テート美術館展に行った話

国立新美術館で開催中の『テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ』に行ってきた。
ターナーの絵画が目当てだったが、その他にも見所が沢山あり、ボリュームたっぷりの展示だった。

中でも自分の印象に残ったのは、ジョン・エヴァレット・ミレイが晩年に描いた《 露に濡れたハリエニシダ 》という作品だ。

スコットランドのとある森林の開拓地で秋の朝日に輝く露の様子を捉えた作品である。
前景に描かれているワラビやハリエニシダを覆う露の表現がとても美しく、情緒がぐちゃぐちゃになった。
絵画表現としては繊細な光が漂う優しい雰囲気を放つものの、画面全体の薄暗さからは「生きることへの不安」や「死が救いであることへの期待」を思わずにはいられない。
霧で拡散した朝日の様相も手伝って、あの形容し難い「秋の早朝の哀愁と静寂感」が完璧に表現されている、そんな印象を受けた。
こういった情緒をぐちゃぐちゃにされる体験が出来るから美術館は好きだ。
ちなみにこの絵画はカンヴァスサイズが173.2×123cmと、思いの外大きい。
没入感があるわけだ。

露に濡れたハリエニシダ

ところで、露の光の表現方法について、解説文にはこう書かれていた。

彼はこれらの露をコンスタブルの有名な「雪」の効果を想起させる白い顔料の斑点で表現したのだった。

『テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ 展覧会図録』

コンスタブルの「雪」とは、彼が「光のきらめき」を表現する際に用いた、パレット・ナイフを使って純白色を軽く画面に打つ技法によるものだ。

露-そよ風-咲き初めた花、そのひとつとしてどんな画家も、これまで完全にカンヴァスに移し得たものはない。

『風景画論』 ケネス・クラーク 佐々木英也 訳

そう言ったコンスタブルだったが、ミレイの《 露に濡れたハリエニシダ 》には驚いたに違いないと思った。
《 露に濡れたハリエニシダ 》は1889~1890年に制作された絵画であり、その頃、彼は既に没後であるため、実際に見ることは叶わないのだが…。

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