トラウマ溶けて

待ちに待った週末だ。美味しいご飯とお酒と読書と執筆だ。忙しい。

記録しておきたい心的現象が起こった。
私には、幼少期に大きなトラウマがある。詳しく書くのは控えるが、10歳の折にある暴力事件の被害を受けた。幾つかの齟齬と綻びが重なり、不幸にして巻き込まれてしまったのだ。
物理的な傷もさることながら、二次被害の方が長く心に残っていた。
その頃の私は、オカルトものの漫画や小説、心霊写真集などにはまっていた。当時テレビやなんやらで流行っていたと記憶している。そんなのを集中して読んだ夜は、ベタだが風呂で誰かが後ろにいるような気がして、バッと振り返ったりしたものだ。
しかし事件が起き、現実で恐怖に晒されると、そんなものは全く意味をなさなくなってしまった。結局一番怖いのは生きた人間なんだと痛感したからだ。フラッシュバックにも苦しんだ。
その感情を下手くそながら親に訴えた。すると「うるさい!」と一喝されてしまった。「あんな事はそうそう起きるものではない。心配する必要なんかない」と。
今にして思えばだが、親は親なりに責任を感じていたのだ。なぜあの夜、幼い我が子の動向を放っておいたのだろうと。つまりすでに痛めていた胸を、更に私に責められたと感じ、きつい口調になったのだ。その日以来、例えば習い事や塾で遅くなった時は必ず迎えに来るようになったことが、彼らの償いで反省だった。口は悪いが、本当に「心配する必要」をなくしてくれた。
ただ、当時の自分は何も言えなかった。人は本当に悲しいと、感情がフリーズする。何を感じたのかも覚えていない。その日以降、事件について口に出す事はなくなった。フラッシュバックは十余年続いた。関連して、摂食障害を発症していた時期もあった。

しかし歳を重ねてからはほとんど思い出さなくなってもいた。辛苦に見舞われたと言っても、長い人生のたった1日の出来事でもある。

最近、親しくなった人がいる。所謂「人たらし」で、とても自己開示が上手い方だ。にこにこと心を開かれると、こっちも自然に解放される。そのため、その方と話すと、自分がものすごく整理される。
そんなんで、気を良くした私は久々にディープな自己対話とアイデンティティの棚卸しを行なっていた。楽しくあれこれ考えていたのだが、足りない脳と洞察力が災いし、思索は割と早い段階で行き詰まった。助けを借りるか、と大好きな石井ゆかりさんのサイトへアクセスしたのだ。
私にとってゆかりさんは、占い師である以上に才能ある文筆家だ。彼女の文に滲み出る知性や教養の豊かさたるや。心から尊敬する書き手だ。
で、「あなたの隠された心の領域に影響を与えた人」というページをクリックした時に出てきた言葉。

もし、自分の半生を映画化したなら、上記にすぐ思い当たるだろう。しかし己を客観的に見る事は大変に難しい。正直、このフレーズを読むまでは忘れていた。もっと言えば二次被害が人格に影響を与えていたのに気がついたのもここ数年のことだ。思い出すとやはり辛いので、蓋をしていた。
でもこれも私の人生なのだしな。仕方あるまい。

当時の自分に会いたい。会って抱きしめてやりたい。「あなたは何も悪くない、被害者なんだ」と。傷ついて震えた少女をそっと撫で、心ゆくまで泣かせてあげたい。
それから、残念ながら「この世は地獄だ」と伝えたい。
慈愛に溢れた優しい人もいる、その人たちが作った天国的空間もある。でも基本的に世界は危険に満ちているのだ。我が身は自ら守らねばならない。武器は知識と知恵、経験だ。あの時の私は知らなかった。ただ地獄に怯え、身体を縮こませていた。安全と天国が欲しければ、自分から求め、作らなければならないのだ。
あと、どんな事も単なる偶然であり、生きとし生けるものは全て生きる事を赦されているとも。意味づけはただの後付けだ。
仏教的な考え、そしてフラットなものの見方や人生観は大人になってから身につけたものだが、実はこの事件が尾を引いていたのだと知った。私はあの夜を赦したかったんだな、きっと(加害者は許さないけど)。

そんなわけで、自分の知らない自分がぼこぼこ出てきた。
バラバラだと思っていたこれまでの出来事や獲得した思考・思想が、音を立てて動き、DNA塩基配列のように綺麗に形を成したのだ。びっくりした。
自分と真剣に向き合うとこういうことも起きるのな。歳をとるって本当に楽しい。

今回のことは、人との出会い、言葉との出会い、占いという俗世を離れたものとの出会いが美しく交わった結果である。
普段は小説その他のカルチャーで己を形成しているけど、少し視点を変えるとさらにスケールの大きなものと出会えるんだな。嬉しい。

トラウマ、だらだらと抱えて生きてきたけれど、ここに来て昇華の糸口に出会えた気がする。感謝しかない。
私の人生ここからだ。生きます。

ジュニアワールドが始まっている。島田高志郎くん爆推し中です。3A素晴らしかった、フリーも頑張って欲しい。

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