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【オペラ日記 9】今年は2回味わえる大興奮 東京春祭 マエストロ・ムーティ指揮「アイーダ」

毎年楽しみにしている東京・春・音楽祭マエストロ・リッカルド・ムーティの演奏会形式のオペラ公演。2024年はヴェルディ作曲「アイーダ」でした。

これまで「リゴレット」(2019年)、「マクベス」(2021年)、「仮面舞踏会」(2023年)と続いてきましたが、今まで同じ演目で2公演に行ったことはありませんでした。オンライン配信で我慢したときもありましたが、毎年想像を超えた大興奮で終わるので、今回は予定されていた2回とも、東京文化会館に出かけました。

4/17(水)の公演は夜だと勘違いしていたのに、まさかの14時から。それでもほぼ満席でした。若干後悔していた不届きな私の思いをぶっ飛ばす、名演。世界のマエストロ・ムーティ(御年82歳)は、そして名物の東京春祭オーケストラは裏切りません。4/20(土)の公演も完売。1回目以上ともいえる大興奮でした。私の席は、1回目は4階左手、2回目は1階右手で、全く違う場所で、聴こえ方やオケの見え方が違って楽しめました。上では音がよりブレンドされていて、1階は一つひとつのパートの音がよりはっきりし、近くにいるパートの音量の方が勝ってしまう瞬間もありますが、音楽の組み立てがよくわかります。

私は「アイーダ」はあまり好きな方のオペラではなかったのです。派手なばかりで、繊細な描写に乏しいと勝手に思い込んでいたのですが、とんでもない。緻密な構成であるのが、マエストロの手で舞台上で示されていきました。

春祭オケは特有の熱気に今年も包まれて、マエストロのどんな細かな指示に応えようとときには繊細、ときには壮大に、場面に応じてエネルギーが自在に調整されて一つの楽器のよう。マエストロにかかれば、合唱もキャラクターがくっきりして響きが揃い、物語を壮大なものにするのに大きな役割を果たしていました。マエストロが日本の合唱は素晴らしいとおっしゃっていたことに十二分に応える内容で、自分たちもいつか「アイーダ」の合唱に参加してみたいと、一緒に鑑賞した友人と私に夢を与えてくれました。

歌手については両日とも、愛する人を手に入れられない嫉妬とその人を失う悲しみを歌う、王女アムネリス役のメゾソプラノ、ユリア・マトーチュキナへの拍手が一番大きかったです。マトーチュキナは昨年の「仮面舞踏会」のウルリカ役に続いての出演で、マエストロに実力を認められたのでしょうね。さすがの表現力でした。「アイーダ」では、アムネリスの方が感情の動きの激しい役柄だけに、かえって目立つのはあるあるですね。アイーダ役のソプラノ、マリア・ホセ・シーリは、これまで映像を観て思っていたよりずっと繊細な声でした。パワーより響きで聴かせる歌手でその点は好きですが、合唱やオケの迫力にかき消されていたシーンもあったのは、ちょっとばかり残念でした。ラダメス役のルチアーノ・ガンチも、冒頭の「清きアイーダ」では緊張が否めなかったものの(あれは開演してあまりにすぐで気の毒ですね)、イタリアン・テノールの声の響きを楽しめました。その他の歌手も、日本の方を含めてみんなよかった。昨年から継続のアイーダの父アモナズロ役のセルバン・ヴァシレも相変わらず好演でしたし、神官のランフィス役のヴィットリオ・デ・カンポも安定していて安心して聴いていられました。

春祭のマエストロ指揮のオペラは、多くの実力ある出演者がマエストロの期待に応えようと、揃いも揃って気迫の演奏を見せてくれるのが最大の魅力ですが、とりわけ印象に残ったのは、ソロ歌手の中では巫女長役のソプラノ・中畑由美子さんの伸びやかな声と、アイーダ役が歌う「おお、私の故郷よO patria mia)」に寄り添う旋律に歌心があふれていたオーボエの金子亜未さんの演奏でした。両日とも、マエストロがカーテンコールで金子さんとまず握手していました。このお二人の演奏を含め、日本でもこれだけのオペラ魂のある演奏が聴けると思えるのがいつもうれしくなります。ヴェルディのカッコイイ旋律が、ゾクゾクする演奏で次々に繰り出されるのは、痺れます。

マエストロの指揮下のオペラは隅から隅まで考え尽くされているので、一瞬たりとも気を抜けません。聴衆も長丁場を本気で聴かなければなりませんが、多分この世で聴くことができる極上の音楽の一つに違いないと思えるのは幸せなことです。観客にもそれが伝わるのでしょうね。1回目の公演は湧き上がるようなスタンディングオベーションで拍手がいつまでも止まりませんでしたが、2回目はそれ以上。すぐ帰路につく人はほとんどなく、1階席はスタンディングで惜しみなく拍手を送る人で埋め尽くされていました。あんな光景は東京文化会館で今まで見たことがありませんでした。

いつもマエストロのオペラ公演は、「イタリア・オペラ・アカデミーin東京」という若手音楽家への教育プログラムとセットになっているのですが、今年のアカデミーは春祭の期間中ではなく、9月に別途開催されます。次はヴェルディ・オペラの中でも上演回数がそれほど多くない「アッティラ」という渋いチョイスですが、マエストロのオペラが2演目日本で聴けるとは、今年はラッキーです。

ヴェルディ・オペラに関心のある方は必聴です。「クラシックの演奏会の大盛り上がりってどんなものなの?」と思う方にも是非9月に来ていただきたいです。すごいですよ。

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