に高音(ファルセット含む)がどんどん上手くなってね?と思っておりまして。
 4周年ライブのFANTASIAで「神降臨」と称された『ハミングバード』が最近動画として投稿されましたが、そちらを見れば加賀美ハヤトはロックだけでないと思うはずです。

 他にもROF-MAOではアイドルっぽさのある曲から「えっそれ大丈夫?」と思うような曲(※提案は社長)を歌っていたり、ゲームとのコラボ曲である『篝火』やにじさんじ甲子園2021優勝賞品である『Flying High』などなど、まぁ色んな曲を歌ってきた訳です。

 ただ、そんな加賀美ハヤトでも『少女レイ』は一体どうなっちゃうんだと多くのファンが思ってました。
 生命力バカ高で声量お化けな社長とほぼ真逆に位置する曲です。原曲のイメージ通りに歌うなら社長のイメージから外れるし、パワフルに歌ったら原曲から大分離れるのではないか。それはそれで面白いんじゃないか?とかもちょっとは予想してました、が。

 実際に出て来たものは、確かに“強い”ものではあれど原曲を崩すことはなく、それでいて更に“拡張”する――さながら“新訳”という印象がありました。

少女レイは百合の話ではないという可能性

 これまでのイメージだと、少女レイという曲は女の子同士の恋物語(いわゆる「百合」)。実際原曲MVだと2人の女学生が踏切にいるので、私も普通にそのイメージで捉えてました。
 曲のモチーフになった『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』というドラマも少年同士の愛憎が描かれてるんで、本来なら同性愛の物語な訳です。

 ただ改めて歌詞だけを見ると、別にそんなことないんですよね。
 主人公(語り手)の一人称は「僕」だし、「爪を突き立てる 不揃いのスカート」は「君(少女)」と「他のクラスメート」のものと思えば、主人公が男子であっても何ら問題は無い。

 しかも加賀美ハヤトバージョンのMVを見て気付いたんですが、少女と主人公が同年代である必要すら無い。
 つまり「少女と成人男性」の組み合わせであっても成立するんです。
(何ならいっそ成人男性側が教諭でもいい。その場合「好きな教え子を追い詰める」という形になりゲス度が大変増すんですけど、それでも成り立つというのはなかなか衝撃でした)

 それ以外にも、「少女と同年代の男子の悲恋→成長した男子が当時の様子をフラッシュバックしている」という見方とか。
 原曲通り「恋をしているのは少女と少女」だけど「それに横恋慕した男子が悲劇を招き、成長後にそれを弔っている」という見方とか。
 物凄く穿っている自覚はありますが「性自認は女性の少年と、彼が好きで彼のことを少女だと認識している少年(の成長した姿)」なんて見方もありかもしれない。
 何なら「好きな人を喪った後、学校卒業に伴い子供時代の自分を殺して大人になった」という解釈もありだったり。
 原曲MVにあった少女2人から「花束(花の種類的に明らかに弔花)を手向け、苦悩する成人男性」という図案になるだけで、これまでの少女レイのイメージには無かった物語の可能性を色々見せてくれた訳です。

 ちなみに、加賀美ハヤトって催眠術に掛からないし霊的なものに煙たがれるというのがROF-MAOで判明しています。
 そこで気付いたんですが、私これまで“君”の霊が存在していると思い込んでいたんですよね。だって原曲MVにも居るし。ラストの「透明な君」は霊だから半透明なんだろうと思っていたんです。

 でもやっぱり改めて歌詞を見ると「とり憑かれて仕舞いたい」と言っていて、つまり「取り憑かれたいと願っているだけ=実際には取り憑かれてはいない」とも取れる。そして「透明な君」は本当に透明なので見えない、「僕を指さしているというのは僕が望んだだけで実際はそんなことは無い(それも見えない)」と考えることもできる。
「こんなに恋い焦がれているのに幽霊にすらも出会えない」という悲しみの可能性を考えて、気付いた時にOh…となりました。多分呪いがあったとしても君から僕じゃなく僕から僕へ掛かってるよコレ。

 こんな風に、加賀美ハヤトが歌ったというそれだけで、色んな可能性やこれまで気付かなかったことが見えてきました。新訳だなんて大仰な言葉をタイトルにも付けましたが、「別の見方に気付いた」というのが正しいです。
 勿論原曲の方が好きとかこんなん邪道だと感じる人もいると思います。寧ろそっちの方が多いかもしれない。
 けれど「こういうことかな」と思っていた曲について、歌う人物とMVが変わったことで「あれ? 実はこうとも考えられるのか?」と新たな側面を見出す瞬間って、滅茶苦茶面白いと私は思うんですよね。解釈の自由っていいなぁと常日頃思う次第。
 なのでこんな記事で長々と語らせてもらいました。ちなみにこれでも抑えてる方だよ! 妄想広げようと思ったらもうちょっといけるよ!

「加賀美ハヤトの少女レイ」に感じたこと

 改めて感想を述べると、まず何より、加賀美ハヤトの歌声がすんごい。
 でも強いは強いんですが、その中に「慟哭」と称していいぐらいの悲哀を含んでいるのが特徴的だと思います。

 これも強くアピールしたいんですけど、加賀美ハヤトは普段の配信だとハイパー陽キャかつ楽しさを生み出すエンターテイナーなんですが、歌に関して言えば「泣き(哭き)」のニュアンスを入れるのが滅茶苦茶上手いと思っています。

 悲痛・後悔・罪悪感・憎悪・嫉妬、それにより引き立つ愛や思慕や欲望。真っ直ぐなのに若干の危うさも含むような揺らぎ、滅茶苦茶好き。
 普段彼は自分の恋愛観や女性観をほぼほぼ語らないんですが、歌になると情熱を全力をぶつけて来るのもすごく良いです。
(楽曲から恋愛観等が分かるという意味でなく「歌は全力」という点を気に入っています。ちなみに歌詞ならFワードだろうが結構セクシャルな表現だろうが本当に何でも言うので未だに私もちょっとビビる時ある)

 また、この世界観を後押ししているのがMV。
 今回は望月淳先生がイラストを担当しています。『パンドラハーツ』『ヴァニタスの手記』を描いている方ですが、儚くも美しい加賀美ハヤトの描き方がまぁ上手い。
 普段の彼が見せない苦悩や激情の表情に加え、ラストの微笑が歌と相俟って深みを出していると感じました。本当に「青」の使い方が見事です。
 演出や歌詞の出し方もシンプルながらに原曲のイメージに沿っていて、歌声と合わさると絶妙な距離感になってとても好きです。

 ここから先は考えるな感じろの世界になると思うので、どうかご自分で見て聞いて、その“強さ”と“危うさ”を確認してほしいです。

 そしてもし「こういうの好き~!」ってなったら是非こちらも聞いてみてください。
『PIERCE』という加賀美ハヤト作詞の曲です。がっつりシャウトが入ったロック曲なんですが、歌詞を見て頂けると根底の部分は今回の曲とそう変わらないことにお気付き頂けるかと思います。
 もう一度言います、加賀美ハヤト作詞です。

おまけ

フラッシュバック

 MV投稿翌日の『なつもん!』配信中、偶然タイムリーな風景が出て来て笑う社長。見てるこっちも既視感ある~!って思ってました。

 この配信の冒頭でほんの少し語られていますが、詳細はまだ焦らされつつも今回の歌ってみた、偶然の産物だそうです。
 どういう偶然があったら歌動画が出来上がるんだとツッコミを入れたくなりますが、配信内外問わず小さな奇跡は彼を見ていると稀によくあるので、そういうこともあるのかもしれません。実際出来てるし。

 そもそも加賀美ハヤトと出会えて、彼がこれまで概ね恙無く活動してくれていることもある種の奇跡だし、誰かがこの記事を読んでくれていることも私にとっては最高の幸運です。
 そんなに凄い奴なのかとか、いいから歌動画の詳細を教えろと思った人は、加賀美ハヤトのチャンネルを登録して今後の配信をお待ちください。
 動画についていつ語ってくれるかは分からんけど普段のゲーム配信も面白いよ。なつもんシリーズも普通にオススメなので皆見てね。

 過去に書いたダイマ記事も宜しければどうぞ。


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