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人を呑む家

「人間を呑む家、というのがあるんだとさ」
羽田谷大輔は目の前の空き家を指さした。

羽田谷たちは年季の入った日本家屋の裏口の前に立っていた。この屋敷の紅葉が映える広い庭園には雑草が少なく、窓に目立った汚れもない。よく手入れされていたが、人気がない寂寥感は隠しきれなかった。

「とてもそうは見えないねえ」
手元の資料に目を通していた、相棒の間嶋は目を眇めた。
この資料には、この家に入ったまま戻らない人がいると報告が上がっていた。

この家の相続主の長男、その弟と息子。調査で入った不動産屋の店員2人、この町の町内会長、捜索に入った警察官1人。
そしてここに入ったかは不明だが、付近では行方不明事件が多数発生しているとの調査結果もあった。


間嶋は資料を閉じ羽田谷に手渡した。羽田谷はそれを箱に放り込んだ。
「間嶋、何か見えるか?」
「ハタさん、僕の目にも何も見えない。この家は隠すのが巧妙すぎる」

二人は霊障物件専門の清掃会社、山井田霊障衛生社の社員である。霊障被害が発生した家屋で除霊とお清めをするのが二人の仕事だ。
「間嶋が見えねえなら、クソ厄物件確定じゃねえか」
「どうする?」
「とりあえず、裏口から潜入させたドローンの調査結果を確認して…」

唐突に裏口の扉が爆発した。屋敷から大型の物体が大音響と共に高速でドローンを粉々にしながら飛び出したのだ。
「うわあっ!」
二人は地面を転がるように物体をかろうじて避ける。間嶋はすぐそばに落下した物体を見るなり悲鳴を上げた。
「ひ、人の死体ッ!」


裏口から巨大な剣のようなものが外へ伸びていた。
羽田谷は息を飲み、腰の除霊用グロッグに手を伸ばす。

人の倍はある蜘蛛のようなものが屋敷の中にいた。それはパイプ、ホイール、機械の部品、鉄くずを集めたおぞましい鉄の蜘蛛だ。その中心部には円型の物体が貼り付き青い光を羽田谷へ向けている。
その円型の物体は羽田谷は見たことがあった。

「あのロボット掃除機か?」


【続く】


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