V字回復の経営から考えるベンチャー企業におけるマネジャーとして大切な5つの視点

三枝匡著の『V字回復の経営』を再読する機会に恵まれたので、現在の自分の仕事とを関連させて書評をまとめてた。

本稿の筆者である私は、30名規模の教育ベンチャーで1つの事業の責任負う立場(*)である。事業の戦略の再考を行うタイミングで、頭をモヤモヤさせていた折に、たまたま本書を再読する機会に恵まれた。

10年以上前に読んだものだが、状況が変われば再読の発見は大きいものであった。以降は、本書を通して気づいた自身の"マネジメントの不足"を明らかにし、事業を預かる立場として重要なマインドと行動をどう変えていくかをまとめていく。

*以降の内容と関連するので、前提として補足をすると、自社は事業と機能のマトリックス組織を採用しており、本書に出てくる赤字事業部と同じ組織体制である。そこで私は、事業責任(戦略作成と実行及び損益責任)と機能側において営業組織の統括をしている。

■本書の内容を簡単に説明すると・・・

大企業(コマツの販社がモデルと言われる)の赤字事業部門を再建(ターンアラウンド)する企業経営小説である。著者であり書籍内の主人公のモデルとなるのは、ミスミグループの元CEO三枝匡。

主人公の黒岩が社長の肝入りで赤字続きのアスター事業部に召喚され、組織の実態を把握し、改革のためのタスクフォースが結成され、再建のためのプラン作成と実行という流れで事業再建の流れに沿った構成で物語が展開する。

不振事業の症状50から炙り出される"自分のヤバさ"

本書では「不振事業の症状50」「改革を成功に導くための要諦50」いうチェックリストが物語の中で登場するのが特徴で、
例えば、不振事業の症状50をいくつかピックアップすると以下のような内容だ。


症状1:組織内に危機感が無い。一般に企業の業績悪化と社内の危機感は逆相関の関係にある。

自組織も人が増えて、危機感や緊張感は創業当時よりは薄まっているんだろうなと半ば達観しながら読み始める。しかし、


症状28:トップも社員も表層的な数字ばかりを追いかけ、議論が現場の実態に迫っていない
症状36:営業活動のエネルギー配分が管理されていない。

このあたりから、自分自身の状況と結構当てはまっているかもしれないと認識し始める。
さらに物語中では、営業組織の実態把握をした上で、黒岩は営業部長を次のように評価する場面がある。

ところが総指揮官のクセに、マクロの戦略感覚が足りません。つまりマーケティングや全社戦略の感覚が足りないのです。
・・・(中略)・・・営業部長は営業マンと一緒に、竹槍持って野原を駆けずり回る出できだ。それが当社の伝統的考えでした。

この時点で「これ自分です、ごめんなさい」という感じで営業責任者として機能不全を主人公の黒岩に指摘されたよう気持ちであった。

ベンチャーにおけるマネジャーとは、マネジメント能力に優れているからそのポジションにいるのではなく、以前はその分野において一番の実務者(時にhigh-performer)であったということが往々にしてあるのではないか?
会社の成長とともに人を増やすが、リソースが十分な訳ではないので、プレイングマネジャー的に業務を行うことになる。しかしどこかでその配分(マネジメントvsプレイヤー)を自覚的にコントロールしなければいけない。


■本書の最大の山場-500枚のカード

本書の3章には改革タスクフォースのメンバーが事業の問題点をカード(多分ポストイット)に書いてそれを壁に貼流という作業を行う。
問題点が出尽くした時点で壁に貼られたカードは500枚で、それを前にメンバーが立ち尽くすようなシーンがある。黒岩自身もメンバーがいなくなった部屋で深夜一人この500枚のカードが貼られた壁を見つめる場面が特に印象的である。

この500枚は"歴代経営者の苦悩"と表現され、黒岩が深夜に500枚のカードを見つめる後ろ姿は経営者の孤独も表現していると考える。

改革を成功に導くための要諦50から1つをピックアップすると上記の状況に対して、次のように書かれている。

要諦7:停滞している状況をその会社の「社内常識」で分類しても、、抜本的解決の糸口は見えない。

■事業責任者に求められる戦略志向とは?

上記500個の問題を解きほぐしていったのは、「小さいな組織であるにも関わらず、開発-生産-営業-顧客までの距離が異常に遠くなっているのではないか?」という黒岩と共にタスクフォースをリードするコンサルタント五十嵐からの問題提起であった。

500個の問題を無理やりグルーピング化したり、対処療法的に解決を考えるのではなく、「顧客への価値提供が適切に行えているのか」「商売のサイクルは回っているのか」という問い立てをしたのである。

さらに「事業戦略の明確化」「商品戦略の明確化」「間接・サポート部門に関係するもの」という順でコンサルタント五十嵐は論点を設定し、タスクフォースのメンバーの議論をリードしていく。

「組織は戦略に従う。バリューチェーン別にボトルネックを探していく」言われてみればもののほんに書いてあることである。しかし業績不振という近視眼的になりがちな状況において、マクロ的な視点で自ら問題点を設定していくということが、事業責任者に求められる志向性なのではないかと考える。

■じゃあ今日から何を考え、どう動けばいいのか?

最後に本書を通して今日/今から次の5つの視点をまとめて本稿を終えていく。

1)顧客は何を求めていて、自分たちはその顧客ニーズの何を満たせているのか?競合はどう動いているのか?を思考する
2)上記顧客への価値提供のために自社(自事業)は適切な投資や組織体制となっているかを定期チェックする
3)顧客への価値提供とその実現ための戦略や組織に対してメンバーの想いがついてきているかを感じ取る
4)上記3つを実施するためにメンバーに移譲できる仕事を定期的にリストアップする
5)移譲はするがハンズオンによる実行支援の大切さを忘れない

終わりに・・・
エピローグでは、日産自動車のゴーンさんとアスター工販の黒岩の「行動の時間軸」や成果が表面化するまでに時間軸が共通しているという記載があった。奇しくも、ゴーンCEOの保釈報道がまだ記憶に新しいタイミングである。「事実は小説よりも奇なり」日本の代表的企業のV次回復の経営を実現した名経営者に改めて経緯を表したい。


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