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虹みたいな転校生(柚月まお ver. )
梅雨が明けた七月のこと。
青い空を見るのはいつぶりだろうか、傘がないってなんて身軽なんだろう。そんなことを思いながら教室に入ると我が校に転校生が来ると連絡があった。
ワクワクしないわけがない。だって、ぼくの隣が空いているから。
ソワソワしているという方がしっくりくるか? そんなことはどうでもいいくらい心に熱をもっていた。
朝礼が鳴り皆が席に着いた直後担任が教室の扉を引いた。
ぼくは手のひらに人の字を書いて心を落ち着かせる。
クラスメイトも口々に「どんな子かな」 とか「可愛い子かな」 とか。
転校生にプレッシャーしか与えないようなことを言っている。
「そろそろいいか、転校生を待たせているんだ。」
しびれを切らした担任が口を開いて声を吸収した。
「入っておいで、雨谷虹実さん」
そう言って扉の外へ声をかけた。
「はい」
返事が聞こえて扉が開いた。
転校生の名前は雨谷虹実<あめや ななみ>さん。
由来は虹みたいにみんなを幸せにしてほしいというのと実りある人生にしてほしいという意味が込められているらしい。素敵すぎる。
そこから朝礼が終わって雨谷さんがぼくの隣の席について話しかけられた。話しかけられたというと聞こえがよくない。話しかけてくれた。
「今日からよろしく雨谷です、雨谷でも虹実でも呼びやすい呼び方で呼んでね。」
『ぼくは深坂幸司<みさか こうじ>です。ぼくも雨谷さんの呼びやすい呼び方で大丈夫です。』
「じゃあお互い苗字で呼び合うことにしよっか。それと最初は敬語でもいいけどゆっくりタメにしていこう。」
『はい、ゆっくりゆっくりと』
謎の緊張で思うように喋れない様になって機械みたいに復唱していたら雨谷さんに笑われた。
あ、笑顔かわいいな…。
***
そんなこんなで授業は順調に進んで放課後になった。雨谷さんめっちゃ頭いい子だった。クラスにもすぐ溶け込んでいたし、転校生ってだけじゃなくて人柄もあるんだろう。人柄も頭もいいってなんだ。尊敬してしまう。そんなことを考えながら帰り支度をしていたら雨谷さんに声をかけられた。
「ねぇ、今日はありがとうね、おかげで助かったよ。」
『いいえ、ぼくは何もしていないですよ、雨谷さんの人柄が良いからでしょう』
「なぜ深坂くんは謙遜をする? 褒めは受け取らんと損するぞってね。助かったのは本当だよ。だって初めての私にいろいろ教えてくれたじゃん。」
『だって事実初めてなわけでわからないかなというのとお隣さんだからですよ。』
「ん〜かたいなぁ、なんで緊張してるの?」
『なんでってそれは雨谷さんがかわいいからですよ。…あ。』
「ふ、ふーん、なんだ初対面のかわいい女子にそんなこと言えるじゃん。」
『あれは、口が滑ったというかなんというか…否定はしませんけど。』
「じゃあ口滑らしておきなよ、かわいい虹実ちゃんが隣にいるうちはね。」
『隣にいるうちはってどういうことですか?』
「それはまだ秘密ね、深坂くんは私に対する敬語を早くとること!
また明日ね。」
また明日と言う前に雨谷さんは教室を飛び出していた。
虹の素を晴らすようなキラキラした女の子。
幸福の兆しのような転校生。
もしかしたら雨谷さんに出会えたことが幸福なのかもしれない。
そんなことを考えながらみかん色に染まる空をみた。