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売りたくないのに商品

うちの社長こと原井さんが結婚するので、結婚祝いをあげようと思い、近所にある和紙の民芸品を扱う老舗、杉山和紙店さんに向かった。

そこのおっちゃん(店主)がいつも座っている座布団は、戦前から70年以上使っているそうだ。色の劣化はあるものの全然ヨレていないのを見て、和紙ってすごいなと思った。

だから、日頃からお世話になっている社長に和紙の民芸品をあげようと思った。

実は僕は、杉山和紙店さんにはいくつものお宝が眠っていることを知っていた。

以前、何の気なしに杉山和紙店に訪れたときのことである。

店主のおっちゃんと話をしていて、おっちゃんがうんちくを披露するたび、僕が興味を持って質問したり、いちいち「すげー!」と反応をするもんだから、気をよくして蔵の奥から次々とお宝を出してくれたのだ。

詳細は控えるが、とある人間国宝の希少な作品も見せてくれた。美術館に置かれているような代物だ。

しかしこの日は、どうも様子が変だった。おっちゃんが奥の作品を見せてくれないし、いつもより格段に不愛想なのだ。

今回の僕の立場は、作品を購入しようと思ってある程度まとまった金を持った客である。お宝を買う気まんまんの、客。警戒される意味がわからない。むしろ歓迎されるのが普通だろう。

最初はなぜそこまで警戒しているのかよくわからなかったが、おっちゃんの気持ちがなんとなくわかってきた。

お店の商品は、おっちゃんにとって自分の大事なコレクションであり、それを手放したくないのだ。しかも僕は秘蔵のコレクションも拝見済みで、価値も知っている。大事なコレクションを奪いにやってきた、A級の危険人物である。

お店は何かを売るところなのに、売りたくないときたもんだ。

おっちゃんが奥から出したくないと渋る。

頼む!見せてくれと僕。

その辺のうちわを指さし、結婚祝いならあれが縁起いいぞとおっちゃん。

絶対適当だろ!奥の商品買われても数100メートル移動するだけやからいいやろ!と僕。

そんな問答を繰り返し、交渉は1時間にも及んだ。なんとかおっちゃんを説き伏せ、奥のお宝をゲットした。しかも漆塗りの額まで手に入れた僕は意気揚々と帰路についた。おっちゃんは適当に指さしたうちわをおまけで付けてくれた。カニの絵が描いてあった。

しかしまあ、買い物するのがこんなに大変だったのは初めてだ。アマゾンと対極にあるお店、杉山和紙店。そこには愛がありました。

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