JOKER

公開されたばかりの映画で過分にネタバレを含みます。
読むかどうかは自己責任でお願いいたします。



 前評判の良かった表題作を公開日にIMAXへ観に行く。だいたいはNetflixかプライムに来るまで待つ方なので、これはなかなか珍しいが、題材的に興味があったので。
 前評判の高さは非常に分かる。とにかく、ジョーカーとなるアーサー・フレック役のホアキン・フェニックスの役作りがとんでもなく、最高と言われることも多い『ダークナイト』のジョーカー、ヒース・レジャーを凌駕しているといっても過言ではない。あくまでジョーカー=アーサー・フレックという人物に焦点を当てれば。
 が、実はストーリー自体は少し気になる点も。まず、これは好みの問題なのだが、「(実親による虐待などの)幼少期から続く負の連鎖の結果悪に染まる」という悪役側のテンプレには実は少し食傷気味で、「うーん、またこの流れかぁ」とはなってしまった。
 ヒース・レジャーのジョーカーも笑っているかに見える頬の傷に関して、実父に「いつも笑っておけ」と頬を切られたと虐待を匂わせるセリフがあるが、そこをメインには置いていなかった。
 しかも彼の場合、この傷に関する説明が毎回変わるのでただ相手を煙に巻いてるだけとも取れるし、逆にもしかしたら全部本当だとしたらむちゃくちゃ悲惨な人生歩んでるなと、ジョーカーらしいジョークの影に「悲惨な過去」を忍ばせるというとても見事なキャラ説明になっていた。
 今作はこの忍ばされていた部分を全面的に表に持って来たという内容なので(もちろん関連性はないけど)、「せっかく『ダークナイト』で上手い具合に秘めながらも匂わせてたのに、そこ持って来るかぁ」とは少し思えた。

 あと、この作品ではアーサーは精神的な病を抱えている設定となっている。物凄い種類の投薬を受けており、その費用は国の福祉という設定。それだけ投薬を受けていても、アーサーはストレスを感じると「高笑いする」という発作に襲われる。
 それが景気悪化に伴い福祉がカットされ、それに伴いアーサーの病状も悪化してゆく。近所のシングル・マザーを彼女と妄想するほどに。←これ、実は妄想と分かるのはかなり後半となってからなので、普通にそういうもんとして観てしまったため、追い詰められていくアーサーの心情に「とはいえあんな綺麗な彼女おるんやから腐るなよ」というあまり同情できない風になってしまった。
 さらには、この妄想のせいで、アーサーの起こした犯罪が「追い詰められた弱者の叫び」か「病による病状」かが曖昧になってしまった。これを是とするのであれば、秋葉原の事件や、京都アニメの事件なども「是」となってしまう危うさが非常にある。悪のカリスマとして独り立ちさせるには、精神の病は無い方が良かった気がする。

 良かった点で言えば、時代背景的に(80年代~90年代)モラハラ・セクハラ・パワハラなどを隠さずに描いているところ。アーサーはコメディアンを目指しているため、自然とコメディ・クラブの描写なども多いのだけど、そこで受けているジョークの大半は今ではセクハラに相当するもの。
 アーサーもネタ帳に「下ネタは受ける」と書くほどに。しかし、実際にステージに立ったアーサーは決してモラハラ・セクハラ・パワハラを言わず、ただただ受けない自虐ギャグのみを言うというのは、アーサーの優しさを匂わせるいい演出だなぁと思った。
 またアーサーの人物を掘り下げる必要性から、だいたいはどんな映画でも聖人君子として描かれているトーマス・ウェイン(バットマン、ブルース・ウェインの父親)がとても傲慢で鼻持ちならない嫌な奴として描かれていたところ。バットマン映画だと、トーマス・ウェインの死はブルースがバットマンという別人格を産み出すほどのトラウマなので、自然といい奴にしないと駄目なのだけど、やはり聖人君子はどこか嘘くさくもある。それが今作ではジョーカーに焦点を当てたため、金持ちの嫌な奴になっていたのは非常に良かった。
 さらにはブルースの執事、アルフレッド・ペニーワースも英国紳士ではなく、ただのチンピラみたいなのになってたのも違い。

 すごく面白い映画ではあるものの、少し残念な部分もあるかなぁと少し。

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