女神の見えざる手

 人道的な道徳精神など持っていないが、常勝・敏腕のロビイストである女性を主人公とした社会派映画。ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンは「勝つためには何でもする」有名ロビイストで、海千山千の政治家相手でも折れない態度から業界での権威も上がっていく。
 そんな中で新たに彼女にあった依頼は全米銃協会よりの「銃規制法案反対」の運動。「銃規制法案」の骨子はあくまで「銃購入時に身分証明が要る」というもので「銃所持できなくなる」ではないが、購入時のハードルが上がることで売れ行きが下がることを全米銃協会が懸念しての依頼。
 本来であれば自身の信念や政治的立場など異に介さないエリザベスであるが(これまでは自身の意見と真逆でもロビイ活動で勝たせてきた)、銃規制法案賛成の多い女性票を反対派に取り込もうとする依頼主のあまりに馬鹿げた宣伝文句「子供の安全のためにお母さんも簡単に買える銃を!」に失笑し、かつ自分が選ばれた背景が「女だから女の気持ち分かるだろう」程度だったことに反発。仕事を断る。
 しかし全米銃協会は巨大な組織のためクライアントを失いたくない、エリザベスの所属する大手ロビイ会社より再三考え直すように説得されるが、エリザベスは会社を去る。
 そのエリザベスを拾い上げたのは、銃規制法案賛成派ロビイを行う中小ロビイ企業社長ロドルフォ・シュミット(マーク・ストロング)。仕事としてだけではなく、信念で銃規制法案賛成を謳っている彼の会社と、「勝つためなら脱法も辞さない」エリザベスはことあるごとにぶつかり、エリザベスはこれまでの手法が使えず鬱々とし、ロドルフォは彼女になんとか正攻法で勝負して欲しいと説得を続ける。
 それでもエリザベスの奇策(法は犯していないが、当事者の心情は度外視する)で世論が銃規制法案賛成に傾きかけたとき、エリザベスによって「発砲事件の生き残りだがメディア出演はしたくない」という個人の心情度外視されて銃規制法案賛成の旗手と祭り上げらたエズメ・マヌチャリアン(ググ・バサ=ロー)が、銃規制法案反対の男に殺されそうになる。これを助けたのは、正式に登録された銃を持った元軍人。
 この事件で「やはり銃は必要なんじゃないか」と世論が傾き、同時にこれまでのエリザベスの脱法行為が問題になり聴聞会が開かれることに。

 長くなりましたが大枠の粗筋はこんな感じ。この映画で凄いなと思ったのは、ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンのキャラクター。仕事一筋の彼女に恋人はいないが、やはり欲望はあるのでエスコートサービスに金を払って男を買っている。事が終われば追い返して、そのホテルで仕事続けるという徹底ぶり。
 銃被害者であるエズメに対しても、「銃規制法案賛成」という立場から仲間と思っていたのに、勝つためなら彼女の事情などなにも考えずにテレビに引っ張りだし、社長のロドルフォとも手法で揉めるので何も告げずに実行するなどざら。
 これが「銃規制のためなら!」の道徳的行動なら途端に嘘くさくなっちゃうんだけど、「勝ちたいだけ」というただただ自分勝手、身勝手さが前面に押し出されていて、銃規制法案反対派(まぁ、こいつらもどぎつい嫌な奴らとして描かれてる)の策略にも「エリザベス頑張れ!」とはならず、「悪者同士潰し合え!」みたいな心情になってしまう。
 この視聴者側の心の動き重要で、ラストでまぁこの「悪者同士潰し合え!」が活きて来る、来る。聴聞会ではエリザベスの過去の脱法が明るみとなり、実刑は免れない事態に。
 判決を受ける前に一言言う権利でエリザベスは自身の反省を述べていく。ただ、「悪者同士潰し合え!」となっているので、彼女の反省の弁は心に迫るものはなく、ただただ上滑りするだけ。
 劇内でも、観ている方も白けた頃にエリザベスが「とか反省できる人間であれば……」と一気に論調を変えてまったく反省していない素振りを見せ、とあるURLを伝える。
 そこにアクセスすると、違法盗聴を駆使して入手した聴聞会議長である政治家と、全米銃協会会長のエリザベスを陥れるための策略会議の映像。「聴聞会の費用は税金から出るんだぞ」と最初は難色を示す議員も「じゃあ、他の議員にやらせる。君は今期で引退だな」などのやりとりがばっちりと映っていた。
 エリザベスは自身の投獄ですら、勝利のために利用して(違法盗聴も犯罪だが、過去の脱法でどうせ収監されるので)、銃規制法案賛成への布石に変えた。「同じ悪者同士」でも「望むのは自身の勝利」のみと「保身のために国税に手をつける」では圧倒的に後者の心象が悪くなるので、一気に視聴者の天秤がエリザベス側に傾く演出はただただ見事。
 エリザベスが元会社を去るときに裏切って残り敵側に戻った側近も実はと伏線が聞いていて、非常に見応えのある作品。かつ、主演を演じたジェシカ・チャステインに注目したくなった。

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