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エッセイ

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わたしがエッセイとカテゴライズしたものたち。
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記事一覧

エッセイとは

昔、エッセイに関する小さな文学賞に応募したことがある。 わたしがそこに応募した理由は、エッセイに対してのフィードバックを返してくれるという他にはあまり無い公募だったからだ。 自分の作品を読んでもらい、10名ほどの審査員が評論を書いて返送してくれる。わたしの世界が他人の世界にどう投影されるのかにとても興味があったので、その好奇心からわたしは偶然見つけた小さな文学賞に応募することにしたのである。 もう何年も前のことなので詳細は覚えておらず、 エッセイに関するテーマが設定されて

なんでもないもの

随分と久しぶりの更新です。 久しぶりも何も、年に数回しか更新しないこのnoteが生きていると言えるのかも微妙なところなんですが。 兎に角わたしは生きているので立ち上がる文字も生きているということです。 今回はなにかのテーマについて書くのではなく、 日常をつらつらと振り返ってみたいなと思ったわけです。 素行の悪かったわたしが32歳になって、 変わらず誰にも知られずにひっそりと息をしていることが、鉄格子のついた窓から社会を覗いている気分にします。 いま私が磨いたキッチンだ

青色の矛盾

飛び込み自殺が多い駅には、 青色のライトが灯っていると言う。 正確な理由は知らないが、 青色のライトを見ると自殺を思い留まってくれることがあるそうだ。 *詳しくはこちら 鮮やかに晴れた日の空を見上げると、 雲一つない青に吸い込まれそうになる。 この世の悪や汚れたものなど決して知らないような澄んだ青に、時々目を掠めては羨望に似た気持ちになったりする。 南国の海はどうだろう。 近くで見ると透けて見える水が、 俯瞰するとなんとも色彩豊かに染まった青が水平線の奥まで広がる。 世

忘却の四畳半

わたしがまだ、 ゆらゆらとした恋をしていた頃のお話だ。 ひとと出逢ったりイベントに顔を出すことが好きだったわたしは、なにかイベントがあるとひとりでも参加した。 だいたいは皆同じ穴のムジナ(別に悪事を働いている訳ではない)で、ひとりでの参加も多くみんな初めましての状態から仲良くなる。 その時も13人くらいだろうか、 集まっては小さいイベントを開いた。 年齢層が幅広くいろんな職業のひとがいて、 それもまた面白かった。 普段出逢えない類のひととも知り合える。 そこで

2020/04/16 自己紹介

自己紹介というタグを見付けたので、 あまり心が進まないが書いてみることにした。 自分で自分を語るなど、誰が楽しくて読まなくてはいけないのだろう。そう思うくらいにはnarcissisticなお題であると思っている。 経歴など書いたところで誰も興味が無いであろうし、生い立ちを書くにはあまりにも長い。 そしてまたこれも、誰が興味を持つのだろうという疑問は拭えない。 そもそも自分が考える自分と他人が考える自分は乖離していることが往々にしてあるので、自己紹介という不確かさに目が眩

深夜、28時39分

眠ることを諦めた夜の音は繊細に響く。 どこかへと向かう車の走行音や安い時計の頼りない針の音が交錯して耳元で騒ぐので、 消し去ろうと瞼を閉じれば余計、それが踊るようにありありとざわめき始めるのが分かる。 こんな夜には寝ようとしない方が正しいのだ。 どこか昂った神経が唇に熱を持たせ、 据え置きにされたわたしの眼が後を追うように爛々と月明かりを奪う。 今まで夜にどれほどの祈りを込めただろう。 遠い冬の星座にいくつの思い出を見ただろう。 生まれては消える僅かな思考の欠片を踏ん

最後の晩餐

最後の晩餐をご存知であろう。 明日死ぬと分かった時、最後に何を食べるだろうかという有り触れた話題に触れたことのある人は多い筈だ。 ひもじい思いをして最期を迎えたいという稀有な人間を除けば、多くが好物を指定することは想像がつくだろう。 背の低い冷蔵庫の前で私は体育座りをしていた。既に掃除を終え、整理された部屋はしんと静まり返っている。 もう夜だ。最後に何を食べようか。 徐に私は、抹茶のシュークリームを齧った。 (200字)

ブルーレイレコーダーの優越

先日、我が家にブルーレイレコーダーがやってきた。 知人から、「ブルーレイレコーダーの買い替えにあたり、希望者が居るのであればそれまでのものを譲渡したい」という旨の連絡があった。 そしてわたしは希望したのちに先着を勝ち取り、2009年製のブルーレイレコーダーを手にしたのだ。 元々、我が家にはブルーレイプレーヤーだけがあった。 それも随分と昔に買ったものだ。ブルーレイならパソコンで観られるはずなのに、なぜ購入したのかも覚えていない。 家電には人並みに疎く(使えるけれど詳しくな

恋のち討論

「降水確率が0パーセントだなんて、あり得ないと思わない?」 わずかに緊張の走る部屋で、わたしは小声で言った。 「99パーセントにすればいいのに。この世界の気象状況を完璧に予測することなんてできないと思う。万が一、億が一のために、1パーセントの余地は残しておくべきだと思うわ」 ラジオから流れる天気予報を聞きながら、わたしは不満を漏らす。 「90パーセントでも良いんじゃない」 恋人はそう提案をする。余地に厚みを持たせるつもりだ。 「そうね、90パーセントでも良い。でも、0パー

レビュー欄のエッセイスト

わたしは習慣として、観賞した映画と読了した本のレビューを書いている。 それぞれ別の場所でそれを記録しており、 映画は「Filmarks」という映画評価アプリで、 本は「Booklog」というウェブサイトで、作品ごとにレビューを置いている。 習慣とは言ったものの熱心に書き始めたのはこの一年ほどの話であって、それ以前は他のレビュワーさんのレビューを読んだりして、読み物として楽しませてもらっていた。 レビュー欄にはいつも自由なレビュワーさんたちが居て、あるひとは概要を、あるひ

写真

旅行が好きなので、よく写真を撮る。 それらは街並みであったり、アーティスティックなオブジェであったり、美味しかった料理であったりする。 移動をしては写真、食事を摂っては写真、を経て数日間の後、見返した時にはすでに写真が何百枚になっていたりして、自分がたしかに辿った旅をもう一度なぞることができたりする。 今日、一眼レフカメラやデジタルカメラの性能も上がり、お金があれば割と簡単にその性能を手にすることができるようになった。 いかんせんわたしにはお金が無いので、専らスマートフォ

姉の里帰り

里帰り、ということばがある。 元来、「新婦が結婚後に初めて故郷に帰ること」を言うらしい。 それならばこの正月、わたしの姉は里帰りをした。 去年、わたしの姉が結婚した。 姉が結婚するということは、わたしやわたしの家族にとってはやわらかい衝撃で、それはもう長い間、夫となるひとと一緒に暮らしていて当然のように思えたからでもあり、そして同時に、「本当に?」という衝撃でもあった。 それは、姉が国際結婚をしたからだ。 国際結婚をする、ということで、どんなことが芋蔓

わたしの恋人

わたしには五歳年下の恋人がいる。 恋人採用方式を辞めることにした、 と言ったのはいつだっただろう。 その時の恋人に厳しく裏切られた際に、恋愛には懲りてしまったと思っていた。 わたしの恋人(当時は違ったけれど)は、わたしの鬼門を軽快な足取りで搔い潜ってきた。そして無邪気に手を伸ばし、わたしをきつく抱き締めた。 「恋人になってください」と、 くぐもった声がした。 くぐもっていたのは、彼が恥ずかしさを露呈した、最初で最後の瞬間だったことが後になって分かった。 その時からわたし

世界中で恋をする

 私は今、いくつの恋をしているだろうか。  そもそも、「いくつも」するものなのだろうか。私は考える。 「恋をしている」と言うと同時に、「唯一無二」という概念が湧上るのだろうか?  私は声に出してみる。  「私は恋をしました」  度々キーボードでパソコンに打ち込んでみたり、たまにはペンを取って実際に字を書いてみる。それは赤色だったり、青色だったりする。消しゴムで消すことのできる、HBの濃さの鉛筆でも書いてみる。  恋って何なのだろう? それにいつ、できるものなのだろう?