死者の声、予言の書「アンナチュラル」

野木亜紀子脚本『アンナチュラル』、全話の放送が終了しましたね。

もう、抜群に面白かった。毎回、リアルタイムを含めて3回は観ました。見れば見るほど引き込まれるから。知的な脚本、演出、リアリティある演技。どこを取っても隙がなかった。途中、世相とも絶妙に絡み合うミラクルがありましたね。連続殺人、ビットコイン、不正文書。予言の書かよ、と何度も思いました。「チーム・アンナチュラル」のプロフェッショナルぶりよ。
最終話は、まさに集大成。一話で出てきた毒がこんな形で再登場するとは。あと「生きた人間を診てこそ医者」と言っていた六郎が「法医学は未来のための仕事」と叫ぶ場面は泣けた。中堂先生が、思わぬ形で恋人と「再会」できたシーンも。「殺した奴」について、きちんと聞けてクソ良かったです。(ピンクのカバの話をお父さまが明かしたのも!)
この手の作品は、紆余曲折あっても最後に必ず勝つ、と分かっている。だからこそ、展開やコンセプトが重要だ。「チーム・アンナチュラル」は、視聴者の期待を大幅に超えてきた。理想と現実の狭間でもがくミコトたち、どんでん返しの応酬。前も書いたけど、良質なアメリカ現代小説を読んでいるようでした。

また、いいドラマにはいい音楽がつきものだ。
主題歌の米津玄師「Lemon」も素敵ですが、劇伴が本当に良かった。効果音も含めて完璧だった。得田真裕さんに大拍手をお贈りしたい。

時々挿入される、クラシックのセンスも素晴らしかった。

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3話、中堂の「クソ」発言を回想する場面のバックで流れたのは、スカルラッティのソナタ K.159 L.104。

王女の鍵盤練習用に作られた、大変愛らしい曲です。ハ長調の品行方正なサウンドに彩られた108回の「クソ」。少女の手習いと、態度の悪い中堂さんの対比が見事。ナイスミュージックでした。吹いたよ。

もう一つ。
9話、満を持して出てきた「赤い金魚」。殺害者の高瀬が行ってきたABC連続殺人、最後はAの「Asunder(バラバラ)」。BGMはブラームスの「ワルツ op.39-15 変イ長調」だった。

ちなみに変イ長調はドイツ語でAs dur(アス ドゥア)。「Asunder」の冒頭“AS”に由来していたのだろうか。アサンダーとアス ドゥアの発音はとても似ているしな。言葉遊びとも捉えられる。何という暗喩であろうか。
もっと言えば、ブラームスのワルツ集op.39は「家庭用ソナタ」として作られた経緯がある。虐待母に育てられた高瀬が、最後にシャバで聴いた曲としては、申し分ないくらいの皮肉だ。後から見返したら、六郎が末次編集長と喫茶店で話しているときにも、この曲が流れていた。つまり同時刻にAsunderが行われていた…、と考えるとゾッとする。
深読みしすぎかもしれない。しかし、そうさせるだけの力が作品にあった。

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フィクションの力を、存分に味わった。
これを見た有能な若者から、法医学者を目指す人が出て欲しいし、UDIのような組織が出来たら最高だ。
ドキュメンタリーやノンフィクションとは違う力が、ドラマや小説にはある。やはりフィクション、エンタメは世の中に必要なんだ、と改めて思い知らされた。

野木亜紀子さん、演出の塚原さん、そして「アンナチュラル」に関わった全てのスタッフ、役者さんに100万回の感謝を。
シーズン2を、心の底から望みます。
ミコトと中堂が、より強いタッグを組んで、不条理に立ち向かう姿がまた見たい。笑顔でプロの仕事をする東海林さんも、無事法医学者になった六郎も。それから、ムーミンを愛し「クソ」発言への耐性が出来た坂本さんと、UDIを守り続ける神倉さん、木林さんや毛利刑事にも!
気長に、しかし絶望せずに待っています。

旅の続きを。

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