簡単に模倣できるプロダクト
珪藻土バスマットみたいなものは、技術的に作れてしまうと、差別化がかなり難しい商品なんだろうなと思います。
デザイン的な要素も小さいですし、機能面や耐久性なども複数同時に比較しにくく、結局、価格や買い易さみたいなものが、商品の販売戦略に大きい要素を占めてしまうものです。
珪藻土をバスマットなどに応用して商品化したのは、ブランドとしては、多分、soilが初めてだと思います。今は、会社としても切り分けられ独立法人になっているようですが、元々はイスルギという金沢にある老舗左官業を営む会社の新規事業としてスタートしたものです。
僕がsoilを初めて知ったのは、TV番組の「アメトーク」のお風呂大好き芸人じゃなかったかなと思います。サバンナの高橋さんが絶賛してて、その場ですぐに気になってネットで調べて購入した記憶があります。
初めて自身で使ってみて、体験した時は、やっぱりすごく感動したんですね。水がさっと引いていく様子はマジックみたいだし、それが楽しくて、あえてお風呂からずぶ濡れ状態で出て、soilの上に立つ、みたいなこともしょっちゅうやっていました。
その後、しばらくして、珪藻土を活用した商品が市場に一気に増えていったと思います。コースターやら湿気防止用のキッチン用品やら。soil自体も、色んなお店で取り扱われてるのを見るようになりました。
そして、もう7年ぐらい前なんですかね。こんなニュースがありました。ニトリやカインズが発売する珪藻土商品に基準値を超えるアスベストが混入してた疑いがある、ということで回収になりました。
この二社が発売している珪藻土プロダクトは、soilのそれと較べても、かなり安いです。例えば、ニトリのものでいくと、幅29cm×奥行39cmのバスマットで、税込1090円です。
似たサイズのsoilのバスマット「ジェム バスマットS」(幅28.5cm×奥行42.5cm)だと、6,050円(※表記はないけど多分税抜)です。
圧倒的な価格差です。soilの価格がメーカー希望小売価格(って今は言っちゃダメなんだっけな?)だとしてもです。この価格差は凄いです。
あの時の報道を見てると、カインズもニトリも、珪藻土商品を中国のとある企業に委託製造しており、同じ工場を使っていたようです。
大量発注、大量生産で、単価を落とし、誰もが気軽に手に取れる価格にし、大量に販売する。ニトリもカインズも、必ずしもこの商品単品で利益を上げる必要はないので、価格設定も強気に出られるのだとは思います。もちろん、この価格で発売しても利益が取れるぐらいに、安価に仕入れているのだとは思いますが。
一方、soilは高すぎるんでしょうか? 実際の製造がどうなってるのかは分からないですが、僕自身は、この価格が高すぎるとは全然思わないです。
なぜなら、自身の経験上でも、このバスマットは最低2年は使えるからです。僕は多分、3~4年ぐらい使ってたと思います。大してメンテナンスをしてなくても、かなり長期にわたって吸水力を保ってました。
むしろ大手さんの価格は安すぎると思うんです。販売力がある、すでに流通網がある。これぐらいの価格ならこれぐらいの量は捌けるだろう。そんな予測での価格帯なんだと思います。それがビジネスと言えばそれまでですが、こういうことを続けてると、本当にいずれ日本ではモノは作れないということになりそうだなと思うんですね。
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モノが安価に手に入りやすくなることは悪いことではないと思います。松下幸之助さんの水道哲学ではないですが、企業の社会貢献のあり方として、モノが誰にでも気軽に手に入れらえるようにしていく、ということも一つの哲学だとは思うからです。それによって救われる人も多くいるのは事実です。
上記のバスマットを見た時、デザインは殆ど一緒です。耐久性とか機能面では差はあるのかもしれませんが(soil以外を使ったことがないので僕には判断できない)、ただ、あの価格差があると、普通、どっちを選ぶかと問われれば、殆どの人は安い方を選ぶのではないでしょうか。しかも、多分、カインズやニトリのほうが店舗も多いし、気軽に手に入れやすい状況だと思うんです。
でも、僕は、あえて、ここはsoilを選びたいと思うわけです。それはやっぱりオリジナルを生み出したことへの敬意みたいなものもあるし、日本でモノづくりを続けていくためには、誰かがそれを応援していく必要があると思うからです。
最近は海外でも高品質なものが作れるので、日本製だから安心だとか高品質だというわけではないと思います。先のバスマットへのアスベスト混入の問題も海外だから、中国だからというのではなく、むしろ問題の根本は、モノを大量に販売する、大量に流通させる、そのために安くする、あるいはその逆も然りですが、安くするために大量に売る、というこのビジネスモデルや構造にも問題があるように思えるんですね。
特に、模倣が簡単なプロダクトというのは、すぐに大量/安価を実行する大手が現れる傾向があるなと思います。そして、その製造を請け負う会社は、大抵無理を強いられるんですね。こういうプロダクトを大手が自身で工場構えて作るなんてことはあんまりないわけです。どこかに作らせる。請け負う側は殆どの場合「量」で売上を確保しないといけないビジネスに入り込むことになる。最初は売れるので、どんどん作る、儲かる!ってなるわけですが、ずっと売れ続けるわけがないですからね。
特に、今の日本みたいに人口減少、高齢化が進む市場で、モノがずっと売れ続けることなんて基本ないわけです。売上が落ちてくる。そしたら、価格を下げる。それの繰り返しです。そのうち限界価格まで落ち着いて、もうこれ以上は安くはならない、みたいなところにたどり着くわけですが、その時には製造側は悲惨な状況になってるんです。利益率が悪化していくなか人も増やせない、職人も高齢化してる。そしてモノが作れなくなっていく。一方で、オリジナルを生み出したsoilみたいなところも、似たようなものが安価に大量に供給される市場の中で生き残っていくのも大変です。soilはそこはすごくしっかりブランディングを行い、ファンを獲得して生き残ってますが、日本の工芸とかが典型的だと思いますが、大半の工芸が「大量/安価」なものに駆逐されていってしまったわけです。
競争力がないところが淘汰されるのは市場原理だから仕方ない、という声もあるでしょうしそれは理解できるんですが、でも、なんか自分で自分の首を絞めてる気が僕にはするんですね。ニトリもユニクロも商品もいいしね、価格も安い。僕も愛用しているアイテムもあります。でも、じゃあ、選択肢が洋服ならユニクロ、家具ならニトリに全部なってしまって良いのか、というと、それは凄く悲しいことだなと思うんですね。
大量に出回り、安価な商品で済ますのもいいですが、同じ機能を持ったものであっても、作り手の思いだとか情熱だとか、こだわりが詰まったものを敢えて選んでみるとかですね。生産者や製造に興味を持って、そこに少し関わりを持ってみるとかね。そういう意思決定や行動が消費の場面で増えていかないと、多分、世界はどんどん面白くないものになってしまうんじゃないかなと思うんですね。