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【オペラ日記 12】「ロベルト・アラーニャ ソロコンサート」スターテノールのスタイリッシュな歌を堪能

昨日6月9日(日)、サントリーホールで開催された、イタリア系フランス人テノール、ロベルト・アラーニャのソロコンサートに行ってきました。

イタリアオペラやフランスオペラでどの版がよいか迷ったら、往年の名盤から選ぶなら、三大テノールの一人プラシド・ドミンゴ、近年のものならロベルト・アラーニャなら間違いないのです。二人ともレパートリーが広いのに、一つひとつの役の完成度が高くて、裏切られることがありません。

ですので、これまであらゆる演目でアラーニャの映像を観てきた訳ですが、今回なんと18年ぶりの来日で、やっと生で聴くことができました。今回の公演のキャッチフレーズ、「待ち焦がれたテノール」というのは、多くの日本のオペラファンが心から思っていたことでしょう。

コンクールでパヴァロッティに見出され、「ポスト三大テノール」と言われて活躍してきたアラーニャも、すでに60代。舞台姿は未だ若々しく(白のジャケットがお似合いでした)、私が書かなくてもすでにたくさんの方が書いていらっしゃいますが、声も自然な響きが気持ちよく、歌い回しはこの上なくスタイリッシュ。私は2階の後方の席でしたが、全く問題なく朗々とした声が届いていました。今回は全てプッチーニのアリアでしたのでイタリア語のみでしたが、フランス語もイタリア語もネイティブという、オペラ歌手としてこれ以上望めないバッググラウンドを持つアラーニャは、歌詞が明瞭なことで他の追随を許しません。外国語だとしても、やっぱりちゃんと聞き取れない歌は、訴える力が弱くなると思います。

もちろん、高音のアクート(伸ばす箇所)は多少苦しそうなところはあるのです。でも声の響きはイタリアのきらめきそのものですし、キュンとする甘さもあり、歌の運びもうまいし、ほんの少々の難は打ち消して余りあります。聴けば聴くほど、もっと若手の歌手にも聴いてもらいたい、見本にしてほしいと思ってしまいます。まだまだ舞台に立ち続けて、気持ちのよい歌をオペラファンに聴かせてほしい、と切に思いました。本物のオペラの歌唱は、爽快感をもたらします。いつまでも聴いていたいと思いました。本編は聴き惚れているうちに、あっという間に終わってしまいました。

曲が終わるごとに舞台袖に戻るのに、指揮の三ツ橋敬子マエストラをどうしても先に歩かせようとしますが、遠慮されるので必ず横に並んで帰っていくし、袖に帰るぎりぎりまでいちいち観客に手を振っていたり、全方向の観客にあいさつしたり、声を向けたり、終始にこやかでした。明るく温厚で気さくな人柄がにじみ出る、素敵なステージでした。

コンサートの2日前が誕生日だったようで、オーケストラがアンコールの演奏に入るかと思いきや、「ハッピーバースデー♪」が演奏され、会場全体でお祝いしました。クラシックコンサートで初めて、舞台で出演者の誕生日が祝われるのを直接目にしました。この雰囲気、好きなんですよね。初めてが、アラーニャの61歳のお祝いで、光栄に思いました。

アンコールの最後4曲目で、「あと一曲だけ歌ってないプッチーニのアリアがあるけど何だと思う?」と問いかけ、観客が「ジャンニ・スキッキ!」と応じると、「問題は若い役なんだよね。でもやってみます。」とユーモアたっぷりの前置きで歌い始めました。結局、声が若々しいから全然違和感がないのです。最後は「今晩のフライトで戻るので、時間が限られていてごめんなさい」とコンサートを〆つつ、楽屋口でも多くのファンと語らってくれた神対応でした。

やっぱりオペラっていいなぁ、スター歌手ってすごいんだよ、と期待通りだったのがうれしい公演でした。


6月のオペラ公演は、英国ロイヤル・オペラ来日、ニューヨーク メトロポリタン・オペラ来日(演奏会形式)と大物が立て続けです。オペラ公演が日本に戻って来た感じが顕著です。楽しみが続きます。

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