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【オペラ日記 14】9/16も必聴 マエストロ・ムーティ指揮「アッティラ」奇跡のオペラ公演

いまだ残暑が続いていますが、オペラの季節が戻って来ました。

イタリアオペラの巨匠、マエストロ リッカルド・ムーティが、オーディションで選ばれた若い指揮者を直接指導する「イタリア・オペラ・アカデミーin東京 」が9/3から開催中です。コロナ渦を挟んでもさらにパワーアップして続いている、東京・春音楽祭主催イベントの第4回目です。

すでに指揮受講生によるお披露目演奏まで終了し、あとはマエストロ自身による世界の一流歌手を呼んだ演奏(舞台セットのない演奏会形式)が残るのみです。昨晩(9/14)、第一回目の「アッティラ」の公演が、アカデミー兼リハーサルも行われた、東京音楽大学池袋キャンパス100周年記念ホールで開催されました。

あと一回、同じ公演が9/16(月・祝)にBunkamuraオーチャードホールで行われます。

昨晩の演奏があまりにも素晴らしく、少しでも興味のある方にBunkamuraに聴きに来ていただきたいと、義務感にも似た気持ちで書いています。

私は一部アカデミーの聴講もして、リハーサルも聴いていますし、マエストロ・ムーティの演奏のそもそものファンですから大げさに書いているのだろうと思われるかもしれませんが、とんでもない名演でした。

マエストロが呼んできた歌手は、世界トップレベル。発表があったときにはこれが日本で聴けるのかと震えが来ました。イタリア・オペラの殿堂、ミラノ・スカラ座で2018/19シーズン・オープニングの演目が「アッティラ」だったのですが、そのタイトルロール(題名訳)のアッティラは、ロシア出身のバス、イルダール・アブドラザコフで今回と同じ。その他の主要な配役は、天下のスカラを超えてしまったのではないでしょうか。

イタリアのオペラ作曲家ヴェルディによる「アッティラ」は、多くが世界のオペラハウスの主要なレパートリーであるヴェルディの作品群の中にあって、滅多に演奏されることがない演目です。上述のスカラの公演を映像で観たときも、正直あまりピンとこなかったのです。それが、マエストロの手にかかると、爆発するエネルギーあり、荘厳さあり、繊細さありの音楽になって、正味2時間(オペラとしては短い方です😆)陶酔しました。

あらすじはざっとこんな感じです。

イタリアのアクイレイアを侵略したフン族の王アッティラが、殺された領主の娘であるオダベッラの勇気に感心し、自らの剣を与える。しかし、オダベッラはこの剣で父の復讐を誓う。アッティラはローマの将軍から同盟を持ちかけられるが、これを断る。オダベッラの恋人フォレストは、オダベッラがアッティラの愛妾となったと誤解しているが、オダベッラは復讐のためだと伝え誤解を解く。フォレストはエツィオ将軍と組んで、アッティラを祝宴の席で毒殺しようとするが、自らの剣で復讐を果たしたいオダベッラがそれを止める。アッティラはその褒美として、毒殺未遂の首謀者であるフォレストの処遇をオダベッラに任せると同時に、彼女を自らの花嫁にすると宣言する。しかし、新婚の床を逃げ出したオダベッラは、フォレストとエツィオとともに、復讐への運命の瞬間を迎える。

オペラとしては起伏が薄い😆印象のお話ですが、その分音楽がただただ美しい。おどろおどろしい復讐劇にも関わらず、ヴェルディ初期の作品だからか、作曲家も中身をこねくり回すことをせずシンプルに作品を構成し、ドラマの運びよりも音楽の美しさが優先されているようにも思えます。そこに世界でも超一流の歌手が、ソリストを務めるのですから、これはもう天国的な響きです。

アッティラ役の安定のアブドラザコフ。日本でのオペラ公演はほぼ初めてではないかと思うのですが、映像で観てきた通りの迫力と美声を披露していました。エツィオ役のフランチェスコ・ランドルフィは、イタリアの渋いバリトンで、心地よい雑音が混じるノーブルな声でローマの将軍を歌い上げていました。フォレスト役のイタリアン・テノール、フランチェスコ・メーリは、これまでも聴いてきた公演も素晴らしかったのに、さらにきらびやかな朗々と響く声を操りながら、哀愁までも感じさせました。大体バスより、テノールの方が体格的に劣るので、声の迫力も劣るはずなのですが、負けてなかったですね。響きがよい分メーリの方が迫力を感じたように思います。オダベッラ役のソプラノ、アンナ・ピロッツィは、ドラマティックな役で声量が迫力が必要でも、美しい歌唱を維持できる稀有な存在。迫力があるが、美しくは歌えないソプラノが多い中、イタリアを代表するソプラノのその実力に恐れ入りました。

東京春祭オーケストラは、いつも通り、客席に充分過ぎるほどの気合を届け、マエストロのタクトで信じられない美しいイメージを描きつつ、弱音と迫力のコントラストも自由自在。日本人ソリストも、マエストロが絶賛する合唱も、マエストロが思い描くオペラの情景を音楽で表現していて、すべてがはまったときの美しさったらないです。間違いなく、世界で有数の素晴らしい演奏を聴いている確信がありました。御年80歳を超えるマエストロ自身にとっても、最高の「アッティラ」だったのではないか、と感じます。

私ではこの公演の魅力を1割も伝えられていないと思うのですが、とにかく、こんな公演がもう一度あるということを皆さんに知ってほしい。こんな世界的な公演が、音楽大学の小規模なホールで聴けたことは本当に贅沢なことでした。

Bunkamuraは多くの著名アーティストの公演の舞台になってきた場所です。そこでもう一度、この世界で最も美しい「アッティラ」が聴ける。そんな新たな歴史的な瞬間をお聞き逃しなく。まだ少しチケットがあるはずです。オンライン配信もあるのですが、ぜひ生の音圧をお楽しみください。演奏会形式で初心者にはハードルが高いように思われるかもしれません。でもあらすじを頭に入れて、字幕をチラ見しながら、音楽におぼれてください。これがオペラです。

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