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思い出の駅舎と晴れ渡る空

十月初旬。夏が終わりを告げ、秋が香り始めて数週間経った頃。
長い間地元を離れていたけれど、仕事の関係でこっちに帰ってきた。

懐かしい匂いとちょっと新鮮な匂いが鼻腔をくすぐってくる。うちの地元は金木犀がたくさんあってこの季節になったら地域全体が金木犀の香りに包まれる。神無月なのに神様に守られているような気がして安心する。
なんてね。
金木犀の香りがするとちょっと嬉しい気持ちになる。

こっちに帰ってきて新居と実家を数日行き来して、やっと新居にも慣れてきた頃。

その日の私は先週の出勤前、支度中にチークを落としてしまって片付けてから家を出たからいつもより遅い電車になってしまった。

駅のホームで「やってもたな(º ⌓º )ポケー」ってなってました。朝ごはんを食べていないことを思い出した。
お腹すいたなぁ〜

無心で反対側のホームを眺めていたら目の前を亡くなったはずの親友が通りました!?
見間違えるはずのない当時限定色だった空色のヘッドホン、シュシュでまとめたサイドテール。

私は自分の目を疑う前に「明祢!」と呼んでしまっていた。

Σ(;゚ω゚)ハッ!!と思った時には遅くて私の前を通り過ぎた女子高生が振り返っていました。
しまったなぁと思いながら謝ろうと一歩踏み出そうとした瞬間、「はる姉!?」と声が返ってきた。

そこで電車が来たので、無理やり固まった体を動かしてなんとか彼女と同じ車両に乗り込みました。

私の頭の中は困惑でいっぱいでした。
はる姉と呼ぶのは明弥の妹、琴祢ちゃんだけ。

私はここから回想列車に乗ってしまい、琴祢ちゃんの言葉には生返事で返すことしかできずにいましたが、この回想は一人でゆっくりやろうと思い立って私が乗り換えのために電車を降りるまで、明祢との思い出や私との思い出、最近は写真部で写真を撮っているなど。貴重なお話をたくさん聞かせてもらった。
過去を思い出して目から溢れ出すしょっぱいものを流さないようにすることに必死になってた。
すごく懐かしくてもっと話していたかったけれど、私の乗り換え駅まで来てしまったので名残惜しいけどここで琴祢ちゃんとはお別れ。

琴祢ちゃんは私が電車を降りる時に「ここではる姉と会えたのは何かの縁か、たとえ偶然でもお姉ちゃんに感謝しなきゃね会えて良かったよ。またね。」と言って一枚の紙切れを渡してくれた。
私はそれを大切に受け取って電車を降りた。

そこには琴祢ちゃんの携帯番号が書かれていた。
裏には、"また連絡するね"と可愛い丸文字で書かれていた。
私が回想している間に書いたのかな?
いつ書いてたのかわからないや。

では、ここから私の回想列車へのお乗り換えをお願いします。

明祢は元々シングルマザーの母親に育てられてたけど、親御さんが再婚して妹ができたのは中学の頃だったと思う。

私が高校の時に明祢と一緒に琴祢ちゃんをお迎えに行ったのはいい思い出だよ。
琴祢ちゃんは明祢とは父親が違う。
幼少期からそのことはハッキリとしていて、明祢はいつも「ことちゃんはね、私よりかわいいんだよ」と妹を絶賛して可愛がっていたっけ。

明祢が亡くなって10年近く経つ。
私はそのことを受け止めるのにゆっくり時間をかけて落ち着かせていたっけ。空白の日常を送っていた時期もあったけど仕事の都合上、出張で地元を離れることになって琴祢ちゃんに遭遇することも少なくて、通勤と通学の時間も違ったから全く遭遇することがなくて、さっきの再会は奇跡だよきっと。

乗り換えして職場までの道のりは、琴祢ちゃんと再会した感動と、自分より可愛いと絶賛していた明祢と琴祢ちゃんが瓜二つでやっぱり姉妹なんだなと思って「貴女(明祢)も可愛かったんよ」と独り言が溢れた。

前述にも書いたけれど、私は仕事の都合で地元を離れたのは事実だけど、気持ち的な話をすると出張することで私自身の心も落ち着いたように思う。
これは勝手な想像でしかないけれど、明祢が私を地元に連れてきてくれたのかもしれないと「いつまで出張に行ってるんだと、琴祢に元気なはるの顔を見せてあげてほしいと、そう言われてる気がした。
そう思ったらなんだか目元が熱くなって色んな感情が湧いてきた。
出社前だからグッと堪えていつも通り会社に向かうけれど。

この再会も偶然なんかじゃないのかもしれない。
明祢が繋いだ縁なのかもしれない。
今日の空は快晴で、雲ひとつない青空です。
なぜか見られている気がして、空に向かってありがとうと伝えた。
いつだって笑顔が眩しかった貴女。
空色のヘッドホンをワンポイントアクセサリーだと言っていたあの頃が昨日のように思い出される。
私たちはいつから親友になったのかなんてもう覚えていないけれどこれは悪いことじゃないと思う。
だって、初めての出会いを忘れてしまうほどたくさんの思い出が積み重なっているってことだと思うから。

最後まで明祢は明祢の言葉を私にくれた。
他の誰にも紡げない彼女だけの言葉を届けてくれた。
私は何度もその言葉に救われた。
私は明祢を言葉で救えたことはあっただろうか。
私の中に明祢の言葉が生き続けているように、
明祢の中にも私の言葉が生き続けていたらいいなと思う。

木場 晴架


原案:ひめえる 様
執筆:柚月

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